孤児院で生活 8
朝日で目が覚める。この時間に起きるのも慣れて来たなぁ。異空間住居は外の世界の日照時間と連動している。雨は降らない不思議空間なのだ。
リビングに行くとカルロスさんとモニカさんが、ミーチェちゃんと遊んでいた。朝から元気だ。
私は椅子に座り、ホットミルクココアを飲む。好きなんだよね。病気の時は飲めなかったから、ずいぶん久しぶりだ。
しみじみ飲んでいると、リビングが静かになっていて、私の隣にミーチェちゃんがいた。
「ミーチェもそれ欲しい!」
と催促されたので、カルロス一家全員の分作る。モニカさんに作り方を教えて、材料を多めに渡し、マジックバッグの中にしまっておいてもらう。
カルロス一家が初めてココアを飲んだ為か、甘さに驚いていた。口に合った様だ。
みんなで食堂に行くと子供達がまばらに集まっていた。もうすぐ朝食だ、厨房を覗くと配膳する準備をしていたので、コップを机に並べ牛乳を注いでいく。年長さんも手伝ってくれた。飲み物だけカートで配っていく。
今日も昨日と似た朝食だ。この世界ではこれが一般的なのかもしれない。
食事が終わり厨房で片付けをしていると、玄関から声が聞こえてきた。院長が対応している。
私も見に行くと昨日言っていた調査員の人達が来た様だ。4人いる。昨日の今日だ、来るのが早い。孤児院にいる人を全員集めてくれと言っているので、勉強部屋に行った子供達とカルロスさん一家、奴隷の4人を集める。どうも、孤児院から出て外で対応したい様だ。
調査員の人達が、子供と大人を別々に分け並ばせる。人数を数えるようだ。調査員2人で子供達を数えている間に、2人の調査員が大人の元にくる。
「院長、子供達の服がずいぶん綺麗なようだが、お金があったのですか?」
と院長に聞いて来たので、院長が答える前に私が一歩出る。
「子供達に服と靴を寄付したのは、私です。こちらのカルロスさん・モニカさん・子供達の中にいる、ミーチェちゃんは院長に勉強を教わる為に、孤児院に部屋を借りて暮らしています。院長以外の4人は私の奴隷です。」
「奴隷がいるのに、院長に勉強を教えてもらっていると?」
「奴隷を購入したのは、孤児院が困窮していたからです。奴隷達には孤児院の仕事を手伝わせています。私が来る前は、院長が1人で子供42人を育てていました。病人の子供も6人居ました。食べる物にも困って居ました。今は治療して、元気になっていますが」
調査員が驚いた顔をして、院長に確認する。
「院長、本当の事ですか?」
「はい。事実です。この方、カヨさん達は教会からの紹介で、紹介状もあります。寄付金も頂きました」
調査員が、書類をめくり確認する。
「失礼ですが院長、お名前を教えていただけますか?」
「マーサと申します」
「マーサさん書類の通りだと貴方は院長ではありません。ジョージさんと言うかなり老齢な方が、院長になっていますが?子供の人数も29人となっていますね」
「ジョージさんは先代の院長です。私はこの孤児院出身で、ジョージさんが亡くなったので院長をしています」
「孤児院には毎年孤児院で働いている大人・子供の人数を申告してもらう義務があるのですが?」
「そんな事知りません!ジョージさんはいきなり亡くなってしまったので、引き継ぎも何もしておりません」
「そうですか。貴方は院長に給料がある事はご存じですか?」
「いいえ、知りません」
「困ったな……。マーサさんは今まで無給で働いていた事になるのですが、書類ではジョージさんに給料が支払われている事になります。孤児院から毎年申告されるはずの書類が提出されていませんので、子供の人数も29人のままの支給額になっています。さかのぼっての不足金は支払われません。早急に院長の名義変更と子供の人数を申告して頂けなければ、支給額は増えません。書類の作成をお願いします。作成の際に院長が持つ印鑑が必要ですが、お持ちですか?」
「印鑑はありますが、書式が分かりません。書き方などは教えていただけますか」
「いいですよ。孤児院の視察が終わったら一緒に作成しましょうか」
カヨは会話に口を挟む。
「奴隷達も孤児院の職員として、登録してもらいたいのですが、出来ますか?」
