孤児院で生活 9
ラルがたくさん焼けた。ふくらし粉があったのか朝食で食べたのより縦に膨らんでいる。冷めないように、アイテムボックスの中に作ってすぐ入れたから温かいままだ。コップを用意して牛乳の準備をする。
勉強部屋に行き、みんなに「昼食出来たから食堂に集まって!」と言うと、大きい子は落ち着いているが、小さい子はきゃわきゃわ移動する。かわいい。
セルフサービスなのでトングを用意して、自分達で好きなだけ取ってもらう。2列に分かれてるので、取っていくスピードが早い。無くなったらアイテムボックスから追加を出す。牛乳はモニカさんとフランさんが配ってくれている。全員取り終わったら作ったラルを全部出して自分の分をよそい「おかわりあるよー」と言いながら席に着く。
ラルを食べると、パンケーキの味がした。砂糖が入ってるから甘い。うん、これはおいしい。子供達も気にいったのか競うようにおかわりしている。少し小さめに作ったから、幼児さんじゃない子は物足りないんだろう。
昼食、今日もきれいに無くなった。片付けをして、モニカさんと散髪部屋に行く。
子供2人に来てもらう。ミーチェちゃんが来た。やっぱりお母さんに切って貰いたいよねぇ。だいぶん小さい子達になってきたなぁ。全員綺麗になる日も近いな。作業途中で調査員の人が覗きにきた。疑ってたんかい?それとも子供に癒されにきたのかな?
小さな子供達になると、美容室の椅子が大きくなり出した。衝立の後ろで、子供用補助椅子を2つ購入し、モニカさんにも使ってもらう。
今日も8人終わった。頭が小さいから散髪のスピードは上がったんだけど、1人で服を何着も着るのが大変な子供が増えた事でどっこい。でも、明日には全員終わりそうだな。
私は、畑から外に出て子供達を横目に見ながら井戸までくる。巻尺を地球通販で購入し、創造魔法で透視スキルを作る。
厨房に排水溝があったから、あると思うんだけど。私は透視スキルを使って地面の中を見る。あった!スライム?排水溝から下に穴を掘ってスライムを中に入れているんだ。3匹いる。スライムは穴を登れないみたいだ。丸餅みたいになってる。下水道があると思ってたので違うけど、仕組みは分かった。
厨房の裏口に邪魔にならない場所。よく見たら井戸の近くにも排水溝があった。ここも避けて、ちょうどいい広さの場所を探す。
少し井戸から離れるけど良い場所があった。土魔法で小さい石を4つ作り、広さを決めて石を置く。石から石までの距離を測り、アイテムボックスから取り出した鉛筆と紙に書いていく。高さもいるんだと思いだし、飛行魔法で飛んで、孤児院の壁を参考に測る。紙に書いた後で、院長を探す。
探知魔法作ったら早いんじゃないかと思いつき、創造魔法で探知魔法を作る。院長を探知!いた!院長室だ。院長室まで行き、扉をノックする。返事があったので中に入ると、調査員の人たちがいない。院長に聞くと帰ったらしい。多分だけど、来月には援助金が増額・大人5人と子供42人分のお金が貰えるそうだ。役場に相談に行けばすぐ対応してくれた事で、長い間張り詰めていたものが緩んでしまったのだろう。気がつかなかった自分に院長は落ち込んで、脱力していた。人間追い詰められると視野が狭くなっちゃうことあるある。
でも、相談してすぐに対応してくれるだけ良い街だと思うけどね。
脱力している院長には悪いんだが、私の用件を聞いてもらう。厨房の裏口と井戸があるところに、小屋を立てたいんだが、建てていいか伺う。どこですか?と言うので説明すると、よく分からなかったらしい。一緒に現場まで行く。「この石で囲んでいる所です」と言うと、院長の許しが出た。あと、排水溝のスライムは何処にいけば手に入るかを聞くと、建築資材を売っているお店で買うか自分で捕まえて来るらしい。
畑に出ていた子供達が井戸に来てみんな手を洗って行くので、多分夕食だろう。私と院長はクリーンをかけて、厨房の裏口から中に入った。
夕食を食べ終え、片付けもしてから部屋に帰る。カルロス一家と異空間住居に行き、モニカさんに明日の朝寝過ごしたら起こしてもらう様にお願いする。
玄関に入った所で別れる。2階のパソコン部屋に行き、地球通販でプリンターを魔道具化して買い物カゴに入れ、建築ソフトも一緒に買う。出て来たプリンターをすぐに使えるようにセットする。パソコンにソフトを入れて、作業を開始する。小屋の大きさは横長で、奥行きは少し広めに、窓は正面に大きく、両側に小さく付ける。扉は幅広めで、鍵付き。外観は洋風、色は孤児院に合わせて、床は少し傾けて水捌けがいい様にコンクリートで、排水溝のところに穴を開ける。イメージしやすい様にしたら、カラーでプリントする。アイテムボックスに入れ、地球通販を開く。
洗濯機で検索すると、沢山種類が出て来る。業務用のものがいいが、注水がどうなっているか分からない。それだとドラム式も全自動も諦めなければいけない。水道がないのだ。ホースが繋げない。魔道具化するにしてもどう水問題が解決するか解らない……。
