開拓村の家
「それで、お前達魔法で何が出来るってぇ?」
「あっ、私は村から出るんで関係ないですね」
「お前も当事者だ!」
「僕は生活魔法と土魔法とアイテムボックスが使えます!」
「私は生活魔法と水魔法と治癒魔法が使えます!」
「私の魔法はシークレットで」
ペイター、リン、私の順で答える。バルドラさんは「魔法使いきちゃったよぅ」と顔を手で覆って呟いている。なんか限界がきちゃったみたいだ。気弱になっている。ちょっと放っとこう。
私は皆に紅茶を出し、ぶどうを出しておやつの時間にする。ペイターもリンも嬉しそうだ。「なんか勝手にくつろいでる」と呟いているので、仕方なしにバルドラさんの前にも紅茶とぶどうを出してあげる。落ち込みながらもお茶を飲んで、ぶどうを食べたら「……美味い」と呟いた。
食べ終わる頃には落ち着いたようだ。
「それで、どこのぼんぼんとお嬢ちゃんだ」
「僕とリンは孤児院を卒業したばかりです」
「今時の孤児院は魔法を教えてるのか」
「多分ですけど、ペイター達の孤児院だけだと思いますよ」
「お前はどこで教わったんだ?」
「だからシークレットですってば」
「普通の魔法で家は建たん!」
「だから内緒なんですよ」
ため息をついた。諦めてくれたようだ。
「真面目な話し、お前達の家が立派すぎて最初に家を建てた奴等がかわいそうなんだ。予算はある。どうにか出来んか?」
「今いる村人全員の家を建てろって事ですか?」
「それは違う。出来るならやって貰いたいが。建て終わった奴等の家をペイター達の家と同じ感じに出来ないか?ペイター達がいらん嫉妬を買うかも知れん、さっきもそういう奴等がいた」
「間取りやデザインを考えるのが面倒なんですよね、関係ない人達の。それを作ってくれるんなら、お金は貰いますけど、作ってもいいですよ。でも、デザインと間取りは全ての村人が同じで。おんなじ家を建てるって事ですからね!外観はペイター達の家と同じですから!」
「村の家1軒の価格いくらなら受けてくれる?」
「相場はいくらなんですか」
「相場は大体金貨100枚くらいだな。安いか?村の家だからな、これ以上は出せんのだ」
「村人達を説得出来るならいいですよ。ペイターやリンに嫉妬が向かないのなら」
「説得してみせる、恩に着る」
「それじゃあ私達はペイター達の家に行きますからね。まだ内装整えていないんですから」
「ああ、分かった」
ーバルドラ視点ー
とんでもねぇ奴らがきやがった。魔法使いなんて裕福な家庭か貴族くらいしかいねぇ。それをぽんと立派な家を建てやがる。
人が良かったからいいが、良くなかったら村人が協力しなくなる。使わなかった資材を次の開拓村に売ってトントンといったところか。
そうだ、村人だ。全員説得しないといけねぇ。憂鬱だが、後にはまわせん。今から集会だ!
近くのやつに声を掛ける。
「今から緊急集会だ!村人全員集会所に集めろ!家の件だと言えばすぐに来るだろう」
「わかりました!おいみんないくぞ!俺は北に行く!」
「俺は東だ!」
「じゃあ俺は南だな」
「俺は西か」
30分くらいで、村人全員集まった。何の話しか興味津々だな。
「今日、この村に魔法使いが3人やってきた。まず、言っとくが、絶対に敵対するなよ!魔法使い様が俺たちに良い話しを持ってきた!良い思いしたけりゃ敵対するな!分かったか!!」
「そんな事言ってもバルドラさん、何の話しかわかんなきゃ約束もできねぇ」
「家だ!町にある様な家がこの村に建ったのを何人か知ってるな?魔法で建てたらしい。条件さえのめば、ここにいる全員が自分の家に住める!しかも町にある様な家だ!もう建てちまった奴等の家も同じ大きさにしてくれるそうだ!条件はこの村に住むペイターとリン夫婦に、敵対しない、嫉妬しない事だ!仲良くすりゃあ良いだけだ。リンは治癒魔法が使えるから、自分の身がかわいけりゃ条件をのむんだな!」
「俺、見たぜ!良い家だった」
「俺も見た!あんな家に住めるんなら条件なんて軽い軽い」
「そんな良い家だったのか?」
「俺たちが建てた家が小さく見えるよ!」
「何で魔法使いが村に住むんだ?」
「何でって村に住みたいんだろうさ」
「俺は条件のむよ!」
「俺だって!」
「全員の意思が統一してりゃあ大丈夫だ!反対する者は手をあげな!」
誰も手を上げない、いや1人いた!
