果物と孤児
ミリーが家に来たので、制約魔法をかけた。ミリーは、まだ精神が大人になっていないから、大人が正しい方向に育ててあげなくちゃいけない。
幸い、ミリーは生活魔法を使えたので、魔法を付与しなくて良かった。
精神が幼いのに凶器を持たせてはいけないのだ。
皆に週一回はお休みを取るように言ったので大丈夫だろう。
同じ担当の人が同時に休まないようには注意はしている。
キッチンなら、ダンテ、ロッキー、アスベルは同じ日に休まず、週5日の内、別々に休むようにする。
魔道具屋はパルコとロアが別の日。
美容室はリンダとタエが別の日。
散髪屋はカルロス一家に任せている。
これで我が家はブラックではなくなった。給料は変わらず払う。
私も自由に動きまわれるのだ!やっぱりまだ行った事のない場所に行きたい。
ダンテにせっせと食事の残り物を器に移してもらい、アイテムボックスに大量にしまってあるので、食事の心配はしなくてもいい。果物もいっぱいだ。
たまにリンダが作ってくれるお菓子も入っている。
ルーフバルコニーには新たにキンカンの木を植えた。
当然のごとく魔木化したので実が鈴なりになっている。せっせと収穫しちゃうよね。
たまに種が入っているのが邪魔に感じちゃうけど、魔木化した極上のキンカン。美味しいよ。皮がとくにね。
ライチも植えてみた。種で植えたけど、実は種無しになるように創造魔法で念じてみたら、魔木の種無しライチができました!やったね!
実がふっさーっとなってるからテンション上がって収穫したよね。
魔木化して実が大きくなってるから一口の満足感がハンパない。
スイカとメロンは果実的野菜だから、どうなるのか分からなかったけど、地球で食べる物より美味しくなるなら、試さなくちゃ!と試してみたら出来ちゃいました!鑑定してみたら魔植物。
大きな実がなった所を切ってみたら、同じ所からゆっくりぷくーっと実が膨らんできて、時間はかかるけど、もとどうり!やっぱり魔力で育つみたい。
美味さなんてもう!地球でも美味しいのに、メロンなんか言葉にできないっ!
高級メロンを食べる贅沢さよ!
でも重いんだこれが。それだけが欠点だよね。いい所はハズレがない事。全部おいしい。
思考が美味しい果物に乗っ取られた。けども、私はこの世界を旅したいのだ。
ダンテに一声掛けて当分出かける事を伝え、玄関で瞬間移動!
以前ペイターとリンとで出掛けた分かれ道の街道の方へ、インビジブルをかけて飛行魔法で飛んで行く。
この世界に初めて来た時も気持ち良かったけど、空を飛ぶのは止められませんなぁ!結構馬車とか走ってるから油断出来ないけど、1人なら歌っちゃいたい!
今度は村とかに寄り道するのもいいかもしれない。姿消してるし。あっ!村発見!ちょっと覗き見。
のどかだなぁ。村の子供達が遊んでる!この村は良い村なんだな。片隅に座ってぼんやり見る。子供達は痩せても太ってもいない、健康そのものだ。
よし!癒やし成分を貰った。また道を飛ぼう。道の側にある村々にお邪魔して、子供を見たり。作物を見たり、たまに病気の人が居たら治してあげたりしながら空を飛んでいく。
マップがちょっとずつ埋まっていくのが嬉しい。この国の大きさからでは小さいが、ちょっとずつこの世界を知っていけてる事が嬉しい。
街道を飛んでいると冒険者や商人と護衛、たまに兵士の人を見る。みんな魔物を警戒してるんだな。
町が見えた。中に入ってみよう。
ちょっとズルをして壁の上から入る。
カリオンほど栄えてないけど、村より人が多い。中規模な所なんだな。教会発見。
道の影になる部分でインビジブルをといて、教会へと歩いて行く。
教会の中に入るが、人影が見えない。
教会の作りはどこも同じようで、祈りの間に行く。
両膝を折り手を組み合わせて、運命神様とメンリル様にお祈りする。コップと日本酒を出してコップに注いだ日本酒を祭壇の上にお供えする。もう一度祈ってから外に出る。
もう一度自分にインビジブルをかけて、歩きだす。
何処かで怒声が聞こえる。
