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【旧作】私は異世界で自由に生きる〜子供達に癒される〜  作者: 春爛漫


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シルビオ少年の願い シンクフド王国

 昼食にはお兄様達家族がいなかった。


 今日はティモシー君の貴族学校の入学式だったらしく、王都の屋敷でお祝いをしているそうだ。

 お父様とお母様もそちらに行っているらしく、ノアとルークと私で家族水入らずでの食事となった。


 監視(お父様)の目が無いからか、ノアがスキあらばちゅうをしてくるので困ってしまった。

 お父様もお兄様も仕事に行ってないらしく、今日はノア1人で頑張っているから怒るに怒れない。


 食事が終わってからもルークと遊んでいたりして、ゆっくりと家族との仲を満喫してからノアは仕事に行った。


 ノアが疲れてるのか元気なのか、わかんないよ。


 さてさて、ルークをマリーシャにバッグ(母乳、哺乳瓶、オムツ、ストローマグ)と共に預けて、ずっと頭に真摯に響いている声を無視するのをやめましょう。


『希望と破滅の神様。どうか、僕のお父様を破滅させてください』エンドレスーー。


 若い男の子の声で1週間ほど響いている。

 これは間違いなく私の神官候補だ。


 ユーリに授乳して満足させてから、抱っこ紐で抱っこして真摯に祈ってくれる男の子の声に導かれるままに転移する。今回は何処に行くのだろうか?


 気がついたら真摯に祈ってくれていたと思われる男の子の前にいた。


「あなたが私を呼んでいたの?」


 声を掛けると、バッと顔を上げて「信じられない」「嬉しい」と言った感情が読み取れた。


 男の子の右手を取って、私の神官の印をつける。


 男の子は自分の右手の甲を目の前に持ってきて、左手で確かめるように触り擦った。


 その後に私に土下座した。


「希望と破滅の神様!お会いできて嬉しく存じます!わたくしめの願いをお聞き届けください!」


 カヨは優しく聞こえる声で答えた。


「あなたの長い真摯な祈りは私に届きました。私の神官の願いを叶えましょう」


「ありがとうございます!私の!私の親友をお助けください!私の父が親友に対して非道な行いをしているのです!このままでは親友が壊れてしまいます!」


 ユーリを抱っこしたまましゃがみ、少年を起き上がらせるように手を取り引っ張り起こした。

 カヨを呼び出した少年は8・9歳の若者だった。


 事情を聞くと少年は貴族で、少年の親友は使用人の母を持つという。元乳母という乳兄弟の間柄だそうだ。

 その親友が先程、父親に呼び出されて、神殿から伝わってきた希望と破滅の神のカヨに祈っていたそうだ。

 親友は親には言えないと口をつぐんでいたそうだが、少年・シルビオの問い詰めにより父の非道な行いが発覚したが、シルビオ少年は貴族の3男で権力が無く父には敵わない。親友の親を頼っても仕事を切られるだけだと我慢しているらしい。

 その話を聞いて父がおかしくなったのは母が亡くなってからだと気がついたそうだ。

 初めは元気のない使用人が増えて仕事を辞める、突然いなくなる人が増えたのに気がついた。でも、すぐに人が補充されていたからその時は気にも止めていなかったそうだ。その後に親友の不調。

 自分1人では親友を助けれないし、兄弟とはあまり関わりが無いので頼れない。

 結果、今、話題がホットな私に祈っていたようだ。


 話を聞いて嫌な予感がした私はシルビオ少年の父の部屋に案内してもらった。


 シルビオ少年は無邪気に喜んだが私はとても少年には受け止められない現実が起きているのではないかと感じていた。


「お父様!シルビオです!開けてください!」


 探知で探してみたが、この部屋には誰もいない。


 シルビオ少年に親友の持ち物は有るかと聞いたら胸元から初めて親友が作ってくれたお守りなのだと小さな袋を取り出したので借りて、このお守りを作った人を探せと探知してみると、この部屋の隣にいるようだ。


