獣人の番い 2
男性陣が仕事でいなくなった。ノアールの野郎、別れる時に口にチューしてこようとしたので、慌てて避けたらほっぺにチューしてきた。
なし崩し的に帰れない私。女性陣に捕まった。
「私のときはねぇ、生まれた時からこの領都にいたから、焦らなかったのよ。なんかいるのが当たり前で」
「お母様、羨ましいわ。私は村でミリアンが来てくれるまで、不安でしたのに。カヨさん出会いはどうだったんですの?」
「出会いですか……最悪でしたね。後ろからいきなり抱きつかれて。不審者かと思いました。周りも固まってましたね」
「まあ!情熱的!でも、その後祝福されましたでしょ?」
「そうですね。私は人族なのでパニクってましたが」
「人族は番いが分からないんですものねぇ」
「もったいないわ」
そうだよ、人族は分からないんだ。あの野郎と思えてくる。
ティモシー君とウィル君と遊びたい。ああ、無意識に癒しに目が行く。ティモシー君とウィル君は部屋の隅で遊んでいる。
「あの、ティモシー君とウィル君と遊んでもいいですか?子供が好きで」
「いいわよ、天気も良いし庭に行きましょうか。ティモシー、ウィル、庭に遊びに行くわよ」
わーいとこっちに掛けてくる。可愛い。
「何歳ですか?」
「ティモシーが7歳でウィルが3歳ね」
「可愛いですよね。天使みたい」
「天使?なぁにそれ?」
天使はいないのか。メンリル様は眷属だもんな。
「神様の使いって私の国では書くんですよ」
「あら!良い事言ってくれて。もう」
屋敷の中庭にいる。お母様方はガゼボの中にいる。
「何して遊ぶ?いつもは何してるの?」
「かけっこしたり、お絵描きしたりしてる」
「そうかー」
未来の家族になるならいいかと、ちょっと魔がさした。
「空飛んでみない?」
「空飛べるの?」
「私と手を繋いで」
子供達が私の両手を握ってくれる。こんな可愛い子達が。表現的に鼻血でそう。出ないけどね。
私は飛行魔法で上に少しだけ飛ぶ。子供達も地面から足が離れた。興奮して腕をぶんぶん振りまわす。手が離れちゃいそう。すぐに地面に下りる。
「飛んだよ!僕飛んだ!」
「ぼくも、ぷかーってなった!」
「また飛びたい!お姉ちゃん飛んで!今度は高く!」
「もっと!もっと!」
かなり興奮している。両手で繋いだだけで高い所飛んだら落下しちゃうんじゃない?そんな危ない事させられないけど、子供達は収まりつかないだろうなぁ。
そういや前にツブラになった時、飛行魔法が使える指輪作ったよな。それを指に嵌めたらもしもの時も危なくないんじゃない?
飛行魔法が使えるサイズ自動調整のミスリルの指輪2個創造!手の中に出てきた。
「今から空が飛べる指輪をつけるからね。外さないでね」
2人の中指につけていく。
「空を飛びたーいって思って」
「空飛びたーい!」
「そらー!」
2人の足が浮いた。こんなにすぐ使えるものなんだね。作っといてなんだけど。
「飛んだよ!一緒に飛ぼうか!」
「うん!」
「とぶー!」
両手を繋いで、さっきより高い所を飛ぶ。子供達は大興奮だ。慣れたら1人でも飛べるんだけどな。きゃっきゃはしゃいで可愛い。お母様方が気づいた。こっちにやってくる。
「あなた達どうして飛んでるの!?」
「危ないから降りてらっしゃい!」
2人共私から手を離して自分でお母様方の所へ飛んで行った。お母様方はあわあわしている。自分達の顔の高さで飛んでるからね。子供捕まえるのも一苦労だ。
ウィル君がぷかーっと空に飛んで行った。お母様方は半狂乱だ。私はウィル君を捕まえると下に降りた。ウィル君はまだぷかぷかしてる。楽しいんだろう。笑顔だ。
「危なくないですよ!飛行魔法が付与された指輪を着けているだけですから」
「お姉ちゃん空で追いかけっこしよ!」
「いいねーしよっか!」
ティモシー君が空に逃げる。私はまだ飛び慣れてないティモシー君をウィル君片手にゆっくり追いかける。
「ティモシー君、追いつくぞー」
「きゃーもっと速くー」
「きゃっきゃ」
お母様方は興奮が冷めたのか、呆然とこちらを見ていた。
子供達は空で遊び疲れたのか、部屋に戻ると電池が切れたように寝てしまった。中指から指輪を外しておいた。私はお母様方に説教?されている。
「危なくないのは分かりましたけど、一言言っておいて欲しかったです」
「そうですよ。そんなすごい物を持っているだなんて普通分かりませんからね」
「いや、そんなに凄い物では無いと思いますが」
「空を飛べる魔道具ですよ!凄いに決まってます!」
「お母様方も使って飛んでみますか?」
