イワンの街の孤児院
イワンの街の孤児院に行く。私の寂しさを癒してくれると信じて。
一般家庭のお子様撫でたら、不審者に間違われるからね。
孤児院は領都の敷地より狭かった。でも子供達は元気そうだ。声が外まで聞こえてくる。
玄関で声を掛けてみる。
「すみませーん。誰かいますかー?」
「はいはい、お待ち下さいねー」
割と若い女の人の声が聞こえる。そのまま待っていると扉が開いた。
「はい、どちら様ですか?」
「こんにちは、カヨと申します。孤児院で子供達に癒されたいと……あっ、もちろんやましい事ではなくてですねっ、寄付も考えております!」
ちょっと不審そうに見られたけど、寄付の所で笑顔になった。
自分でも子供達に癒されたいって言葉に出してから、ヤバっ変態かよって思った。純粋に子供達に癒されたいだけなんだよー。
「そういう事なら、お入り下さい。ちょっと子供達が元気ですけど、お気になさらず〜」
孤児院の中に迎え入れてくれた。入ったらすぐ近くに女の人に引っ付いている子供がいて、挨拶しようと思って目を向けたらその子の目が白く濁っていた。
「あの、失礼ですが、この子目が……」
「そうなんです、病気で見えなくなってしまったみたいで……でも、元気なんですよ」
確かに痩せていない、健康そうな体つきだ。
「あの、私、治癒魔法が使えるので、この子を治療しましょうか?よければ孤児院の子供達、全員健康診断しましょうか?」
「治癒魔法が使えるんですか!?それは、ありがたいです!よろしくお願いします!」
かなり食い気味にお願いされた。
私は子供にサーチをかけて、目以外に病気怪我がないか確かめてから治癒魔法を使った。子供の目はどんどん色素が濃くなり、ブラウン色で綺麗な瞳になった。子供は瞬きをして不思議そうに周りを見渡した。
「治りましたよ」
女の人はしゃがんで、子供の目を覗きこむと「メアリー?私の事見える?」と信じられなさそうに声をかける。7・8歳くらいに見える女の子が「お母さん?」と不思議そうな声をあげた。目の焦点は女の人に固定されている。
女性は感動したように「ああ、神様!」と子供を抱きしめた。
子供が余りにも不思議そうに周りを見るので、もしかして生まれつき見えなかったのかと女性に確認すると、孤児院に来た時からもう目は見えていなかったらしい。病院に行ったのか聞けば、「病院?治癒院は治療費が高くて行けません」と。治癒魔法を使える人は少ないので、治療費は高いらしい。中級ポーション以下や安い薬は買えるが、それらで治療できない病気や怪我を治す手段は一般人には無いらしい。無理して治そうとすれば、たちまち借金奴隷だとか。貯金や資産があれば別だろうが。
「あのー、他の子供達の診断・治療もしたいんですが」
「はい!ここに今いない子供達を呼んできますね」
女性は足早に奥へ行ってしまった。
残ったのは、カヨとメアリーちゃん子供が3人だった。
みんな顔色が良く肉付きもいいが、服や靴にまでお金をかける余裕がないのか、繕って身に着けているようだ。
カヨは急いで地球通販の履歴からカリオンの孤児院で買った服や靴下、下着と靴を手当たり次第買った。
目の前に山となったそれらを仕分けしていると、女性と十数人の子供達が来て、床に置かれたそれらを唖然とした目で見ていた。
当然、タグを取る暇はなかった。私の故郷の服という事で我慢して貰おう。
「診断と治療が終われば、新しい服と靴とかも支給するので、一列に並んで下さいねー」
私は誤魔化すようにへらりと笑った。
その後は1人ずつサーチをかけ、治療が必要な子には治癒魔法をかけた。無理に小さい靴を履いているのか、足が変形した子が多かった。治療したら元の靴が履けなくなるので、新しい靴を選んで貰った。
全員の治療が終われば、服その他の支給だ。これは女性にも手伝ってもらった。全員に3着ずつくばり、残った衣類と靴はアイテムボックスにしまった。
