カーマイン屋敷に果物
カヨは目を覚ました。瞼を閉じれば、また眠ってしまいそうな睡魔の中、私を抱き込む逞しい腕がある。
「……っあ」
ノアの名前を呼んだつもりが、声が上手く出ない。隣にいたノアが、泣きそうな顔で覗きこんでくる。重い手をあげてノア頬を触る。ノアは私を抱き起こして、水を渡してくれた。ちょっと慌ててたからか少しむせたけど、水を飲むたび身体にしみいってくる感じがした。おかわりをもらい、今度はゆっくり飲む。
飲み終わったら、ノアがコップを片付けてくれて、私どうしたんだっけ?と思い出そうとする。男爵家で昼食を食べて、お腹が痛くなったんだ。
「ぁかちゃん!」
慌ててお腹を押さえる。自身に鑑定を掛けると、状態が妊娠になっている。よかった。普通じゃない痛みだった気がしたから。
「カヨ、頑張ったね。この2日、君は目を覚まさなかったんだよ。心配した……っ」
ノアが私を後ろから抱きしめて泣いている。私は胸の下に回っている腕をゆっくり撫でた。そうか、2日も目を覚まさなかったのか。心配かけちゃったな。
「ごめんね、ノア。一緒に居てくれて、ありがとう」
ノアが落ち着くまで、じっとしていた。
お腹が鳴った私にノアは慌ててたけど、クリムを出して食べ始めた私に安心したようだった。穏やかに私のお腹を撫でている。ノアも食べるかと、もう1つ出したけどいらないみたい。ただ私が目を覚まして起きている事が嬉しいみたいだった。
「ねぇ、ノア、私どうしちゃったのかな?」
「カヨは男爵家の先代に毒を盛られたんだよ。スープに入っていたらしい。王太子殿下がすべて片付けてくれるから、心配いらないよ。犯人も捕まっているしね」
「えっ!私、何かしちゃったかな?」
「病気を指摘した事で、弱みを握られたと勘違いしたみたいだよ。カヨは何も悪くない」
「ルーシーさん家族に悪い事しちゃったかなぁ。恨んでるだろうね。家族が捕まったんだから」
「本当にカヨは悪くないんだ。通報したのは家族だったらしいから、善悪の判断はついてるよ」
「そうかぁ。みんな、いい人だったんだけどなぁ」
知らないうちに涙が流れてきた。人から殺したいほど恨まれたんだ。毒を食事に入れてまで。
「カヨは悪くない!いい子だ。私の大好きなカヨを責めないでやってくれ。お腹の中の子供にも良くない。カヨにはカーマインの家族がいればいいじゃないか。みんな、カヨの事が大好きだよ」
うんと言うが、衝撃的だった。他人だからどうでも良いなんて思えない。でも、確かに愛してくれる人がいる。ノアだけは私を裏切らない。私は振り返りノアに抱きついた。冷たくなった心を温めて欲しかった。
ノアは私を包むように抱きしめてくれる。優しさが嬉しかった。
結局私は泣きつかれて、また眠ってしまった。
起きたのは夜中だった。ノアが横で寝ている。心配かけてごめんね。一緒に居てくれてありがとう。
そうだよ、私怒ってもいいんだ。赤ちゃんを危険にさらされたんだから。母は強くなくっちゃね。ごめんね、大切にするよ。君が生まれるまでに強くなるよ。
水分補給だけして、ノアの隣で眠った。
朝、目が覚めた。ノアはまだ寝ている。
「おはようノア。大好きだよ」
「……カヨの声で起きるなんて、私は幸せな男だな」
「もう!寝たふりなんて酷い」
「今起きたんだよ」
ノアとおはようのちゅうをする。幸せ。
着替えて、朝の準備をしてから食堂に。中に入ると、一瞬でシンとなった。えっどうしたの?私のせい?