「そこの!何が不満だ?」
「良い話しすぎてこわいんだよ!何か裏があるんじゃないかって……」
「俺が話しをした。村に住む夫婦は孤児院出身の素朴な奴らだ。家を建てれば対価を渡すが、到底あの家を建てる代金じゃ足りない。建てるのは村に住む2人じゃない。2人の保護者みたいな奴だ。奴は2人が村で暮らしていけるか、心配している。恩を売ろうってだけの話しだ、2人が暮らしやすいようにな!納得できたか?」
「ようは、村の一員に加われば良いって話しだろ?お前も、うじうじすんなよ」
「うじうじはしないけど、様子は見てみる」
「良い奴か悪い奴かなんて一緒に暮らしてりゃわかるさ」
「若い夫婦なんだろ助けてやらないと」
「そうさ仲良くすれば良いんだ」
村人の意見はまとまって来たな、後は家の間取りだ。
「魔法使い様は俺たちに、家の設計を任せてくれた!間取りを決めたいやつは前に集まれ!」
半分くらいか、もっと減れば楽だったんだがな。意見をまとめるの大変なんだよ。
「じゃあ1階から決めていくからな、最初は……」
ーバルドラ視点・終わりー
私とペイターとリンは建てたばかりの家に帰って来た。次は置く家具を決める。ペイターとリンにはダイニングで待っていてもらおう。机と椅子をだす。お茶とクッキーも置いておく。
「ペイターにリン、私は家具を置いてくるから、ここでゆっくりしていてね」
「カヨさん何から何までありがとうございます。こんな立派な家まで、嬉しいです」
リンが感極まったと言わんばかりに感激してくれる。ペイターも頷いている。
「いいよいいよ、私が勝手にしたくてしてるんだからさ。じゃあ行ってくるね」
まずはリビングから、地球通販を開いて、ソファと机を置いて窓にはカーテンを付ける。
次は寝室、ワイドキングサイズのベッドを置いて布団と掛け布団とシーツ、カーテンを付けてクローゼットを置く。
次は2階の部屋、シングルサイズのベッドとシーツに掛け布団、クローゼットにカーテン。2部屋同じ物を置く。他の部屋は何もしない空室。カーテンだけ付ける。
1階のキッチンに行く。少し大きめのオーブンを置いてコンロは3口のを置く、冷蔵庫も置いて、全部魔道具化。食器棚を置いて、サイズ違いの全て白い食器でうめていく。ナイフとフォークとスプーン。包丁は2つ。まな板も買って、鍋やフライパンも置いていく。
後は2人の希望で作った洗面所とお風呂と洗濯室。棚を買いフェイスタオルを沢山置いて、お風呂にはお湯が出る魔道具を創造。イスと洗面器を置く。洗濯室には洗濯機と家庭用乾燥機を置く。
いけない!スライムをバルドラさんの所に貰いに行かなきゃ。バケツを2つ出して集会所に貰いに行く。
「すみませーん!誰かいますか?」
「はーい、何でしょう?」
「スライムを15匹貰いたいんですが」
「バケツ貰いますね。少しお待ち下さい」
無事、おばさんからスライムをゲットした。
この世界のスライムは人に危害を加えられないほど弱い。乳幼児だと、分かんないけど。スライムにたくさんのエサを与えると分裂するらしい。手で持っても長い時間持たないと皮膚は溶けないらしい。ほぼ無害な魔物なのだ。
家に帰って来た。排水溝にスライムを放り込んでいく。1つに3匹。
忘れてた、キッチンのドアの外に生ゴミ処理機を置き、ペイター達に声をかける。
「ペイター、リン、大体家具を置き終わったから部屋を見てきて。足りない物があれば教えて。出すから」
「分かりました。リン行こう」
2人でダイニングを出て行った。食器と机と椅子をしまい、座り心地のよさそうなダイニングテーブルセットを買う。設置して、カーテンを付ける。これでよし!
