神殿へ 2
カヨ達が解放されたのは午後の2時ごろだった。
舞台から降りて、アルビに案内されるまま別室に案内されて、遅い昼食が用意されていた。
カヨとノアの為に用意された料理はどれも豪華でカヨとノアの口を満足させた。
ちょっと不機嫌だったカヨの機嫌が上向き、ルークの離乳食は用意されていなかったので、ウエダスター王国の牢屋に捕まっていた人用に用意していたカットされたクリムをアイテムボックスから出してルークに食べさせた。離乳食で柔らかい料理を食べていたルークの口に合ったようで、ひたすらもぐもぐと食べていた。
カヨは疲れたけれど、この神の地に何か残そうと考えて、白桃を取り出して皮を剥いて果実を切ってから、ノアとルークと3人で食後のフルーツを食べた。
そして、別室で昼食を食べて戻ってきたアルビに「果物を授けたいのですが土地はありますか?」と聞くと嬉しそうに案内してくれた。
建物から外に出て、神殿が見える絶景の場所に案内されて「本当にここに植えていいのか」と考えたが、神殿関係者が良いと言えばいいのだと考え直して、土魔法で土を掘り白桃の種を植えて土を被せた後に地面に手をつき魔力を流した。
『虫も菌もつかない病気にならない魔木になれ!』
自宅のルーフバルコニーの魔木からとってきた白桃は元から魔力を持った種だった為、多少の改良で芽が出てシュルシュルと大きな魔木になり、実をすぐにつけた。
それを驚いて見ていた神殿関係者達だったが、カヨはサイズ自動調整付きの飛行魔法を付与された指輪を2つ作り、劣化しないようにした収穫バサミも2つ用意してアルビに渡した。
試しにアルビの指に指輪をはめて一緒に収穫してみると、感動したのか、カヨが収穫した白桃と自分が収穫した白桃を持ってふるふると震えていた。
今のアルビに何を言っても無駄だと思ったカヨは、ずっとアルビに付き従っている男性に「この果物は白桃と言って魔力がある限り枯れないが水やりはするように」と言って、食べ方も教えた。男性は神官じゃないからか必要以上にカヨを持ち上げる事もなく話しやすかった。
ノアの元に戻ると嫉妬をしたのかちゅうしてきたので、仕方ないなぁとノアのほっぺにちゅうを返した。
最後に真摯にカヨを呼び出したアルビの手を握り「神のご加護がありますように」と身体全身の不調が治るように治癒魔法を掛けてから、カヨとノアとルークとユーリでカーマインのお屋敷に瞬間移動で帰った。
カヨはユーリをベビーベッドに寝かせた後、ルークをお出かけ着から普段着に着替えさせると、ベッドに横にさせる。疲れていたルークはカヨに頭と身体を優しく撫でられて安心したのかスゥッと眠りに入った。
静かにカヨとノアも着替えて、髪の毛をアップにしてあるので首裏にあるカヨの神の紋様にノアがちゅっとキスをした。
今日のノアはキス魔だなぁと思いつつもカヨの口が届くノアの結婚の印がある場所に口付けた。
ノアは感動したのかカヨをぎゅっと抱きしめてきた。
ノアの腕の中は居心地が良いのでカヨも甘えた。
しばらくしてからカヨから手を離してノアの巻きついている手をぽんぽんと『離して』の合図で抜け出して、ユーリに授乳した後に、搾乳機でお乳を搾ってストックを増やした。
寝室のソファに座って「今日は疲れたね」とノアと手を繋ぎながら今日の話をした。
共通の話題があると楽しくおしゃべり出来て、ストレスも何処かに飛んでいきそうだ。
カヨの頭の中に呼びかける声は大分小さくなって一安心だ。
なんとなく神殿の方向がわかったので、今度は神殿からの呼びかけじゃない場所に行くのもいいなと思ったカヨだった。
朝の喧嘩など無かったかのようにノアとの貴重な休日の時間を楽しんでいると、時間が2時程経っていたようで、ルークがトコトコと歩いて来てカヨに手を伸ばして「まんま」と授乳の催促をしてきたので、微笑ましく思いながら寝ぼけまなこのルークを膝に抱き上げて授乳した。
ふむ、歯の感触がする。ルークめ遊びながら飲んでるなとルークの白耳をモフモフした。
今の幼児のルークはケモ耳を引っ張られない限りは触られるのが嫌じゃないらしく、カヨはノアより繊細で柔らかな耳を堪能した。
そういえば、いつのまにかルークの尻尾はふわぁっとして、まだ毛量は少ないけれど芯が見えないくらいには毛が生えて揃ってきている。
カヨは今だけの貴重な尻尾も堪能する。
お乳が足りなくて、もう片方のおっぱいに吸い付いたルークはもぞもぞと姿勢を変えて落ち着いた。
また、使用人の子供部屋にルークを預けようと考えた。
カヨが仕事をしている時にはマリーシャが面倒を見てくれるので安心だ。
メイドのマリーシャは思い返せば、カヨが仕事でルークを預けている時にずっとルークに着いてくれてたメイドだったのに名前を聞くのが遅かったなぁとちょっと人の顔と名前を覚えるのが苦手な自分に自己嫌悪した。