この孤児院に金貨300枚を寄付して、女性に子供達と遊んでいいか聞くと、良いがもうすぐ夕食だと言われたので、また明日来てもいいか聞く。「もちろん良いです。待ってますね」と言われたので、子供達にバイバイして、そのまま孤児院を出た。
少しの間だったが、子供達と関われたのでカヨの気持ちは晴れていた。
イワンの街から街道へ出て、人目につかない所で異空間住居に入る。
孤児院はもうすぐ夕食だと言っていた。でもカヨは、ちょっと小腹が空いたかな程度だ。久しぶりにタコ焼きが食べたくなったので、リビングで地球通販からタコ焼きを購入する。熱々だ。鰹節がゆれている。丸のまま食べたいが、口の中をやけどするのがわかるので、少し冷めるまで待つ。本当は熱々で食べたいんだが。我慢できず1つ口に入れる。熱くて口がはふはふしてしまうが、それもまた良し。10個も食べればお腹いっぱいだ。
2階の寝室に行き、ごろんとベッドで横になる。アイテムボックスから本を取り出し読む。
外が暗くなって、眠くなったら自分にクリーンをかけて、本をアイテムボックスの中にしまう。おやすみ。
朝起きて、外を見ると明るい。いつもより寝坊したようだ。
1階のダイニングに行き、地球通販でモーニングセットを買う。今日の朝食は卵雑炊の気分だ。1人で頂く。やっぱり誰かいないと寂しいなぁー。
食後にりんごを買い丸齧りする。種を取っておいてルーフバルコニーに植える事にする。
蜜が入ってると美味しー、皮まで食べちゃう。満腹だ。
異空間住居から出る時は、ちょっとだけドアを開けて誰もいない事を確認すると一気に出る。そのまま何食わぬ顔でイワンの街に入る列に並ぶ。
街の中に入ったら、本屋に行く。本屋の警備はやっぱり厳重だった。お目当ての本を買ったら、孤児院に向かう。
「おはようございまーす。カヨでーす」
「はーい、入ってもらっていいですよー」
中から返事がきた。玄関を開けて入らせてもらう。昨日の女性が迎えに来てくれた。
「すみません。昨日は自己紹介してなかったですね。私、リリアーヌと申します。昨日はありがとうございました」
「いいえー、子供が好きなので子供と仲良くしたいんですよ。また今日もよろしくお願いしますね。子供達は今、遊べますか?」
「大きい子達は勉強してますが、小さい子達が遊んでいます。一緒に遊んであげて下さい」
歩きながら、雑談する。
「お若いようですが、お一人で孤児院運営されているんですか?」
「いえ、夫と2人です。夫は厨房にいることが多いですね」
「夫婦でですか、お子様はいらっしゃるんですか?」
「いえ、私が子供をつくれない体質なので……この孤児院の子達が私達の子供です」
「そういえば、昨日は子供達だけに治癒魔法をかけましたね。リリアーヌさんと旦那様にも治癒魔法かけましょうか?」
「本当ですか!?お願いしたいです!図々しいですが、治癒院にかかるお金がなくて……」
「図々しくなんて無いですよ。私が言い出した事です。旦那様の所に行きましょう」
2人で厨房に向かう。厨房に行くと優しそうな20代半ばの男性が料理の下ごしらえをしていた。
「ライド、こちらカヨさん。昨日話したでしょ。子供達に治癒魔法をかけてくれて、服や靴、寄付金までいただいたの。これから、私達に治癒魔法をかけてくれるらしいの。ありがたいわ」
「カヨです。はじめまして」
「ライドです。昨日は孤児院の為に色々して下さったようで、ありがとうございます」
「いいえー、私がしたくてしただけですので。今からお2人に治癒魔法をかけますね。じっとしていて下さい」
まず、リリアーヌさんにサーチ。子宮筋腫がたくさん出来てる。良性みたいだけど、ここを治さないと。治癒魔法をリリアーヌさんのお腹にむけてかける。小さくなってきたけど不安だ。もっと魔力を込める。治ったかな?サーチ!うん大丈夫だ。
次はライドさんサーチ。背骨が曲がって腰痛が慢性化してるみたい。治癒魔法で治す。厨房は立ち仕事で力がいるから大変だよね。