カリオンの家のルーフバルコニーに瞬間移動する。石鹸の木の枝と白桃の木の枝を枝切りハサミで切る。瞬間移動で開拓村の家に帰ってくる。
家の裏側に行き、スコップで穴を2つ掘る。切ってきた枝を挿し植える。植えた枝に魔力を注ぐ。2つとも成長させる。成長させて実が付いたら、魔力を注ぐのを止める。
創造魔法で幻影魔法を創造する。石鹸の木と白桃の木に幻影魔法をかけ、普通の木に見えるようにする。家の中に戻ると、ペイター達がダイニングに来た。
「カヨさん!凄いベッドや魔道具をありがとうございます!もう嬉しくて嬉しくて、言葉に出来ません!」
「喜んでくれてよかったよ。2人に家の鍵を渡しておくね。家を出る時は必ず鍵をかけること!」
「「はい!」」
「家の外に行くから着いてきて」
石鹸の木と白桃の木を植えた所までくる。
「この木に触って」
2人共触ると幻影が2人にだけとけた。
「孤児院にもあったからわかるね?この木の存在は秘密。実は使って、食べて。売ってもいいけど、ただで配るのはオススメしないな。人の欲は怖いからね」
「……カヨさんありがとうございます。もう食べられないと思ってました」
「魔道具は魔石にお金がかかるから、これを売ってお金に変えてよ」
声も出ない程、感激してくれているみたいだ。
「後は家の中、着いてきて」
玄関を入ってすぐの所にしゃがみこむ。ペイターとリンはどうしたのかと覗きこむ。カヨが「ここをこうして」と床をいじったら、四角に床が持ち上がった。地下室へ続く入り口だ。
「戦っても勝てない魔物でも出たら地下に逃げ込んでよ」
地下室への入り口の開け方をペイターとリンに教える。ペイターとリンは秘密基地を発見したみたいにはしゃいでいる。日が沈みかけている。
「今夜は、ここで過ごす?異空間住居に入る?」
「ここで過ごしたいです」
「じゃあ夕食にしよう」
とアイテムボックスから食事を出す。ダイニングテーブルに料理を出し、椅子に座って食事を取る。2人共ここが自分の家になった事を実感しているみたいだ。
食事が終わればあとは寝るだけだ。私は2階に行く事を伝え、2階の空き部屋から異空間住居に行く。寝る準備をして、ベッドに転がる。
今日は色んな事があったなぁ。家の事も安請け合いしちゃったし。でもペイターとリンが、あんなに良い子達が悪意に晒されて暮らして行くなんて嫌だったんだ。仕方ないと考えながら睡魔が来たので就寝する。
翌朝、ペイターとリンは元気に起きて来た。開拓村で暮らしていく気持ちが固まったのだろう。朝食を食べながらもやる気が伝わってくる。
朝食を食べ終えたら、ペイター達は畑予定地に行くみたい。一緒に行く。
ペイター達が雑草を抜こうとしていたので、土魔法で表面を柔らかくして抜きやすくする。ペイターも土魔法が使えるので「その手があったか!」って顔をしている。魔法はイメージだよ、イメージ。
あらかた雑草を抜き終わったら、私はガンジキを出して雑草を集めて火魔法で燃やした。
ペイターが鍬を集会所に借りに行こうとしたので止めて、土魔法で土を柔らかくして天地返しをする。ペイターにイメージを伝えやってもらう。初めは拙かったが、途中から、思い切って広範囲を天地返ししていた。
私とリンは土の中の石拾いだ。天地返ししてほぐされた土の中にある石を拾っていく。広いから大変だ。
掘り返された土の中から虫がこんにちはしたので、叫びそうだったが何とか堪えた。私は虫が苦手だ。嫌いと言ってもいいかもしれない。虫がいるって事は良い土なんだろうけども。
地球通販で農業用の手袋を買い、手に付ける。リンにも手袋を渡した。黙々と作業を続ける。
「なんじゃこりゃあ!?」と声が聞こえた。
バルドラさんだ。村人達の家の設計図を持ってきたようだ。何でこんなに畑が耕されているのか聞いて来たのでペイターの魔法だと教えた。