授乳を終えたルークがノアと遊び始めて、カヨがユーリの授乳も済ませると夕食の時間になったので、ノアがルークを肩車して連れて行く。もうルークは大興奮で嬉しがっている。
食堂で下ろしたら泣くんじゃないかと不安になる。
でも、そんな事はなく、下ろすと不満そうにしていたが、離乳食を目の前にして今日のお昼に食べれなかったのを思い出したのかスプーンをぎゅっと握って食べ出した。ご機嫌だ。
お母様とライラさん達も来て、お母様はユーリに構っている。ふふっ、子供がいっぱい居ると大変だね。
カヨはルークの食事を覗き込んでミニトマトくらいの塊は無いかと注意して見る。
子供の食道は小さいので小さなミニトマトくらいの塊を飲みこむと食道で詰まるのだ。小さい子の死亡ニュースなんてそこら中にあった。
今日は大丈夫そうだなと、部屋を見渡すと料理長がいたので「昼食を食べれなくてごめんなさい」と謝る。いらないと報告しなかったので準備してくれていたはずなのだ。
「大丈夫ですよ」と言ってくれたが申し訳ない気持ちでいると「マジックバッグがありますからね」と自信満々に言われて嬉しくなって笑顔になってしまった。
ちょっと料理長にお伺いで「私の家の料理人を連れて来たらお金は払うので教育してくれます?」と聞いたら、今は新人もいないから大丈夫だとは思うけれど旦那様にお伺いくださいと言われた。
ヨシッ!と思い、お兄様が来たら相談しようと思った。
すぐにお父様とお兄様が帰って来たので、全員で席に座って神にお祈りして夕食をいただく。
昼食の時間が遅かったので全部食べれるか不安だったが、神の胃袋は丈夫だったようで、食べたそばからお腹がぐるぐると鳴っている。
家族がチラリとこちらを見たので獣人の皆様の良い耳には音が聞こえてしまったようだ。
仕方ない。今は神の力が減少しているのでパワーを取り込む為には食べるのが一番なのだ。
何しろ美味しいのでたくさん食べたい私には食欲も満たされて一石二鳥だ。
今日は家族全員でリビングに行くようで「よっしゃ!」と思いながらユーリを抱っこしていく。
みんながいつもの席に座る前に、お兄様の隣に滑り込んでソファに座る。
ノアが愕然とした顔をしていた気がするがそんなこたぁどうでもいい。ライラさんも警戒しているがお兄様を取ろうとなんて思ってないから警戒しないで!信用されてないって悲しくなるから!
あ、お兄様は警戒してない。大丈夫そうだ。
「お兄様、お話があります」
「ふむ、聞いてみるから言ってみなさい」
さすが領主。素早い切り返しだ。
「領主館の料理人のお給料を私が出して増やしてもらっていいので、私の自宅にいる料理人の教育をしてくれないでしょうか?領主館の料理の方が美味しいので勉強してもらいたいのです」
「ふむ、対価は?」
「虹貨5枚でどうでしょう?」
「期間は?」
「約1年ほどの教育でお願いします」
「いいだろう。料理長には通達しておくので1週間後から教育してもらいなさい。雇うわけではないからコック服はカヨさんが用意してくれ」
「わかりました。こちら虹貨5枚です」
「ああ、確かに受け取った」
アイテムボックスから虹貨5枚出したら、速やかに受け取ってくれた。
領の運営費が困ってるんじゃないよね?
「お兄様、領の運営費は潤沢ですか?また寄付しましょうか?」
「領の運営費は困っていないけど、開拓村を作っているからね。いくらでも寄付を受け付けるよ?」
不適な表情をいただきました!さすが領主です!
アイテムボックスから虹貨100枚を数えて袋に入れてお兄様に進呈する。
「寄付でございます。いかようにもお使いくださいませ」
「ありがたくいただくよ」
素早く私があげたマジックバッグにお兄様が入れた。
少しでも助けになるといいんだけどね。
ライラさんに「お邪魔しました」と謝ってからノアの隣に座った。
ヤキモチを焼いていたいたみたいで、ルークを抱っこしたままピッタリと引っ付いてきた。
お父様がビクター君を抱き上げている。
遅くに自分の子供が出来るから練習しているのかもしれない。隣でお母様が穏やかな顔をしている。
ふと、怖いことを思いついてしまった。
老人の獣人が少ない気がする。
小さな声でノアに聞く。
「ノア、獣人の平均寿命ってどれくらい?」
聞いた方がいいような、聞きたくないような。
「平均寿命ね。小さい頃には子供が亡くなりやすいからハッキリとはわからないのだよね。長生きして70歳ぐらいじゃないかな?大体の人は老衰だと65歳ぐらいだと思うよ」
頭をガンッと殴られたような気がした。
え?お父様とお母様が50歳ぐらいでしょ?長生きして、お腹の子が成人する頃に死ぬってこと?
「もしかして、獣人て4種族の中では、一番寿命が短い?」
「そう言われてるね」
ノアは常識を受け入れている顔だ。嘘じゃない。
嘘……ルークもユーリも長生き出来ないの?
腕の中のユーリをぎゅっと抱きしめた。




