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【旧作】私は異世界で自由に生きる〜子供達に癒される〜  作者: 春爛漫


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ベティーさんの熊鍋

 コナーさんのお店まで歩いて行くと、すごく注目される。


 『幼児の凧揚げ』


 珍しいだろうね。私も珍しいと思う。

 でも、ルークが降りてこないのだもの。仕方がない。おんぶしなくて楽という理由もある。


 富裕層向けの広い道をのんびりと歩いて行く。

 いつもより声かけられないなぁ。実はみんな引いてるのかな?


 コナーさんのお店に着いたら、ルークが天井に頭をぶつけないように紐を巻き上げる。

 そして、ルークを浮かせたまま中に入る。早かったかな?人が少ないや。


 コナーさんの奥さんが気がついてくれた。


「カヨ様、いらっしゃいませ。御用向きをお伺いします」


 きっとルークが飛んでるのをツッコミたいだろうに華麗にスルーするのはプロだ。


 私はアイテムボックスから切り込みの入った服を出して見せる。


「これは……この店で仕立てさせていただいたものですね。どうされますか?」


「胸の所に切り込みが入ってしまって、まだ着たいので刺繍か何かで修復出来ませんか?」


「見させてもらいますね。……小さい穴なので刺繍でもすれば綺麗になりますよ。図案は決められていますか?」


「いえ、全く。夫に穴が空いたのを内緒にしておきたいので、誤魔化しがきく図案にしてもらいたいのですが。言い訳はちょっと華やかな感じにしたかったとか」


「そうですねぇ。一度位置を確認したいので試着していただけますか?それによって一部だけでいいのか、少し広がりがあるデザインにするか変わってきますので」


「わかりました。今試着しますか?」


「そうですね。お時間大丈夫ですか?」


「時間は大丈夫なんですが、子供が飛んでいまして、誰か紐を持ってくれる人はいますか?」


 奥さんが突っ込まなかったルークの話が出て、ルークに注目される。


「飛んでますねぇ」


「飛んで遊んでるんですよ。ご迷惑をお掛けします」


「いいえぇ。奥から主人を呼んできますね」


「お願いします」


 カヨはルークを見上げる。仰向けに飛んでいて顔が見えない。天井を見て楽しいのか?カヨには疑問だ。


 コナーさんが来てくれた。


「カヨ様、いらっしゃいませ。当店をご利用いただきありがとうございます。お子様は私がお預かりいたします」


「ありがとうございます、コナーさん。紐のココを持つだけでいいです。天井にぶつからなければいいので適当に持っていてください」


「わかりました」


 奥さんが試着室にカヨを呼んでくれる。

 カヨは奥に行って、ユーリを床に寝かせてワンピースに着替えた。


「あら、これは……」


 奥さんは心臓の位置だと気がついたようだ。


「あの、間違っていましたら申し訳ありませんが、お命を狙われていませんか?」


 心配させてしまったようだ。


「他国に行った時についでに狙われただけです。傷一つついていませんよ。それと犯人はもう捕まっています。夫には内緒にしていてくれますか?」


 奥さんは真剣な顔をして黙っていたが「今はもう狙われていませんか?」と確認してきた。


「大丈夫です。カーマインは平和ですよ。私1人でお出かけもさせてくれます」


 奥さんはすーっと細く息を吐いて「仕方ありませんねぇ」と言ってくれた。


 傷の位置をメモしてくれたようで、刺繍の図案を持って来てくれていた。


「こちらなどはお色もよろしく、グラデーションのようになると思いますがいかがでしょうか?」


「えーと、よくわからないので、いい感じに仕上げてもらえると嬉しいです」


 あらあらという感じで笑われてしまった。

 カヨにセンスは無いから仕方ないのだ。既製品しか買わなかったカヨにとってはオーダーメイドとは、ちょっと想像ができない。


「もう、着替えていただいて構いませんよ。私は外に出ておりますね」


「はい。ありがとうございます」


 カヨは、サササッと着替えて、床のユーリを持ち上げようとしてオムツが汚れているのに気がついて、クリーンを掛けてから、抱っこ紐で抱っこした。

 もう、そろそろお乳の時間だ。急がなければ。


 店頭に戻ると、奥さんとコナーさんがルークを見上げていたので笑いそうになってしまった。


「あ、カヨ様、お疲れ様でございます。刺繍が出来ましたら代金と品物を交換させていただきます。よろしいでしょうか?」


「それでいいです。よろしくお願いします」


 カヨはコナーさんに近づいた。


「ルークをありがとうございました」


「いえ、こちらをどうぞ」


 ルークのハーネス紐を渡された。

 コナーさん夫婦がちょっと困った顔をした後にカヨに話しかけてきた。


「カヨ様、お子様ですが、お眠りになっていませんか?」


「え?寝てる?」


 紐を手繰り寄せてルークの顔を覗くと、コナーさんの言う通りに寝ていた。