「出来ますが、孤児院に所属していない貴方の奴隷ですから、まず主人をマーサさんに移さなければいけません。マーサさんに主人登録をしてもらわなければ、登録は出来ないのです。貴方は奴隷を手放せますか?」
「孤児院の為です。手放せます。マーサさんに主人登録の変更をします」
「分かりました。今日孤児院の申告書類を作るのであれば、午前中に、奴隷達の所有名義が書かれた書類が必要になります。用意出来ますか?」
「私は大丈夫です。院長は?大丈夫ですか?」
「カヨさん、奴隷は貴方の財産です。そんなに簡単に手放してはいけません。それに、わたしには奴隷の購入金額も支払えません……」
「購入金額を院長に支払ってもらうつもりはありません。ですが、主人変更をした場合、毎月の奴隷達への金貨5枚を支払ってもらわなければいけません、あとはマーサさんが亡くなった時の相続人を決めないといけません」
「毎月金貨20枚など、とても支払えません」
調査員がマーサさんに言う。
「孤児院の申告書類に記入して頂ければ、お金は出ますよ」
それを聞いたマーサは考えた。ここ数日カヨや奴隷達が来て、生活が楽になり子供達が3食お腹いっぱい食事が出来ていたことを、自分以外の大人がいて、安心出来た事を。カヨに勉強を教え終われば、孤児院から出て行くだろう。この生活がなくなってしまう。でも奴隷達が残ってくれれば?自分にとっても子供達にとっても良い生活が送れるだろう。なんてありがたいことだ。
「主人変更をお受けします。カヨさん本当にありがとうございます」
マーサは思わず涙が出た。今までのように苦しい生活をしなくていいことに。カヨの好意の嬉しさに。
「決まりましたね。私とマーサさんと奴隷達は今から奴隷商に行ってきます」
調査員が
「待って下さい。孤児院を案内してもらう人を紹介して下さい」
子供達の人数が数え終わったようだ。
マーサさんが、エリック君を呼ぶ。「この子に案内させます」と。調査員は了承する。
私はマーサさんと奴隷達4人を連れて足早に、奴隷商まで行く。
奴隷商に着いたところで、入り口のドアをノックする。中から「誰だい?」と声が聞こえた。「奴隷の主人変更をしたい」と言うと、ドアが開いた「入りな」と。商談室に案内される。ソファに座り待つ。
ノックの音がした。30代くらいの女性が入ってきた。
「お客様達の担当をします。エリザと申します。主人変更をなさるとお聞きしましたが、よろしかったでしょうか?」
「そうです。私カヨから、こちらのマーサさんへ奴隷4人主人変更です」
「そうですか、カヨさん奴隷を購入した際に貰った書類はお待ちですか?」
アイテムボックスから出して。エリザへ書類を渡す。
「当商会の物ですね。ありがとうございます。必要事項を、こちらの紙に記入しますので少々お待ちください」
ペンを動かす音だけがする。エリザが記入し終わるまで待つ。
「必要事項確認させていただきました。書類お返しします。ありがとうございました。今から主人変更する部屋へ案内させていただきます。私に着いて来て下さい」
エリザに全員着いて行く。奴隷契約をした部屋に着いた。エリザが血のような赤さの液体を準備をする。奴隷紋を見せて下さいと言うので、4人に背中を出してもらう。エリザさんが奴隷紋に赤い液体を塗っていく。
「カヨさん、奴隷紋に向かって魔力を注いで下さい」
言われた通りに魔力を注ぐ、ぱちっとした感覚がした。「はい、いいですよ。次の人へ」とエリザさんが言う。ぱちっとしたのが、契約が切れた証だったようだ。全員終わらせる。エリザさんが布で奴隷紋を拭うと、奴隷紋がきれいにとれた。
次は、エリザさんが青い液体を準備する。マーサさんへ「どこに奴隷紋を付けますか?」と聞き、マーサさんは「同じところへ」と答えた。
ハンコみたいな物を液体につけぽんと押す。マーサさんへ「魔力を流して下さい」と言われ、「流しかたが分からない」とマーサさんが言う。
「クリーンを使うときのように流して下さい」
私が言うと分かったのか、魔力を注ぎ始めた。コツを掴んだ様で、全員終わらせる。4人が身だしなみを整え終わったら、商談室へ行く。全員椅子に座った後、エリザさんがトレーの様な物を出した。
「これで、主人変更は終わりました。手数料金貨80枚頂きます」