昼間から?怒声?声の聞こえた辺りに飛んで行く。
上から見ると小さい女の子が中年男性に追いかけられている。先回りして、女の子が私に飛び込んできたら、女の子にインビジブルをかける。
「静かにして」と声を掛けると、腕の中でビクッとしたが大人しくしている。
女の子を抱きしめていると、追いかけて来た中年の男性が顔を真っ赤にして「どこ行った!くそっ」と私達を追い抜かして走って行った。
「もう男性は居ないよ。どうして、追いかけられていたの?」
と声を掛けると、怯えたように震え出した。
「何にも怖い事はないよ。大丈夫落ち着いて」
と抱きしめ続けていると、落ち着いたのか「お姉ちゃん誰?」と尋ねてきた。
姿が見えないのによく解ったなと思い「子供の味方だよ」と答えた。
「私達を助けてくれるの?」と必死そうに聞いてくるから「他にも子供がいるの?」と聞き返す。
私の手がある辺りを探り、手を繋いで歩きだす。私は手を引かれるまま着いていく。
古い建物ばかりが有る所にはいり、その内の一つの家の中に入る。女の子が「帰ってきたよ」と声を掛けると。小さい男の子が見えた。
私はインビジブルを解いた。男の子は驚いた様だが、女の子を見てホッとしていた。
「インリー誰を連れてきたんだよ」
「お姉ちゃんが助けてくれるって」
「助ける?俺たちを?」
「事情が分からないから教えてくれる?」
聞くとここに居る子供は親がいない子ばかりだと言う。私をここに連れてきた女の子、迎えに出た男の子、部屋の中にいる2歳くらいの女の子と乳幼児が床に横になっていた。みんな痩せている。
私は4人にクリーンをかけて、綺麗にすると、赤ちゃんが弱々しく泣き出した。
地球通販で哺乳瓶を買い、買いだめしてあったボウの乳をアイテムボックスから出して哺乳瓶にいれる。水魔法で人肌まで乳を温めて、赤ちゃんを抱っこして哺乳瓶の先を赤ちゃんに咥えさせると赤ちゃんは泣き止んで一生懸命ボウの乳を飲んでいた。
鑑定したら、飢餓状態になっていたので空腹だと解ったのだ。赤ちゃんが全て飲んだ後、縦抱きにして背中をぽんぽんと叩くとゲップした。
赤ちゃんを床に下ろし、他の3人にもアイテムボックスからダンテが作った煮込み料理を出す。
みんなの前に食事を置いて「食べていいよ」と言えば、条件反射かお腹が鳴る。本当に食べていいのか確認してきたので、私も自分の分を出して食べるように促す。
みんな無言で一生懸命食事をしていた。私も無言で食事して、この子達は孤児だろうなと想像した。
スラムのような場所、追いかけられていた女の子、死にかけの赤ん坊。線になり繋がる。多分盗みをしたんだろう。お腹が空いて、仲間の為に。盗んだ物はどうなったか分からないが。
ボウの乳もコップに注いでみんなの前に置く。「飲んでいいからね」と。子供達は嬉しそうにボウの乳を飲む。
赤ちゃんにお乳をあげていた時に羨ましかったのかもしれない。
「ここに住んでるのは、貴方達4人だけ?」
「ううん。お兄ちゃんがいるよ」
「お兄ちゃんは何処にいるの?」
「お仕事行ってる」
「そう、じゃあ待たしてもらおうかな」
みんなお腹がいっぱいになったら、うとうとしてきたみたい。敷布団を地球通販で買い、クリーンで床を綺麗にして敷いてあげる。
「みんな寝ていいよ」
ベビーベッドも買い、赤ちゃんを横にならせる。赤ちゃんは既に寝ていたようだ、痩せてるのが痛ましい。
みんなを横にならせ私も一緒に横になる。お昼寝だ。
赤ん坊の泣き声で目が覚めた。赤ちゃんにクリーンをかける。哺乳瓶にボウの乳を入れて温め、赤ちゃんを抱っこしながら乳を上げる。
またまた一生懸命吸い付く赤ん坊。可愛いなぁ。痩せてるけど。
玄関から音がした。
「ちびたち、帰ったぞー」
声をした方を見ると、10歳位の男の子がいた。
こっちに気づいた男の子は警戒をあらわにして「あんた誰だ?何でここにいる?」と聞いてきたので「私はカヨ。子供達を助けにきたんだよ」と言った。
