ブァイス領の村人
ユーリの泣き声で目が覚める。
まだ小さいから泣き声も小さい。でも小さな怪獣だ。
ユーリの元に行って、オムツを変える。盛大にぶっ放してくれる。合うオムツを探すのも大変だ。
朝のお乳を飲ませる。一生懸命飲んで可愛い。飲んでてても途中で休憩するから、もう飲まないのかと勘違いすると、また飲みだす。子供の気まぐれさも可愛い。
ユーリが飲み終わってげっぷさせたら、ルークを起こして授乳する。ルークはごくごくと喉を鳴らせて飲む。
ちょっと重いから、身体強化してる。
ルークとユーリに授乳して、搾乳機でお乳も搾るから胸は張らないので乳腺炎にもならない。順調でよろしい。
最近は授乳してると後ろからノアが抱きしめてくる。大丈夫、忘れてないよ。前からも後ろからも温かい。
朝食の時間が近くなると、家族で食堂に移動だ。ユーリはまだまだ小さくて可愛い。移動中に目を閉じてるから眠るかな?
食堂に着いたら、ユーリをベビーベッドに寝かせる。ルークは離乳食だからね。嬉しそうに食事をする。子供って食事好きだよね。
ルークが変顔する時は、初めて食べる食べ物を口に入れた時か、嫌いな物を食べた時。それ以外はおおむね機嫌が良い。
変な咳を食事中にしたら要注意。食べ物が喉に詰まってるかもしれないから、飲み物を飲ませる。素直に飲むからいい子だ。
ルークの食事が終わったら私の食事。もりもり食べます。ユーリとルークと私の3人分食べます。お乳作らないといけないからね。今の私、ノアと同じくらい食べてるかも。
食事が終わったら、ルークとノアの壮大なお別れを見て。泣いたルークをあやす。お昼にノアに会えるから。
お母様がルークと遊びたがっているので、母乳を渡してルークをお任せする。
私はユーリを抱っこして、行商にでも行くかな。
行商に行くと、ユーリが人気。獣人の赤ちゃんが可愛くて村人が相手をしてくれる。
ユーリは、まだ1人じゃ動けないから、うあうあ言いながら相手の人を見る。過保護じゃいけないから、いろんな菌に対応出来るように村人が相手をしてくれると助かる部分もある。将来身体が強くなるようにね。
小さな子供達もユーリには興味津々だ。ベビーベッドの柵の外側から手を伸ばして、つついたりしてる。
私はお客さんの村人を相手にしながら、ユーリに危険が無いか見ている。
もちろん村人と話をしながら、この辺りの情勢を聞いたりしている。
この辺りは昔の日本ほど食生活は悪くないけど、領によっては貧しい村もある。なんて言うのかな。生かさず殺さずって感じ?食事はちゃんと出来てるから、身なりの問題だけどね。
魔物の氾濫で肉の在庫は多いから、安く売る。みんな肉、食べたいよね。
お金が無いから治療も満足には出来ないみたいだから、今日治癒する人が多い。
この間、飛竜が手に入ったから、また、お城に行かないといけないや。
村の女の人が服が欲しいけど、贅沢品だからって迷っている。はっきり言って女の人が来ている服はボロだ。値引きしてあげると嬉しそうに試着室に行く。
なんか、ホロリとくるなぁ。ここの領主嫌いだ。領都には治療に行かないでおこう。良い領主もいるんだけどなぁ。カーマインの領地が裕福に思えてくる。
村人も先祖から受け継いだ土地を離れたくないだろうし、魔物がいるから護衛なしには他領に引っ越しも出来ない。詰んでる。
王様頑張ってよー!
とか思ってたら、後日お城に呼ばれた。なんじゃらほい?
神帝の位を貰ってから、お城に来たの初めてかも。
門番の人がかしこまっている。今日は髪の毛アップにしてるからね。うなじから背中にある神の印が丸見えだからかな?門番さん、いつもどおりラフでいいよ〜。
案内もしっかりしてくれる。ユーリ抱っこしてるけど、気疲れするよね〜。いつもどおりでいいのに。
応接室に案内されると、私の席が上座になって、国王と王太子が立って出迎えしてくれる。こんな扱い嫌だ〜。
「国王陛下、王太子殿下、普通の対応をしてください。疲れてしまいます」
「神帝様には普通の対応なのですが、疲れてしまいますか。砕けた話し方でも良いですかな?」
「そうしてください。これからも。それで、用件は何ですか?竜の素材ですか?ありますよ」
ユーリがぴりっとした空気を感じたのか、ぐずっている。可哀想にね。ユーリをあやす。お乳か。授乳ポンチョを着て授乳する。陛下達がちょっと困った顔してる。慣れてください。
「それでは、遠慮なく話させてもらう。竜の素材は王太子に任せてあるから今日の用事は違う。神帝様は各地で治療をされてますな?それで、領地を収めている領主が怪しい事をしている、もしくは領地を正しく収めていなければ報告して欲しいのです。これは強制ではありませんので、選択は任せますが、出来ればでお願いします」
まだ話し方が硬いが、仕方ないのかな?
「分かりました。丁度、今回っているブァイス領が税金を民から取りすぎているように感じていたのです。陛下達が対応してくれるならありがたいことです。民が普通に生活出来るように、対応をお願い出来ますか?」
「そうですか。ブァイス領ですか。情報の提供、ありがとうございます。こちらで調べてみます。それと、神帝になってから、どうですかな?何か悩み事でもありますか?」
「陛下達の言葉が硬くて困ってます。それ以外は神帝として動いていないので、悩みはありませんね」
少しからかうように言うと、陛下と王太子が困った顔をした。
「立場が違えば対応も変わります。少しは仕方ないと諦めてください。貴方は神なのですから」
言われてしまった。神の自覚が足りないかな?でも私は私だし、人の感性は失われていない。お互い譲歩しないといけないか。
「魔物の氾濫の時に手に入れた肉が沢山あるんですよ。献上……じゃないか、私の立場だと下賜になるのかな?国王陛下、肉いります?飛竜のお肉もつけますよ」
「それは、嬉しいですな。もちろん貰いますとも。どちらで出されますか?」
「帰りに厨房に渡していきます。陛下達は最近どうですか?」
お互いの近況を話すと、少し硬い感じが取れてきた。良かった。
ユーリにげっぷをさせてポンチョを脱ぐ。乳児のお乳を飲ませる時間は長いからね。30分位かかることもある。今はお乳の出が悪くないから、もう少し早いけどね。
定期的に顔を見せに来てよと言う話になったので「お肉をお土産に来ます」と言っておいた。私の探知からは魔物は逃れられないのだよ。
国王陛下と王太子殿下にさよならして、厨房でお肉をたんまりと出してから帰った。もちろんユーリも一緒にね。その内厨房で「肉の人」とか言われたりするかも。
案内の人と警護の人がぞろぞろとついてきたよ。お城にはこっそりと来ようかな。こっそり来れるかな?無理そう。
カーマインの屋敷に帰ると、お母様とライラさんと赤ちゃん、ルークが一緒にいた。
ルークは私を見ると、短い足で駆けてきて私の足に抱きついた。「おかちゃ」と言いながら。私はきゅんとする。
ルークの頭を撫でながら「ただいま、ルーク」と言って手を繋いだ。小さいからちょっと屈まないといけないけど、ルークが嬉しそうだから、そのままお母様達と合流した。
ルーク、私と別れる時は泣かないんだよね。ノアの何がそんなにルークの琴線に触れるのだろうか?不思議。