「カヨさん心配しましたよ。もう起きて大丈夫なの?」
「はい、大丈夫です。心配おかけしました」
「一緒に食事しましょう。家族は一緒にいなきゃね」
「カヨさん、もう大丈夫そうだね。よかったよ」
「カヨお姉ちゃん、もう元気?」
「うん、元気だよ。ありがとう」
嬉しい、嬉しい!みんなが心配してくれてた。ノアの言ってくれた通りだ。ここが私の居場所。
料理も私が食べられるように、さっぱりした物ばかり。料理長ありがとう。神に感謝を。いただきます。
料理長、天才〜!最近いつも同じ物食べてたから、違うものが新鮮。残念ながらノアの給餌は受け入れません。悪阻中ですから。
ノアをぎゅっと抱きしめて、仕事に行ってもらう。私は、どうしよう。実家に帰って果物の収穫でもしようかな。
瞬間移動でルーフバルコニーまで行く。収穫バサミを取り出してぱちんぱちんと収穫していく。果物はいくつあってもいい。2日間寝ていたから、身体が弱っている。無理せず身体が動かせるから、リハビリにはちょうどいい。
そうだ!お屋敷にも果物を植えさせて貰おう。そうすれば、料理長がいつでも食事に出してくれる。いい考えだと思った。地球通販で以前買ったぶどう棚を買いアイテムボックスに入れる。収穫バサミも買う。
午前中いっぱい収穫して、お屋敷に植える予定の果物の枝を枝切り鋏で切っていく。異空間住居に放り込んで屋敷に帰宅だ。瞬間移動でノアの部屋に帰る。
食堂に行くともうみんな、揃っていた。
「遅くなりました」
「いや、みんなさっき来た所だよ。昼食にしよう」
メイドさん達が準備してくれる。私の昼食はさっぱり系だ。ノアがソワソワしている。あっ、そうか、今日は待ってなかったからおかえりのバグが出来なかったからか。私はノアの手をぎゅっと握る。ぎゅっと握り返してくれた。愛情を感じる。好き。
食事をする時には手を外した。私はお兄様に敷地に果物の木を植えていいか尋ねる。
「いいよ。果物なんて高級品じゃないか。どんどん植えてくれていいよ」
すごくいい返事をもらえた。屋敷で野菜を育てている所があるから、そこかな?料理長に聞こう。
ノアが仕事に行く前にハグをして送り出した。さて、私は厨房だ。厨房に行き、料理長に「食事食べれるように作ってくれてありがとう」と言う。「仕事なので」と言うけれど優しさからきてるの知ってるよ。
果物を植える許可を貰ったのだが、どこに植えれば良いか聞くと料理長自らついて来てくれるようだ。
料理長が歩いて行く後ろをついて行きながら、野菜を植えている場所に出る。庭師の人がいるので、料理長がどこに植えていいか聞いている。庭師の人も一緒に行くみたいだ。案内してくれる。
野菜が植ってる横の空き地に植えていいと言われた。まずは大物のぶどう棚をアイテムボックスから取り出して、その左右に異空間住居から取り出した、ぶどうのつるをスコップで穴を掘り植えていく。全部植え終わったら、一つずつ魔力をたっぷり注いでいく。
急激に育つぶどうを料理長と庭師の人は唖然と見ていた。
ぶどう棚から綺麗にぶどうが吊り下がっているのを見て、満足の息を吐き出してから他の果物の枝を植えて行く。
全部植え終わって畑の外の一角が果物の森みたいになっている。プイの実は飛行魔法が無いと収穫できないから、創造魔法で飛行魔法が付与されたサイズ自動調整の劣化しない指輪を作り、料理長と庭師の人に渡した。
指に付けて飛ぶ練習をしている。2人共魔法が使えるみたいなので、すぐに飛べるようになるでしょ。
2人に収穫バサミを渡して、必要な時に収穫して下さいと言う。2人は頷いて返事をしてくれた。それと魔木だから剪定などはしなくていいことと、魔力があれば育つ事を言ったら2人共驚いていた。
屋敷に勤めている人の家族に収穫して、持って帰っていいか聞かれたので、良いと答えておいた。魔力があれば実が生えてくるからね。
カヨは魔力をたくさん持っているので知らないが、魔木を育てるには根付くまでたくさんの魔力が必要になる。種から植えても同様だ。自然の魔力から育てようとすれば、果物が実るまで100年はかかるだろう。カヨは魔力のごり押しで、果物の木を育てているだけだが、それが凄い事だという自覚は無い。
持って帰った従業員の家族が、カーマイン領の家で育てようと庭に植えるが、育つのは忘れて世代が代わりかなり立つ頃。カーマイン領は果物の領地と言われる事になるが、まだ先のお話し。




