ダンテ、カーマインの厨房で修行する
今日はダンテをカーマイン領にお迎えする日だ。
朝食を食べた後に、ルークを使用人の子供部屋に預けて、使用人部屋の管理人に空いている部屋の鍵を貰い部屋番号を確認してから部屋を実際に見に行くと、最低限の掃除はされていたみたいで、後は個人で何とかしてくれ状態だった。
地球通販で料理長にも負けないコック服を3着用意して、サイズ自動調整を付与した後にとりあえずベッドの上に置いておく。
創造魔法で瞬間移動扉を1セット創造して、1つを壁にセットする。
もう1つはアイテムボックスの中にしまう。
ここから瞬間移動で自宅の寝室に行って、キッチンに顔を出すとダンテが仕事をしていた。
いや、あなた、今日から移動だから。仕事してちゃいけないでしょ。
ダンテの部屋がわからなかったから助かったけども。
「おはよう、ダンテ。今日からカーマインの厨房に移動だよ」
ダンテとキッチンに居たみんなが寂しそうな顔をした。
ダンテは1人ずつ別れの挨拶をしている。すぐに帰って来れるのに。
あ、もしかしたら知らないかも。
いや、リンダと同じ扱いだって言った気がする。
いつも優しそうな顔が覚悟をした顔になっていて、気合いは充分のようだ。
「ダンテの部屋に案内してね」
素直に二階に上がって部屋の中に入ると、何故か荷物が纏めてあった。
あー、ダンテが勘違いしている。
ちょっと申し訳なくなったカヨだった。
カヨは空いている壁にアイテムボックスから取り出した瞬間移動扉を設置してダンテの少しだけ寂しくなった髪の毛を2本もらって、1本はダンテの部屋の瞬間移動扉横にあるポケットの中に入れて、カヨはこの瞬間移動扉には自分の髪を入れて無いから通れないので、カーマインのダンテの部屋に瞬間移動して瞬間移動扉横のポケットにダンテの髪を入れた。
そしてまた瞬間移動してダンテの部屋に戻るとダンテが驚愕の顔をしていた。
あれ?ダンテの前で瞬間移動した事なかったかな?
「ダンテ、この扉に入るとカーマインで借りているダンテの部屋に出るから、いつでも好きな時に出入りしていいよ。朝食は自宅で食べてね。昼食と夕食はカーマインで食べれるからリンダにでも聞いてね。
さあ、ダンテ。この扉を通って」
大きな荷物を持ってダンテが扉を手で触ると、手が扉にするっと入った。
ゆっくりとダンテが扉を通っているので、カヨは瞬間移動してカーマインのダンテの部屋に移動した。
ダンテが驚いた顔でカヨを見ている。
完全にこっちに来たダンテに声を掛けて説明する。
「ベッドに置いてあるのが、この部屋の鍵ね。コック服もベッドに並べてあるから洗濯しながら毎日着替えてね。私は部屋の外にいるからコック服に着替えたら部屋から出てきて」
カヨは部屋の外に出た。
ダンテの薄くなった髪を思い出して、一緒に居た時を思い出す。
一番買い戻し金が少ないのがダンテなんだよね。
カーマインで一年修行して、自宅に帰りキッチンのみんなに技術を教えてもらった頃に、ダンテがお金を貯めていると仮定したら買い戻しが出来る計算になる。
今のダンテの腕でも好きな所に勤められるだけの腕がある。カーマインの厨房で修行したダンテを欲しがる所は多いだろう。自宅のキッチンで働かなくてもいいくらいに。
カヨは、もしもを想像した。
寂しくなるなぁ。
ちょっと妄想にふけっている間にダンテが着替え終えたようだ。
部屋から出て来たダンテを見る。
おー!コック服かっこいい!でも帽子がこの世界に合わない。先取りしすぎた感が有る。
帽子は被らないといけないので仕方がないのだが。
「ダンテ、部屋の鍵を閉めてから私の後をついて来て」
ダンテが部屋の扉に鍵をかけたのを見てから歩き出す。
歩みはゆっくりだ。ダンテが地形と道を覚えられるように。
