ライラさんとお兄様からのお願い
また新しい朝がやってきた。
我が子の泣き声と共に。
隣で唸っている旦那を放置してユーリにクリーンを掛けて、自身にもクリーンを掛けてから授乳した。
うーん、ユーリも大きくなってきたなぁ。生まれた時の2倍になるんじゃない?
おっぱいに埋もれるようにうくうくとお乳を飲んでいるユーリを見下ろす。
私のおっぱいが大きく見える不思議。
普通サイズなんだけどね。
それにしても生まれた時より授乳感覚が伸びてホッとする。
乳幼児が2人いるだけでも大変なのだ。授乳回数が減るとカヨの自由時間が増える。
二度寝に突入したノアはほっといて、ユーリをベビーベッドに寝かせてから隣の部屋にルークを迎えに行くと、今日は珍しくまだ起きたばかりでボケボケしている。
かわいい〜!!
メイドさんからルークを渡されて寝室に引っ込み、ルークの口にお乳を当てると力が弱いながらも飲んでいるようだ。
昨日のルークの寝付きが悪かったのかな?
時間をかけてルークを覚醒させて、ノアに突撃させる。
その間に搾乳機で母乳を搾る。
ノアとルークの楽しそうな声が聞こえてきた。
母乳をアイテムボックスに入れてからユーリを着替えさせて、自分も着替えてから朝の支度をして親子4人で食堂まで行く。
1番最後だったみたいで朝の挨拶をしてから素早く行動して朝食をいただく。
今日はいつもと違う事があった。
あれ!?ビクター君、もう離乳食!?メイドさんがトロリとした液体を椅子に座ったビクター君に食べさせている。
ビクター君は嫌そうな顔をしているが。
「ライラさん、ビクター君が離乳食なんて早いですね」
「今から忙しくなるからミルクが無くても栄養が取れるようにしているのよ」
「忙しくなるんですか?」
「そう!ティモシーが学校に行くと同年代の貴族と交流が出来るから、お茶会なんかに出席して生徒達の状況を把握しないといけないし、遅れた情報を披露すると奥様方に笑われるらしいのよ!もう大変!法衣貴族もいるらしいから貴族年鑑を見直さないと!」
ライラさんの言葉を聞いてお母様が頷いている。
ライラさんの子供はティモシー君が初めてだから、この情報はお母様の経験談かもしれない。
貴族って怖い。
あれ?っと思ってルークを見つめる。
ルークは貴族学校に行くのかな?私が伯爵の位を持っているから行くのかもしれない。
カヨに垂れない汗が垂れたような気がする。
「ライラさん、ティモシー君の学校が始まったら果物でマウントを取ってください。負けないでください!」
カヨの心に火がついた。
カヨは少し負けず嫌いなのだ。馬鹿にされてたまるか!
「ええ!そうね!果物は今やカーマインの特産だわ!私とティモシーを笑ったら果物あげないんだから!」
ライラさんも燃えているようだ。ティモシー君、頑張れ!
「あ、そうそう、カヨさん。噂で聞いたのだけど、バナナとチョコが貴族に流通しているらしいの。カヨさんが商人に卸しているの?」
ライラさんが強い眼差しで見つめてくる。
「はい、私が雇っている人が商業ギルドに卸しています。それがどうかしました?」
「いえね、新しい特産が出来たと声高くしている貴族がいるから疑問に思ったのよね。それって流通を止める事は出来る?」
「雇っている人がいるので完全に流通を止める事は出来ませんが、3人だけなので商業ギルドと商人に売らないようにする事は出来ると思います」
ライラさんがお兄様を見て伺う。
「ミリアン、いい?」
お兄様は頷く。
「ああ、大丈夫だ」
「カヨさん、ビクターが貴族学校を卒業するまでバナナとチョコを他の貴族の手に渡らないように出来る?損害の補填はカーマインがするから」
ライラさんが凄い真剣だ。お兄様を巻き込んでいる。貴族のマウント取りなのだろうか。
「商業ギルドに卸すのはやめさせますが、市場の流通は止めませんよ。住民の中に浸透してますから取り上げると雇っている人達が困ります。それと、損害の補填はいりません。一応、商人が市場に買いに来た際のお断りは今もしています」
お兄様とライラさんが見つめ合って、お兄様が頷いた。
ライラさんが話し出す。
「それでいいわ。よろしくね」
「はい」
なんだか、私の知らないところでいろんな陰謀が渦巻いていそうだ。私の紋章をロザリーとハルトさんに渡しておいた方が良さそうだ。貴族の脅しなんかがあるかもしれない。
「カヨさん」
お兄様に話しかけられた。ちょっと緊張する。
「はい、なんですか?」
「カーマイン領は獣人の領地だから他の貴族と婚姻政策が取れない。わかるかな?」
「獣人は番いがいるからですね?」
「そうだ。それ以外で公爵として下位の貴族に見下されてはならないのだ。それと他の貴族との連携や信頼関係を築かなければならない。王宮に兵士を派遣しているだけでも強い力を持つが、念には念を入れたい。協力してくれるかな?」
「出来る事ならば」
空気がピリついた。
お兄様は家族だけど、利用してされる関係にはなってはいけない。対等でないと。
「今のところはそれでいい。よろしく頼むよ」
お兄様が譲歩してくれたようだ。
カリオンは王領だから儲けさせても問題ない。
問題はーー。
「お兄様、アイーラ領のキノクニー街でバナナとチョコを卸していたのですが、それがダメならアイーラ領のエネス街にもマジックバッグを卸しているのですが、やめた方がいいですか?」
「出来れば、それもやめてくれ」
「わかりました」
ニットラーさん、ゴメン!