他の子供が寝ているのを見て、慌てて子供達に近寄り息をしているのを確かめてホッとしていた。
「君とお話ししたいんだけど」
赤ちゃんが乳を飲み終わっていたので、抱き直して背中をぽんぽんとしてあげるとげっぷした。赤ちゃんをベビーベッドに寝かせる。
それを見ていた少年は「あんた何がしたいんだ?」と呟いたので「子供達を孤児院に連れて行きたいかな」と答える。
アイテムボックスから食事を出し、少年に食べるように促すが、警戒して食事しない。お腹は空いてるみたいなのに。
寝ていた女の子が起きた。
「お兄ちゃんお帰りなさい。お姉ちゃんおはよう」
インリーに「おはよう」と返事を返す。
「お腹減ってない?」
「減ったかも……」
昼食に食べたのとは別の煮込みスープを出す。
「食べていいよ」
「ありがとう」
と食べ始めた。少年は呆然とそれを見ていた。
「インリー、その人は誰だ?」
「私を助けてくれたお姉ちゃん。ごはんもくれたよ」
と言い食事を続けるインリーに、少年も我慢できなくなったのか食事に口をつける。
「おいしい!」
とガツガツ食べる。ボウの乳をコップに注いであげ「飲んでいいよ」と2人の近くに置いてあげる。
少年がまだ足りなさそうだったので、ぽんかんをむいて出してあげる。
インリーが羨ましそうにしたので、ぽんかんの皮をむき渡してあげる。私も一緒にぽんかんを食べる。
インリーがぽんかんを食べて歓声を上げた。よほどおいしかったようだ。そうだよ、果物は正義だよ。
その声で目が覚めたのか男の子と2歳位の女の子も目が覚めた。
「おはよう2人共」と声をかけ、食事を渡してあげる。
嬉しそうに食べ始める。みんなと一緒でボウの乳も出してあげた。
男の子が食べ終わる頃にぽんかんの皮をむいて渡した。小さな女の子が涎を垂らしていたので、もう一つぽんかんをむき、2個だけ渡してあげた。身体の大きさからいって食べ過ぎだろう。それでも美味しそうに食べていた。
みんな空腹でいた時間が長すぎたんだろう。食べれる時に食べないといけないみたいに食べる。私も経験したことがあるからわかる。
みんなが食べ終わり、食器を片付けてから話し出す。
「私はみんながお腹をすかせて、この場所にいるのが耐えられない。みんなを孤児院に連れて行ってあげたい。院長もそこの子供達もみんな良い子だよ。食事にも困らないし、勉強も教えてくれる。なにより、大人が守ってくれる」
話しを聞いていた、少年以外の子供達の目がキラキラしている。少年はまだ疑っているみたいだ。
「少年、名前は?」
「リアム」
「リアムは大人が信用出来ない?」
「今日会ったばかりの大人が信用できない」
「今からリアムだけ、孤児院の様子を見せてあげる。それなら信用できる?」
「無理な事を言わなくても」
「無理じゃないよ。インリー達はここで待っていてね。帰ってくるから」
私は少年の手を掴みカリオンの孤児院まで瞬間移動する。
「ここが孤児院だよ」
リアムは驚きすぎたのか、固まっている。手を引いて歩きだす。多分この時間だと食事中だ。
食堂に入り、子供達に挨拶する。子供達は仲間が増えるのかとリアムに興味津々だ。
「院長、夕食に失礼します。子供達を数人保護したのですが、本当に孤児院に入れるのか疑っているようで」
「まあ、カヨさんありがとうございます。隣の貴方がそうかしら?」
「……こんばんは、此処は本当に俺たちを受け入れてくれるんですか?」
「大丈夫ですよ貴方を受け入れます。友達もたくさん出来ますよ」
リアムはちょっと安心したようだ。
「院長、明日になると思いますが、子供5人、1人は乳幼児です。受け入れよろしくお願いします」
「分かりましたカヨさん。貴方と貴方の友達も待っていますからね」
リアムは優しい言葉を受けて緊張がとれたみたいだ。院長に挨拶して、食堂を後にするとリアムと瞬間移動し元の家に戻ってきた。
インリーと男の子は急に消えた私達に置いて行かれたと勘違いしたみたいで、泣いていた。
私とリアムは子供を抱きしめて「行く時は一緒だよ」と慰めた。