領主館の隣の領主の屋敷の裏口から中に入ると厨房まで歩いて行く。ダンテは初めての場所に目をキョロキョロさせている。
厨房に入ると、朝食の後片付けと昼食の下拵えをしていたので、料理長を呼び出す。
「料理長、こちらが私の料理人のダンテです。ダンテ、こちらがカーマインの屋敷厨房の料理長です」
カヨは料理長の名前を知らなかった。
「料理長のビルだ。これから1年間よろしく」
カヨはちょっと感動していた。料理長の話し方がいつもと違う。それと名前を初めて知った。
「私はダンテと申します。1年間よろしくお願いします」
おお!ちゃんと胸に手を当てて挨拶している。
挨拶勝負ではダンテの勝ちだな。
「料理長、ダンテの修行をよろしくお願いします」
料理長は笑顔で答えた。
「任せてください」
うむ、と、頷いて厨房から出た。
その後にノアの部屋まで歩いて行く。
部屋に着いたらユーリに授乳させて、あんまり前回の授乳より時間が空いてなかったからか飲む量が少なく、ユーリが飲み終わった後には搾乳機で母乳を搾ってストックした。
昨日、結構行商で品物が売れたので地球通販の履歴から商品を購入してアイテムボックスにしまい、ユーリを抱っこ紐で抱っこして領都の街に向かった。
たくさんの人から挨拶を受けつつ、油と男性用下着と塩を大量に仕入れて、人目の無い所に行き瞬間移動で昨日進んだブァイス領の道に瞬間移動した。
ユーリと自分にインビシブルを掛けた後、飛行魔法で道なりに飛んでいく。もちろん広範囲探知をしながら。
中型魔物が探知に引っかかるとだいたいウルフかビッグ種なので倒してアイテムボックスにしまい、また道なりに飛んでいくと村があったので地面に降りてインビシブルを解き、村の中に歩いていった。
朝の農作業を終えて一息ついたところだったのか、見かけない村人を探して村長の家を教えてもらい、行商の許可を貰いに行くと、村長が「土地の貸し出し金を渡せ」と言って来たので、ムカッと来たので商売せずに村を出た。
普通の村だと行商人はありがたがられるんだぞと思いながら、またインビシブルを掛けて道なりに飛んでいく。
村人には悪いが、対応の悪い村長を上に頂いている責任もあるのである意味、自業自得だ。
ちょっとぷんぷんしながら行くと、次の村が見えてきたので地面に降りてインビシブルを解除して歩いていき、村の中に入る。
静かな村に違和感を感じながら村人に聞いて村長の家に行くと、疲れたような顔をした村長が出てきたので行商に来たと言うと隣の集会所の土地を貸してくれた。
商品を広げていたら村人達が集まって来たので素早く準備を整えて開始の声掛けをすると「傷薬はないか?」と聞かれたので、治癒魔法が使えるので銀貨1枚で治療すると答えると村人達が喜んで散って行ったので、残った村人相手に商売した。
そうしたら怪我人がゾロゾロと来たので、販売は一時中止して治療に力を入れると酷い怪我人が多かった。
話を村人達に聞いていると、ウルフの群れが来て村人達を襲い、少なくない人達が犠牲になったようだ。
でも、何とかウルフは撃退出来たようで、今は安心して外に出れると聞いた。
怪我人はどこか齧られて欠損したり、肉を持っていかれている人が多かったので、完璧に治していくと歓声が上がった。
生々しい傷跡は苦手なカヨだったが、銀貨1枚で肉体の再生までするので感謝されて村人達を治療していくカヨだった。
元気になったら購買意欲が湧いてきたようで、塩と服がよく売れた。
お昼の時間が近くなっても村人達が買い物をしているので、慌てて店じまいをして村を後にして屋敷のノアの部屋に瞬間移動して、血生臭く感じる身体にクリーンを掛けて食堂に向かった。
村人達が昼食の準備をしていなかったので、1日二食の生活なのかもしれない。
やっぱりブァイス領民は貧しいのだと再確認した。