あー、気分が暗くなる。
こんな時は行商に行きたい。
ノアが頬を触ってきた。
ノアを見ると心配そうな顔をしている。
私の事を心配してくれたんだ。
ぽっと心があったかくなる。
ノアの手に私の手を重ねると、優しく握り返してくれる。
今日だけはお父様も見逃してくれたようだ。
貴族って面倒臭い。
あ!ルーク!
離乳食を食べているルークを慌てて見ると、普通に楽しそうに食べていた。
はぁ〜、と力が抜ける。
守りたい優先順位を間違えてはいけない。
カーマインの家族は大事だけど、それはノアがいるからだ。私の一番大事なのは家族。ノアールとルークとユーリだ。他の家族はその次!私は私の道をゆく!
私は家族と、その周りが幸せならそれでいいんだ。
ニットラーさんには他の売り物を提案しよう。
今日はお兄様はお休みらしく、王都の屋敷にライラさんとティモシー君と行くらしい。
お父様とノアのお見送りをしてから、ルークを使用人の子供部屋に遊ばせに行く。
あれ?ルークは使用人の子供部屋に遊ばせに来させられるけど、ティモシー君がいないウィル君てどうしてるんだろう?
近くにいたお母さんに聞いてみると知っていたらしく、午前中は勉強だけど午後からは乗馬をしているらしい。
そして、お昼寝か。お母様がついてるのかな?
レインに乗りこなしていたウィル君だから乗馬も余裕だろうね。
ユーリを抱っこして歩き出す。
そして人気が無い所で瞬間移動する。
キノクニー街、ロザリーの家へ。
ロザリーの家から出て市場に行く。
ロザリー達が以前に出店していた所だ。
相変わらず賑やかな街だと思う。冒険者も商人みたいな人も多い。露店も見ているだけで楽しい。
あとは、なんだかなー。スリ、かな?目に見える軽犯罪者が多い。捕まえてたらキリがないわ。軽犯罪者って奴隷になって比較的すぐ解放されるから旨みがない。反省が無い。一時は平和になるんだろうけど、ココは余所者が多いから多分キリがない。
カリオンは余所者が多いけど平和なんだよなー。
あ、行列の出来る店、発見!
多分、ロザリーとハルトさんの、はず。
あ!今日はロザリーも店番してる!人がいない!けど、2人でやってるから列が短い。
へっへっへっ、ロザリーは借りるぜ。
ロザリーの後ろに回って声を掛ける。剣を突きつけられては敵わない。いや、勝てるけども。
「カヨ!珍しく早く来たな!」
ロザリーは元気だ。
ロザリーを人がいない方へ誘導する。
小さい声で話す。
「ロザリー、ごめんだけど貴族からの指令です。バナナとチョコを商業ギルドと商人に卸すのを禁止します。繰り返します。貴族からの指令です」
ロザリーは驚いていたけれど付き合ってくれた。こしょこしょ話しだ。
「本当か?商業ギルドに卸さないと今、バナナとチョコが人気すぎて、もしかしたら露店も開かせてもらえなくなる可能性があるんだけど……」
「私の旦那さんがとある領主の弟なんだけどね?お兄様の、領主の指令なの。ここで商売出来なくても賃金は保証するから。それと今、私の使用人の身分証を作ってるんだけどね、出来上がったらロザリー達にも上げるから、今脅されたら貴族の後ろ盾があるって言っておいて。あ、収穫はいつも通りお願いします」
ロザリーがゲンナリとした顔になった。
わかるよ、わかる。クレーマーの相手はしたくないよね?貴族の使いなんかが来たら最悪だよね?
「まぁー、とりあえずわかったけど、危なくなったら助けてくれよ?」
「なるべくまめに来るようにするけど、危険を感じたら畑の方に避難してきて。この街の家に踏み込まれても畑の家に行けば助かるから」
「わかった。兄ちゃんにも言っておくよ」
「よろしく」
ロザリー達への秘密の指令は終わった。