昨日の魔法適正を思い出したようだ。「即戦力だな」と呟いている。
「これで家が作れるか?」と聞いて来たので設計図を見ながら「出来ますよ」と返した。今から家を建てに行くそうだ。
ペイターとリンに作業を抜ける事を言ったら、こころよく送り出してくれた。
初めに家を建てに行くのは、開拓村で最初から作業をしている良い人だそうな。1番に家を貰ったので、最初に建て替えてあげたいらしい。家に着いた。バルドラさんが扉をノックしている。中から20代後半の男性が出て来た。家を建てに来た事を伝えると慌てて家に入り、奥さんと子供を連れてきた。
「家の中にある物は家から出して、出せない物があれば、アイテムボックスに入れるから荷物をまとめてくれる?」
と言えば、奥さんと旦那さんが家の中にある荷物をまとめ、私はアイテムボックスの中に入れて行く。全部荷物を収納したら、今まで住んでいた家をアイテムボックスの中に入れる。
地面を圧縮して平らにする。
設計図が頭の中に焼きついたら、創造魔法で家を創造する。いきなり出て来た新築の家に、見ていた皆大興奮だ。夫婦に言われて荷物を出していく。私は夫婦に家の鍵を渡した。
礼儀正しくお礼を言われた。悪い気はしない。バルドラさんに連れられ、次の人の家にいく。
みんな、引越して来たばかりなので荷物は少ない。こうなれば流れ作業だ。家がある人は荷物と家をアイテムボックスにしまい家を建てる。家がまだ無い人は建てる場所を聞いて創造魔法で造るだけだ。
中には、夢のマイホームで家に入って出てこない人もいた。
何軒建てたか、すべて終わる頃にはお昼前だった。
バルドラさんと分かれてペイターの家に帰る。2人は昼食を作っていた。
「ごめんね、遅くなって。手伝うよ」
「もうすぐ出来上がるので、座って待っていて下さい」
とリンに言われ、椅子に座る。出来たばかりの昼食は素朴で温かい味がした。
午後からはまた石拾いだ。手袋を付けて作業をする。農家は大変だ。広い土地で作物を作る。虫は怖いし、腰も痛い。
また、バルドラさんがきた。村長の家を建ててほしいと言う。金額は金貨300枚。設計図を渡される。見ていると「作ってくれるか」聞いて来たので、作れますよと返す。
バルドラさんは家の横に置いてある物は何だと聞いてくる。見に行くと生ゴミ処理機があった。魔道具の使い方を説明すると唸っていた。欲しいようだ。1個買うと言ったので、アイテムボックスから出して渡して上げた。嬉しそうだ。
リンにまた抜けることを伝え、村長の家を建てる予定地にきた。
地面を圧縮して平らにし、設計図をもう一度見てから創造魔法で作る。普通の家の2倍くらいかな?と見ていたら。バルドラさんが喜んでいる。
今から家の代金を支払うと言うので着いて行く。この村が完成したら、バルドラさんが村長をするらしい。息子夫婦と孫が来るそうだ。
集会所で精算して、プラチナ貨で支払いしてくれた。結構な額になった。1軒金貨100枚だけど、チリも積もれば山となるだ。使い方間違っている気がするけど。普通の人には大金だよね。
3日後には石取りも終わり、種を貰ってくるとペイターが出ていった。半分は麦を植えるそうだ。
私とリンは休憩して、オレンジジュース100%を2人で飲む。おいしかったらしく、ペイターにも飲ませてあげたいと言う。お熱い事で。
ペイターが帰って来たら、オレンジジュースを飲ませてあげた。
麦を植える予定地に石灰や肥料はまかなくてもいいのか確認すると、麦は石灰も肥料も要らないらしい。野菜は肥料がいるそうだ。植物は空気中の魔力で育つらしい。あと水。リンが居るから水やりの苦労は無いね。
私とペイターは耕された畑の土を平らに慣らしてから小さく畝を作る。10cm程、間をあけて種をまく。広いなぁ。