 飛んで寝るとはこれいかに。器用なことをするものだ。楽だからもう少し飛ばしておこう。


「寝てました。楽なので、もう少し飛ばしておきます」


「はぁ、いいなら、それでいいのですが」


「ありがとうございました。また、来ますね」


「お待ちしております」


 コナーさんの家を出て、人気が無い場所に行き止まってから魔力でルークを包み、アイーラ領のクルス村のベティーさんの家の前まで瞬間移動した。


 村に着いたら瞬時に周りを見回したが見られていなかった。朝だから村人は畑仕事をしているのかもしれない。


 村にドアノッカーや魔道具のインターホンなんてない。とりあえず控えめに叫ぶ。


「ベティーさん!いますか!カヨです!」


 シーンとして誰もいないみたいだ。

 昨日いた畑に行くと、誰か人がいた。


「すみませーん!ベティーさん居ますかー!?」


 胸元で大声に驚いたのか、お乳の時間なのか「ふぁふぁ」とユーリが泣きそうになっている。


「ベティーに用事だったら!今は洗濯に行ってるから!家で待っといてくれー!」


「ありがとうございまーす!」


 勝手にベティーさんの家の中に入って、泣きそうなユーリに授乳した。

 ルークは天井にぶつからなければいい。


 30分ほど経って、ユーリが寝そうになっている。

 田舎ってのんびりと時間が進むなー。


 もう少し待っていると、飛んでいたルークがゆっくりと下降してきた。ラピ◯タみたいだ。光ってないけど。

 空いているスペースにベビーベッドを出して両手に降りてきたルークを寝かせる。よし、無事に着地した。


 考えると、飛んでいるルークが寝た瞬間に落ちて来てもおかしくなかったなと思いつき、ちょっと寒気がした。落ちてこなかったのはルークの飛行魔法だろうか?それともカヨが作った腕輪の効果だろうか?


「すまないね!旦那に聞いたよ!待たせたね!」


 静かな空間だったのに、いきなりベティーさんの大声がしてビクゥっとなったカヨだった。

 慌てて子供が起きてないか確認した。


 良かった、起きてなかった。


 ベティーさんを見るとバツが悪そうな顔をしていた。

 カヨは笑いかけて普通の声で話す。


「ベティーさん、勝手にお邪魔しています。畑にいたのは旦那様ですか?」


「そうだよ。旦那だよ。すまなかったね。大声だしちまって」


「いいえ、ここはベティーさんのお宅ですから、いいんですよ。熊鍋は出来ましたか?」


 ベティーさんは笑顔になった。


「新しい鍋で作るからね、慎重に作ってたんだけどさ、味見したら出来上がりが凄いよくてね!ちょいと、あの鍋の在庫があったら買わせてもらえないかね?」


「いいですよ。無料であげます。また、熊鍋を頼むと思いますので」


「え!悪いよう。あれ、高いだろう?」


「高いですけど、私、貴族なのでお金だけはあるんですよ」


 一度は言ってみたい言葉を言えて満足のカヨだった。


 地球通販で購入履歴を見て購入すると、机の上に出してから持ち上げて、ベティーさんに渡す。


 ベティーさんは素直に受け取ってくれた。


「今度の熊鍋は無料で作るからね。ありがとう」


 ベティーさんは優しい顔をしていた。お母さんの顔だ。

 カヨは嬉しくなったので、ベティーさんが持っている鍋の蓋を開けて、今日収穫したばかりの赤桃を入れれるだけ入れた。そして蓋をした。


「……今のは、なんだい?」


「赤桃って言う果物ですよ。この世に2箇所にしか埋まっていない貴重な果物です」


 ベティーさんは驚いて声も出ないようだった。

 いや、驚いて、大声が出そうなのを我慢しているのかもしれない。


「ところで、その美味しい美味しい熊鍋はどこですか?」


 ベティーさんは諦めたように肩を落としてキッチンだと思われる所から銅鍋を持って来て机の上に置いた後、もう一つの鍋も取りに行った。


 カヨは鍋の蓋を開けて匂いを嗅いだ。美味しそうな匂いだ。早く食べたい。口の中に唾液が出て来たのでアイテムボックスの中にしまった。

 ベティーさんがもう一つ机の上に置いてくれたので、これもアイテムボックスの中にしまった。


 もうすぐ昼食の準備をしないといけないだろうと思い、ユーリを起こさないように抱っこ紐で抱っこして、ベビーベッドの片側の柵を倒して、苦労してルークをおんぶ紐でおんぶした。ベビーベッドはアイテムボックスにしまった。


 それを黙って見ていたベティーさんに挨拶した。


「ベティーさん、ありがとうございました。熊鍋が無くなったら、また来てもいいですか?」


 ベティーさんは複雑な顔をした後に唸って「いいよ!また来な!」と勢いよく言った。


 ベティーさんがデレたと、カヨはニヨッと笑った。


 「それでは、さようなら」と静かに家を出て、誰もいないな?とキョロキョロしてから瞬間移動でノアの部屋に戻った。


 ルークをベッドの上に寝かせて、ユーリをベビーベッドに寝かせてクリーンを掛けてから、ふぅ、と一息ついた。

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