魔道具の指輪を見せると、2人は目を合わせて頷いた。
「そうですね。本当に安全なのか確かめなければいけないですね」
「そうですわね」
指輪を手に取り指につける。するとちょっと浮いた。飛びたい気持ちがあったのだろう。「きゃっ!」と声を上げるが、慣れたのか天井近くまで飛んだ。やっぱり子供より、想像力があるんだろう。スムーズだ。
「お母様飛びましたわ」
「ええ、飛んでるわね、私達」
ちょっと感動したみたいだった。前後左右に飛んでいる。スカートだから外じゃなくて室内でちょうど良い。
私は廊下に出てメイドさんに厨房の場所を聞く。連れて行ってくれるようなのでついて行く。厨房に着いたらメイドさんが料理長を呼んでくれた。私は食材を出せる場所を聞き、レッドドラゴンの肉と果物を沢山出した。
「ノアール様の番いのカヨと申します。この食材はレッドドラゴンの肉と私の家で育てている果物です。美味しく調理してくれますか?」
「レッドドラゴンの肉ですか!?それはまた珍しい!ドラゴン肉は美味しいと聞きますからな。果物も珍しい!これは良い物ですな」
「よければ従業員の方も召し上がってください。まだ沢山ありますので。何処に出せばいいですか?」
「それでは、我々の分はこちらにお願いします」
言われた所に果物を沢山出していく。料理長は感心したように見ていた。スイカを出す時だけは無駄に疲れた。大きすぎるんだよ。最後の方は料理長の顔が引き攣っていたような気がする。ドラゴン肉は別で出したよ。
私はマップでチェックした部屋まで戻る。大きいんだよね。この屋敷。
部屋に戻ったら、お母様方はまだ飛んでいた。楽しかったのかな?
私は子供達の天使の寝顔を堪能しましたとも。所で何の動物の耳なんだろう。犬っぽいんだけどなぁ。ちょっとふさぁっとしてる。柔らかそう。毛は白いな。子供の小さな顔に対して耳が大きいから可愛い。
お母様方は夕食を呼びに来た執事っぽい人に呼ばれて我にかえったようだった。子供達を起こして、みんなで食堂に行く。
子供達はまだ寝ぼけまなこだったが、食堂が近づくにつれて落ち着かなくなってきた。お母様方もだ。どうしたんだろう。
食堂に入ると、メインでドラゴン肉がステーキになっていた。おおっ美味しそう。何故だかみんな、落ち着かなさそうにしている。ノアール様もだ。
お父様の声で皆が神に感謝をすると、皆急いでドラゴンステーキを食べた。ノアール様だけフォークに切った肉を刺して私の口に当ててくる。仕方なく食べると、美味しくて顔がにやけてしまった。ノアール様がさっと私に近づいて唇を舐めると自分の食事に戻った。
何が起こったのか脳が理解するまで、呆けてしまった。理解したら顔から頭まで赤くなってるんじゃないかと思うくらいカッカした。これからドラゴンステーキ見るたびに思い出したらどうしてくれる。不思議と怒りはなかった。
いっとき忘れる事にしてレッドドラゴンの肉を食べる。レッサードラゴンの肉より美味しく感じる。至福。
子供達を見ると、口に脂をつけながらも顔がとろけていた。可愛い。よく見ると大人達もだ。気に入ってくれてなにより。提供したかいがあるってもんだ。
うまうまと食べていると、他の料理も美味しい。シェフの腕が良いんだ。ダンテ負けたね。
お肉の量が多い。食べたい気持ちはあるけど、他の料理が食べられない。仕方なく切ったステーキをフォークに刺して、ノアール様の口に運ぶ。ノアール様がびっくりしたようにこっちを見て来たけど、早う口を開けいとフォークでせっつく。嬉しそうに食べてくれた。私は残ったステーキをせっせとノアール様の口に運んだ。ミッション成功。残すと勿体ないからね。
夕食が終わったら私は客間に案内された。お風呂に入るか聞かれたけど、クリーンで済ますと答えた。
クリーンをかけて、アイテムボックスからパジャマを取り出し着替える。ベッドに横になり今日は疲れたなぁと考える。お昼から怒涛の連続だ。身体を優しく受け止めてくれるベッドは高級品なんだろう。すぐに睡魔が襲ってきて、こてんと寝てしまった。
息苦しくて目が覚めた。カーテンを閉めるのを忘れたんだろう。目の前にノアール様がいた。耳がふわふわで気持ちよさそう。ノアール様が「何?」と聞いてきたので「みみ……さわりたい」と言うとノアール様が凄い勢いでキスしてきた。私は勢いに流されるまま、ベッドへ沈んだ。
後からライラ様に聞いたら、恋人や夫婦の間では耳や尻尾を触りたいというのは、夜のお誘いらしい。そんなの知るかっての。