二層式洗濯機の大きいサイズを買うか。魔道具化して、いらない注水部分は無くして、大きめの水の魔石をつける。これで魔力を流せば水が……いや、40℃くらいのお湯が出るように出来るか?出来た!水色に赤がマーブルっぽく色づいてる。これは何属性の魔石だろうか?お湯属性?分からん。とりあえず出来たからいっか。文字数字部分を異世界語に変える。数は3台っと。
あとは洗濯乾燥機・業務用!一台。魔道具化して、こちらも文字数字部分を異世界語にする。
この部屋で出せないから、画面を開いたまま外へ。
うわあ!星がすごい!こんな夜空いっぱいの星、見たことない。山で見た星より多いかも。
違う違う。今は地球通販だ。購入!4台どんと出て来た。全部アイテムボックス入れる。さぁ寝よう。
……さ…ん……か……さ…か…ん、カヨ…さん
「カヨさん!!カヨさん!!カヨさんてば!!起きて下さい!!」
びっくりした!!寝起きに心臓に悪い。
「カヨさん、やっと起きてくれたぁ。朝ですよ!朝食遅れますよ!」
「わがった。おきまふ。おきました。ありがとうございます」
モニカさんはドアから出ていった。慌てて着替えて1階に行き顔を洗い歯磨きする。リビングに顔を出しカルロス一家に声をかけ、みんなで急いで食堂に行く。
子供達が配膳していた。間に合った、良かった。配膳の列に加わる。朝食を貰って椅子に座りひと息つく。もう一度モニカさんに「ありがとうございました」と声を掛けると「もう起こしませんからね!」と言われた。お怒りのようだ、静かに朝食を食べ始める。安定のおいしさだ……。
使った食器の後片付けをする。終わったら、厨房の裏口から外にでる。昨日、石で印を付けた所まで行き、地面を触る。地面を平らに慣らすことをイメージして土魔法で魔力を流す。平らになった。小屋を立てた後傾かない様に、地面を上から下に圧縮。触ると硬くなっていた。アイテムボックスから印刷した紙を取り出し、小屋のイメージ画像をよく見て、頭の中でもイメージする。手をかざし声を出す。
「創造魔法・小屋!」
魔力の残滓が散る。目の前にはイメージした通りの小屋が出来ていた。扉を開け中に入る。天井についている魔道具・人感知式ライトが光る。成功だ。
昨日買った洗濯機を横に並べて置いていく、最後は業務用乾燥機だ。なんか、やり遂げた感が強い。満足。まだ使えないんだけどね。
「何ですか!?これぇー!?昨日無かったですよね?」
「無かったわね。何かしら」
外から声が聞こえた。ひょいと顔を覗かせる。ルイーネさんとフランさんがいた。洗濯物沢山持ってる。
「カヨさん!何ですか?この建物!」
ルイーネさんが興奮している。
「洗濯する所を作ったんですけど、まだ使えないんですよねぇ」
「洗濯する所!中に入ってもいいですか!?」
「良いですよ」
「これは何ですか!?」
「これは洗濯機と言いまして、魔道具なんですよ。1番大きいのが乾燥機と言いまして、これも魔道具です」
「魔道具!凄い!凄いです!」
ルイーネさんは興奮して、フランさんは後ろから覗き込むようにして見ている。
フランさんが「まだ使えないってどういう事なんですか?」と聞いて来たので、「スライムがいないんです」と答えた。
「スライムなら取ってこればいいじゃないですか!」
取ってこればって、元冒険者は言う事が違うな。
「いや、身分証明書がないんで外に行ったら門でお金とられるでしょう?それに買った方が早いかなぁって」
「そうですかぁ、使いたかったなぁ」
使いたかったか。そういえば、こないだ2人で洗濯して午前中いっぱい時間かかってたな。……てことは今からスライム買いに行ったら午前中に余裕で帰ってこれるし、乾燥機があるから午後には洗濯物が乾かせる。
「2人共、洗濯しないで待てますか?今からスライム買いに行ったら魔道具つかえるんで、洗濯は魔道具がしてくれますよ」
キラキラした目のルイーネさんとどうしようって顔したフランさん。2人で顔を見合わせた後、ルイーネさんが「待てます!」と言った。
「じゃあ、この洗濯物は小屋の中に入れて置いて下さい。私、今からスライム買いに行きますので。あと、これは鍵です。鍵をこうさして左に回せば鍵が閉まります。右に回せば開くので、試して下さい」
と言って孤児院を出た。とりあえず場所が分からないのでそこらにいる兵士さんに建築資材を売っているお店の場所を聞く。教えてくれたのでマップでチェック。どうもあんまり使われてない門の近くのようだ。
着いたけど木やレンガがこれでもか!って程積まれてる。本当にここでいいのだろうか?お店の人っぽい人が出てきた。
「すみません!ここってスライム売ってますか?」
「ん?ああ売ってるよ。何匹欲しいんだい?」
「3匹欲しいです」
「ちょいと待っといてくれや」
と言ってみせの中に入って行く。よかったここで買えるんだ。ちょっとだけ疑った。ちょっとだけだよ院長。さっきのおじさんが出て来た。
「お嬢ちゃんスライムの入れ物持ってるかい?スライムだけなら1匹5銅貨だが、入れ物が金貨10枚かかるんだわ」
「ちょっと待ってて下さい。すぐ戻りますから!」
金貨10枚ってぼったくりでしょ!スライムだよ!