と言われる。アイテムボックスから大きめの巾着を取り出し、マーサさんにも手伝って貰い金貨80枚を数える。
エリザさんは金額の確認した後、マーサさんへ書類を渡す。
「これで全て終わりでございます。出口までご案内致します」
と言い立ち上がり、出口まで歩いていく。ドアを開け「当店をご利用いただきありがとうございました」とお辞儀した。
「こちらこそありがとうございました」と言い、奴隷商を出た。少し歩いた所で、みんなを振り返り奴隷4人に言葉をかける。
「4人に了承を取らず主人変更して、ごめん。これからはマーサさんを主人として、仕事をして欲しい」
と謝り、これからのことを話すと。みんな顔を見合わせて少し笑った。
フランさんが
「今までも院長の指示で仕事していたから問題無いですよ。普通は奴隷に意志確認なんてしません」
と言った。
足早に孤児院へ戻ってくると、玄関前には誰も居なくなっていた。中に入り子供達を探すと勉強部屋にみんないた。奴隷の4人も勉強部屋で待って貰い、調査員の人を探すと、裏の畑にいた。
「遅くなりました、契約終わりました」
とマーサさんが言うと、調査員の人が
「エリック君に案内してもらったので問題ありません、それより何点か確認したい事があるのですが、この畑は本当に子供達が作ったのですか?ずいぶん広いみたいですが」
「そうです。午前中は勉強をして、午後から子供達全員で畑作業をします」
「そうですか」と言いながら紙にメモを取る。調査員達が歩き出す、いつも散髪している部屋に入った。
「この椅子はずいぶん値段が高そうですが、どうしました?」
と聞かれる。カヨが
「私が持ち込みました。子供達の髪を切るための椅子です。衝立もです」
と答える。またもや調査員がメモをとり「そうですか」と歩いて行くと、次は厨房だ。コンロを指差して
「これは、どうしましたか?」と院長に聞くが、院長は分からない。カヨが答える。
「この魔道具のコンロは私が持ち込みました。この炊飯器の魔道具もです。あとは、そちらにあるパン焼き器・オーブンの魔道具とその前に置いてあるラックと天板、食堂に置いてあるカートも私が持ち込んだものです。私が来るまで、子供達で食事の準備をして1日2食、朝食はじゃがいも1個だったようです。子供達に確認してもらって構いません」
と、答えると調査員は知らない魔道具だと口々に言う。使い方を教えてくれ、と言うので教えていく。オーブンの使い方は分からないので、取り扱い説明書を渡す。「これはどこの魔道具だ?」と聞くので、「私の国の魔道具です」と答える。私を見て旅装に気づいた様で「外国人だったのか」と呟いている。朝に勉強しに来たと言ったのを思い出したのか、仕切りに納得しているようだ。
厨房の視察を終えたあと、調査員が院長に「孤児院の貯蓄を見せてくれ」と言うので院長室に。金庫の中にあるお金を取り出し、中身が余り入っていなさそうな袋を少し上げ「こちらが街からの援助金、こちらがカヨさんからの寄付金です」と大きい巾着を持ち上げてくれた。調査員が金額を確認すると、次は教会に書いて貰った私の紹介状を見せてくれと言う。紹介状の内容を確認すると「視察はこれで終わりです」と言い、続けて院長に「院長の名義変更と申告書類を書きましょうか」と言う。
私はもう居なくていいだろうと思い、エリック君と勉強部屋へ行く。かなり細かく調べられた。お役所仕事は、どこの世界でも共通なのかもしれない。
エリック君は勉強部屋にいて貰い、バズさんに昼食の準備をお願いする。フランさんとモニカさんも手伝うと言ってくれたので、一緒に行く。
昼食まで余り時間が無い。バズさんになにを作るか確認するとパンケーキもどき、ラルを作ると言われた。料理名あったんだね。
分量を測る人、生地を混ぜる人、焼いていく人に分かれる。分量を測るのはバズさん、混ぜるのは私とモニカさん、焼くのはフランさんに決まった。私は食堂の死角に行き、規格外のお得たまご(入れ物が厚手の紙になっている)と牛乳を大量に買う。戻り、バズさんに卵と牛乳を使うか聞くと、食いぎみに使うと言われた。
バズさんに渡すと「初めて見る卵だなぁ」と言われた。バズさんが卵と牛乳の量を調節しながら入れる。あとはひたすら混ぜますよ。泡立て器が無かったからこっそり買った。




