音楽
自宅に併設されている、散髪屋と魔道具屋にはひっそりと店内に魔道具化され、こちらの言葉に翻訳されたCDプレイヤーから小さい音楽が流れている。
たまにお客様から質問はあるけど「故郷の音楽です」と引き下がってもらっていた。
が、孤児院から早く帰ってきたミーチェちゃんが、何の琴線に触れたのかたまたま流れていた音楽にハマってしまったのだ。
ハマった音楽が、小さい男女の淡い恋物語。ミーチェちゃんにはちょっと早いと思っていたのだけど、そういや前世でも近年では小さい子の早い色恋がそこかしらにあったなぁと思い出した。
ミーチェちゃんがあまりにも聞きたがるから、持ち運び出来る音楽プレイヤーに1曲をずっと再生し続けるようにして渡した。
ミーチェちゃんは孤児院にも持ち込んでいたみたいで、子供達も小さい男女の恋物語の歌にハマってしまったようで、孤児院のそこかしらで歌っているようだ。
この世界の音楽事情はよく分かっていない。上流階級の人が嗜むとは聞いたことがあるけど、そこに前世の歌がこの世界の人にも受け入れてもらえるかは分からなかったのだ。
だから店内だけで楽しめるように流していただけなのだが、これが思わぬお客を招いてしまう。
自分で言うのもなんだが、私は歌が上手い。歌手ほど上手では無いけれど、一般人より上手い、歌手の声真似して歌うのが上手なのだ。
いっときはカラオケにハマっていて、初対面のカラオケ好きで集まってオフ会もしていたのだ。
占い師さんに占ってもらった時も何も言ってないのに「貴方歌うまいでしょ」って言われた時はドキッとした。そういう星に生まれたと言う事だ。
ある日、魔道具屋で店番していたら散髪屋で髪を切ってもらった男女が店内に入ってきた。
一直線で私のいるカウンターまで来て手を握られる。びっくりして、振り解こうとしたが「貴方がこの音楽の第一人者でしたか!」と言われ、事情を聞いた。
どうも孤児院から聞こえる歌が、市井で話題になっているとの事。切なくも前向きな小さな恋の物語。彼等は吟遊詩人と呼ばれる人達だった。
ミーチェちゃんが歌を孤児院に持ち込んだのはすぐに分かり、ミーチェちゃんの親、カルロスさんとモニカさんが経営している散髪屋に行き、店内に流れている音楽の事を聞いた所、となりの魔道具屋の店主が趣味で流している事が分かったのだ。それで教えを請いたいと、この店に来たと。
私はコワッと思いながらも、真剣に音楽を習いたいと言う彼らにすぐに嫌だと言えずに「考えさせて」と3日後にまた来てもらう事にした。
私は悩んだ。前世の音楽をこの世界に大々的に持ち込んでいいものかと。今でも広まりつつあるが。
でも私は音楽が好きだ。堂々と歌っていいのなら、そういう世界にしたい。音楽は娯楽だ。民衆も楽しめたら良いだろう。
私は孤児院の院長に、卒業しそうで進路に迷っている子はいるか聞いてみると、14歳の女の子の進路がはっきり決まらないそうだ。
優しい子だが、孤児院の子供達と離れる決心がつかないとの事。
私は彼女と面談させてもらい、魔道具屋の店員になってもらうことにした。雇い額は金貨20枚、この年齢では破格だ。
ミーチェちゃんの送り迎えを彼女にまかし、孤児院の子供達と触れ合える環境を維持しつつ昼間は魔道具屋の店員として働いてもらう事とした。
14歳といえば、家の仕事を手伝っている年齢だ。
その子を住み込みで雇い、今日お別れ会をして明日から働いてもらう。パルコに強力してもらい仕事内容を教育して1人でも、店員としてやって行けるようにしてもらう事になった。
私は吟遊詩人の彼等に音楽を教える事にした。
創造魔法で音楽理解を作り、音楽を聞いただけで、音階を理解し、楽器を演奏出来るようになった。
地球通販で、キーボードを魔道具にして言語をこの世界のものに直して購入した。
弾きたい曲を頭に思い浮かべると、手が面白いように動く。演奏が終わったあとは自分で感動した。
商業ギルドにキーボードを持ち込み、演奏してみせると、面白いほど食いつかれた。登録をして、現物を置いて帰り、吟遊詩人の彼等にどうやって音楽を教えていこうか考える。
約束の3日後に、緊張した彼等がやってきた。場所を美容室に移し、音楽を教えることを約束した。
2人は喜んだ。
まだ若い男女は幼馴染だと言う。吟遊詩人として成功したら結婚する仲だそう。
男性はバルド、女性はシルキーと言う名前で、両方とも歌えるらしく、男性がギターのような楽器を持っていた。女性にキーボードと持ち運び用のバッグを渡す。
余り裕福な家庭ではないらしく、身なりから直さねばならない。
吟遊詩人は目立ってなんぼの職業だ。
まずは楽譜と読み方を教える。これになれるのに、一月はかかった。子供が弾くような簡単な曲から教え、楽器を弾きながら歌えるように教育していった。
おぼつかないながらも、覚えるのが早かったのは吟遊詩人として他の人より音楽に触れていたからだと思う。
日々は過ぎ、お待ちかねのミーチェちゃん大好きな歌の練習だ。これは女性の歌なので、シルキーに歌ってもらう事になった。バルドは曲を熱心に練習していた。
シルキーとバルドが慣れてきた頃、ミーチェちゃんを招待して生演奏を聞いてもらうことにした。
ミーチェちゃんは初めて聞く生の演奏にびっくりしていたが、自分の好きな歌だと分かると一緒に歌っていた。とても良い経験になったようだ。
孤児院の子供達の前でも歌ってもらった。人前で演奏して実力や自信をつける為だ。
私が渡した衣装を着てもらった。
結果は大成功!子供と言っても大人数。孤児院にいる沢山の人の前でも歌えるようになった。
それからもう3曲教える事になった。
2曲目は、男性と女性が同じ音階で歌い、男女の声の高低差でハモリ、時には言葉で追いかけ合う、一夏の恋物語。
3曲目は、男性が女性に結婚を請う歌、4曲目は、それに返礼して女性が男性に向けて歌う歌。
2曲目で難しかったのは、この世界の言葉にアレンジする事。花火なんてこの世界にはないのだ。
あとは、シルキーに女性パートを可愛く歌いあげてもらう事だった。
とにかく高い澄んだ声を出せるように頑張ってもらった。シルキーの可能性が広がったのではないだろうか。
3曲目と4曲目は問題ない。
2人は結婚を約束した、婚約者なのだ。今の状況にぴったしだね。
2人に教えた曲が入った魔道具の音楽プレイヤーをプレゼントした。物が小さいから、魔石も小さい物で良いのだ。コストはあまりかからない。
まずは、この街で有名になる事を目指すと言う。私は2人を応援している。頑張れ!
餞別にマジックバッグと結界を張れる指輪を渡した。
それから忘れる頃に、手紙が届いた。
2人は人気になり、王城に招待されたと言うのだ!成功して、王都で結婚したらしい。
まだまだ吟遊詩人は続けていくそうだ。
良い知らせを貰った。知り合いが幸せだと、私も幸せのお裾分けを貰った気持ちになる。
新しい曲を教えてもらう為に、この店に2人が来るのだが、まだ先のお話。