横道に入り、地球通販で金属のバケツを買う。それをもってお店に戻る。
「お待たせしました!この中に入れて下さい!」
「おう!」
ボトボトボト
手のひら位の大きさのスライムだ。おじさんに2銀貨を渡す。「おつりな、ありがとよ」と銅貨5枚渡される。
スライムの入ったバケツを持って歩く。地味に歩きにくい。私は黙々と道を歩いた。
孤児院に帰って来た、長い道のりだった……感覚的に。スライムを洗濯場に置きに行こう。
鍵は2人に渡して行ったんだったな。洗濯するには石鹸がいる。2人はいつもどうやって洗濯していたんだろう。そうだ!洗濯洗剤を作れば良いんだ。誰でも使えるように。これは創造魔法への挑戦だな。
洗濯場の隣の地面に手を付ける。洗濯洗剤にこだわらなくていい、万能石鹸をつくる。洗濯出来て汚れが落ちる、手も洗えて頭も身体も洗える、食器も鍋も洗える自然に優しい使い切りのジェルボールみたいな石鹸。病気に強い石鹸の木・創造!
地面にぐんぐん魔力が吸い取られる。こんなに魔力使うの初めてじゃない?まだまだ魔力が吸い取られる。いつになったら止まるんだろう……あっ、止まったと思ったら芽が出てぐんぐん伸びて成長していく。小さい木になったと思ったら次は実がつき始めた。黄緑色で、大きくなってライチの実位の大きさで止まった。木の高さは150cmくらいかな。実を触ってみるとぷよぷよしてる。創造魔法成功ってことでいいかな?あとは、使ってみてだよね。
さて、ルイーネさんを探知!誰かの部屋にいる。
ルイーネさんがいる部屋をノックする。「はい」と返事がしたのでドアを開ける。
「ルイーネさんカヨです。スライム買ってきましたよ。フランさんはどこですか?」
「フランは厨房だよ。裏口から呼べばいいからさ、早く行こう」
ルイーネさんが鍵を持っているみたいだ。洗濯場まで行く。鍵を貰って扉を開ける。排水溝まで行ってしゃがむ、何メートルの深さにしよう?10mくらいでいっか。土魔法で10m縦に排水溝の大きさで穴が空くように魔力を注ぐ。出来た、バケツを傾けてスライムを穴に入れる。潰れて死なないよね?はは、たぶんだいじょうぶでしょ。
2人が来た。3台あるから、1人1台ずつ使って覚えて貰おう。
「2人共外に出てもらえますか」
石鹸の木の前でとまる。鑑定してなかったな、鑑定!