 シルビオ少年に聞いてみると「お母様の部屋です」と答えたので、シルビオ少年はここで待っているように伝えて、私だけシルビオ少年の亡くなった母親の部屋へと向かった。


 部屋には鍵がかかっていた為、魔法で開錠して中に入ると嫌な音と声が聞こえてきたので、ユーリに遮音魔法をかけてから寝室の扉を開けた。


 そこには男の欲を受け止める少女とそれを貪る醜悪な男性が居た。

 男性は呪い一歩手前の瘴気に包まれていて顔が見えないが、下半身は少女と繋がっていた。


 カヨは念動力で男性を一気に引き離してバインドで締め上げた。


 カヨは前世で性犯罪の被害者になった。誰にも言えずに事件は公にならず、犯人がのうのうと暮らしている事実が悔しかった。


 この加害者の男には被害者の生き霊が怨念となって呪いに変わろうとしている。

 カヨはこの男の被害者達の積もり積もった怨念をそのままにして、男性に神の怒りを落とした。怨念は彼女達の必死の抵抗そのものだから。

 下半身を露出したまま気絶した男を放置して少女に近寄ろうとすると、カヨの隣をシルビオ少年が走り抜けて少女を抱きしめた。


「ミーナ!ミーナ!大丈夫かい?助けが来たからね。もう酷いことは無いよ!」


「シルビオ、様?なんで、ここに?」


 カヨは汚された少女にクリーンを掛けて、落ちていた下着を履かせて身なりを整えた。そして、傷ついた体に治癒魔法をかけた。


 カヨは兵士を探しに外へ出た。

 ここは貴族街のようだ。そして城が見える。

 カヨは王宮兵士を連れて来る方が早く済むと思い、進路を変えた。


 運良く見回りの兵士を見つけた為に、2人1組の兵士に「神の怒りが落ちた男性がいる」と報告すれば、1人は王宮へ走って応援を呼びに行き、もう1人の兵士は道順を聞いてきた。応援を連れて帰って来る仲間に居場所を伝える為だ。

 カヨは方向音痴だがマップにシルビオ少年をマーキングしておいたので居場所がわかる。


 「ジンネル侯爵の屋敷か」と兵士が言っていたので、あの男は侯爵だったらしい。


 話をしている間に応援が来て、一緒にジンネル侯爵の屋敷に行った。


 カヨは侯爵邸を出る時は呼び止められなかった門番に止められて、王宮兵士が門番と話をつけてくれたので案内した。


 王宮兵士はシルビオ少年の母親の部屋に入ると、神の怒りを落とされた侯爵を拘束して、他の兵士が長男を探しに行った。


 カヨは後は兵士に任せればいいとシルビオ少年と親友の少女の元へ向かった。


 シルビオ少年の部屋に入ると親友の少女が泣いてシルビオ少年と抱きしめ合っていたので、気まずくなりながらも「シルビオ少年の父は王宮兵士に捕まった」と報告した。


 シルビオ少年は青ざめたが、少女は安心したようだった。

 シルビオ少年は父親に多少の家族愛があったのだろう。母親を亡くしてからそれほど年月が経ったようでは無いし。


 カヨはシルビオ少年の第二の家族になるほど大切なのが親友の少女だと思い、シルビオ少年の手を取って言った。


「彼女と神殿で暮らしなさい。心の整理がついてからでいいから。彼女が大切なのでしょう?」


 シルビオ少年が心細そうな瞳でカヨを見た。まだ人の醜さを知らない純粋な少年だ。神殿に行けば歓迎されるだろう。


 カヨはマップでこの国の位置を知った。神殿の隣の国だ。


 カヨはこの国に来てから読心をずっとonにしている。

 この国はシンクフド王国で、ここは王都なのだと。


 少年が貴族として暮らしたいなら強要はしないが、たぶん神殿に行った方が幸せに生きれるはずだ。


 カヨはこれ以上は出来ることがないと、最後に少年と少女を撫でてからカーマインの屋敷に瞬間移動した。


 ユーリに施した遮音魔法を解除するとユーリが泣いている。

 そういえば、赤ちゃんは多少の雑音があった方がいいと調べた中にあった気がする。いきなり無音になって驚いたのかもしれない。

 泣いている柔らかい頬にキスをした。

 愛しい子。あなたは理不尽なんかに負けない子に育ってちょうだい。


 祝福の光がカヨからユーリに入ったが、片方は乳児、もう片方は目を閉じていたから誰にも知られずに祝福は成った。


 これが後にユーリにどんな影響を与えるのかは、まだ誰も知らないままである。

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