「2人共終わりました。リリアーヌさんは子宮、子供が出来る所ですね、そこに問題がありました。ライドさんは背骨、背中の骨が曲がってて慢性的な腰痛でしたが、2人とも治りました。もしまた、問題になるようでしたら治癒院に行ってもらいたいんですが……」
「いいえ、カヨさん、ありがとうございます。カヨさんのおかげでこれからに希望が持てます」
「ありがとうございます」
2人共お辞儀をして感謝してくれた。再発が無いと言い切れない所が不安なんだけど、今心配しても仕方ないか。
「2人共、私が出す質問に答えてみませんか?全問正解すると、ちょっと良い事がありますよ」
アイテムボックスから質問表を取り出す。2人は悩んだみたいだけど、悪い事がないならいっかって感じで質問に答えてくれた。
「2人共、全問正解です!最後の質問です。魔法が使えるならどんな魔法が使いたいですか?」
楽しそうに質問に答えてた2人だが、自分が魔法を使う事を考えた事が無かったみたいで、何の魔法か悩んでる。
リリアーヌさんが思いついた顔をした。
「また身体に異常が起きたら嫌だから、治癒魔法がいいわ。ライドは?」
「う〜ん、食材が痛みやすいから、時間停止のアイテムボックスかな?食材が安い時に買っておけるし」
「2人共それでいいですね?それでは2人共、食堂の椅子に座ってもらえますか?」
場所を移動して、2人が椅子に座る。
「今から、ちょっと苦しいですよ。リリアーヌさんに治癒魔法を付与!ライドさんにアイテムボックス大を付与!」
2人共、苦しがっているが何人も見てきたので、問題無い事が分かる。今のうちに2人を鑑定!リリアーヌさんの魔法適正は生活魔法と水魔法。ライドさんは生活魔法だけか。
「2人共、魔法が使えるようになりました。リリアーヌさんは治癒魔法をライドさんはアイテムボックスを使ってみて下さい。時間停止ですので」
2人共、半信半疑といった顔をしているが魔法が使えたら、使えた自分に驚いてる。
「カヨさん!これは一体どうして……」
「まぁ、私の魔法です。リリアーヌさんには生活魔法と水魔法の適正が、ライドさんには生活魔法の適正があります。練習すれば使えるようになります。これを渡しておきますね。2人共、子供達に魔法を教える事が出来るようになったので、子供達の可能性を伸ばしてあげて下さい」
リリアーヌさんに『初めての魔法』の本を渡す。
「何だか色々あって、言葉に出来ない……ありがとうございます」
「俺からもありがとうございます。俺もリリアーヌも子供達も出来ることが増えます。ありがとう」
「いいえー。後は子供達の魔法適正を見ておきたいですね。リリアーヌさん案内してもらえますか?」
「はい!子供達の所に行きましょう」
リリアーヌさんについて行く。紙とペンを出して、子供達の名前が分からないからリリアーヌさんにメモってもらおう。
リリアーヌさんが扉を開けて中に入る。私も続く。
「みんな、今からこちらのカヨさんに魔法適正を見てもらいますから、静かにしているように。カヨさん、お願いします」
「リリアーヌさん私が適正を見るので、メモを取ってもらえますか?」
「分かりました」
子供達を順番に鑑定していく。子供達はぽかんとしている。
「この子は生活魔法と火魔法。この子は生活魔法だけ。この子は……」
大きい子が終わったら、小さい子を見ていく。何となく魔法を使えない子の割合が見えた。10人に1人くらいの割合で、魔法が使えない子がいる。かわいそうだけど仕方ない。
全員終わったら、リリアーヌさんからペンを返してもらった。魔法適正を書いたメモはリリアーヌさんだ。これからに役立ててもらおう。
私はリリアーヌさんの許可を得て、小さい子達と遊ぶ。そう!これを求めていたんだよ!ああ癒される!子供可愛い!たまに抱きついてくる子なんか、もう最高!もう頭はお花畑だ。
結局、昼食になるまで遊んだ。
ライドさんに、おっきなスイカを渡し、名残り惜しいが子供達に手を振ってお別れした。