ー石鹸の木ー
魔力で成長する魔木。魔力がある限り枯れない。実はどんな汚れでもおとす。自然に優しい。
フランさんに名前を呼ばれて我に帰る。2人にこの木の実は石鹸になると説明。2人は疑っているようだ。あれ?もしかしてさっきまで無かったの覚えてる?慌てちゃダメだ、冷静に冷静に。1人1つ実を取る様に言う。取ったら洗濯場に入る。
「ルイーネさんフランさん洗濯機が3台あるので1人1台使って練習しましょう。洗濯物もらえますか?はい、このくらいまで洗濯物を中に入れて下さい」
2人共洗濯物を入れて行くギリギリ入った、というか入れたかな。
「洗濯物を入れ終わったら、正面に付いている魔石に魔力を入れて下さい。そうしたら、お湯が出ます」
手を当てているがお湯が出ない。2人共だ。こういう時には、ゆっくり魔力を体に流してあげるといいんじゃない?ルイーネさんの背中に手を当ててゆっくり魔力を流す。
「ルイーネさん、どうですか?今魔力を流してます」
「何か温かい……」
「その温かいのを自分で動かすように意識して下さい」
フランさんにも魔力流すかな。フランさんの背中にも手を当ててゆっくり魔力を流す。
「フランさんどうですか?今魔力をフランさんの中に流してます」
「体が温かい」
2人の身体の中で魔力が巡るように流してみる。
「魔力を手に集めて下さい、集まったら手から外に魔力を出して」
「何かぐるぐるする」
ぐるぐるするだけかぁ。これはすぐに覚えられる物じゃないのかもしれない。魔力を流すのを止める。
「え、どうして……」
ルイーネさんが何で魔力を流す事をやめたのって顔で振り向く。フランさんも私の顔を見た。
「この方法じゃ、すぐには魔法を覚えられないみたいなので、裏ワザを使います。2人は魔法を使うならどんな魔法を使いたいですか?」
「裏技?」「魔法を使う」と呟いている。
「私もし魔法が使えたなら、治癒魔法を使ってみたかったの」
とフランさんが言った。ルイーネさんは悩んでいるみたいだ。
「冒険者時代は火魔法みたいな攻撃魔法を使いたかったが、孤児院じゃなぁ……」
「院長はクリーンが使えますよ」
「クリーンか……」
「カルロスさんはアイテムボックスが使えます」
「アイテムボックスもなぁ、冒険者時代に欲しかったなぁ」
「水魔法が使えれば、いつでも水が飲めますよ」
「水魔法も冒険者時代に欲しかったなぁ」
「今欲しい魔法は?」
「怪我して借金奴隷になっちまったからなぁ。私も治癒魔法かな?」
「本当に治癒魔法でいいですか?」
「ああ!治癒魔法だ!」
「それでは先にフランさん、ちょっと痛いですよ。フランさんに治癒魔法を付与!」
「くぅっ!っっ」
「ルイーネさんもちょっと痛いですよ。ルイーネさんに治癒魔法を付与!」
「ぐぅっっ」
2人共胸を抑えているが倒れる程じゃない。汗も出てない、大丈夫だ。2人が落ち着くまで、しばし待つ。
「2人共、体調はどうですか?良くなりましたか?」
「ええ、大丈夫」
「疲れたが、まあ問題ない」
「今の2人は治癒魔法が使えます。ヒールを自分に使ってみて下さい。そうしたら魔力の使い方がわかります」
「「ヒール」」
「体が楽になった」
「魔力の巡りが、分かったわ」
「分かった所で、洗濯機の魔石に魔力を注いで下さい。お湯が出たら石鹸の実を開いた手で潰して下さい。ついでに潰した手を洗って下さい」
ルイーネさんとフランさんが洗濯機の魔石に魔力を注ぐと勢いよく魔石からお湯が出だした。私も洗濯機に魔力を流そう。洗濯物が全部お湯に浸かったところで、魔力を止める。
「洗濯物が全部お湯に浸かったら魔力を止めて下さい。上につまみがあります。これを15に合わせて下さい。洗濯機が動き始めます。この数字は時間を表しています。洗濯機が動いて衣服を洗ってくれるので、あとは待つだけです」
15分たち洗濯機が止まる。
「止まったらこのつまみを、こっちに動かします。動かしたら洗濯槽の汚い水が排水溝に流れて行きます。その間に、脱水槽に服を移していきます。上から中蓋で押さえたら、1番上の蓋をしめ3に合わせます。そうしたら水が切れ、汚れた水も流れます。洗濯槽が汚れていたら洗って下さい。洗濯槽の水が全部流れたら、このつまみを元に戻して下さい。それから、きれいなお湯を注いで下さい。脱水が終わったら洗濯物をほぐして洗濯槽に移して下さい。洗濯物が全部お湯に浸かったら、このつまみをまた15に合わせて下さい。このまま待ちます。
15分たち洗濯機が止まる。
「さっきと同じです。このつまみをこっちに動かして、洗濯槽の中の服を脱水槽に移して下さい。中蓋で押さえて、上の蓋を閉めてからこのつまみを3に合わせます。洗濯槽が汚れていたら洗って下さい。水が全部流れたらこのつまみを元に戻して下さい。脱水が終わったら衣服をほぐして、乾燥機に持っていき中に入れます。全部です。扉を閉めて、電源を入れスタートを押します。これで終わりです。あとは乾燥機が止まったら電源を切って下さい。中の服が乾いてるので部屋に持って行って下さい。最後に小屋を出る人は鍵を閉めてから帰って下さい」
何となく分かったようだ。これで少しでも洗濯が楽になったと思ってくれたらいいな。




