どこかの人々 3
ーロザリーとハルトー
市場と屋台の朝は早い。
出来るだけ早く来て、いい場所を取らないといけないからだ。
たまに「そこは俺の場所だ!」と高圧的に言う奴がいるが、そういう奴は客にも相手にされない。
まぁ、大体いつも場所は決まっているが、特に屋台や市場の営業許可証は場所を選ばないから、新参者が来ると場所が変わる場合もある。その時は自分が早く来ればいいだけだ。
最近、市場に変わった新参者が来るようになった。そいつらが来ると行列が出来る。
なんでも『試食』と言うのをしていて、果物がタダで食べられると言うのだ。みんな飛びつく。果物は高級品だ。自分も食べたが、中毒性があると思う。また、食べたいと思ってしまうのだ。
値段も、ちょっと無理すれば買えてしまうからタチが悪い。試食は少しだ。買えば沢山食べれる。今では人気の果物だ。
今日も、奴らが来た。儲かっているのだろう。マジックバッグを持っている。
盗んでやろうと狙っている奴らもいるが、元冒険者で、いつも帯剣しているから隙がない。マジックバッグも手放さないからな。襲った奴は手を切られて連行される。何回かあった。
自分の手と引き換えにしたんじゃ、成功しないと割に合わない。それに奴らは魔法が使えるらしい。果物の収穫も魔法でしていると聞き出した奴がいる。そんな奴らに敵う訳ない。
店の準備をし出した。机をマジックバッグから出して、果物を並べる。まだ、熟成していない果物だ。
果物の味を思い出すと涎が出そうになる。
商人が「大量に売ってくれ」と押しかけたら「商業ギルドに卸してるから、そっちで買ってくれ」と追い払われた。
商人に売るのを断るなんて、勿体無いと客が言えば「この街の住人の為に安く売ってるんだ」と言う。
何故、俺がここまで詳しいかって?それは店が隣だからだ。それに隣だと行列が迷惑だと思うだろ?いいや、いい事があるんだ。
「ダイさん、今日も多分迷惑をおかけします。お詫びの品です。売り物ですが」
「ありがとうよ。家族も喜ぶんだわ。何、忙しいだろうけど、頑張れや」
「はい!」
隣の店の、ロザリーとハルトは両隣にバナナ一房とチョコってやつを迷惑料でくれる。これが嬉しい。家族に土産が出来るってもんだ。
こいつらの隣で商売するのはなかなか難しいから、売る商品では嫌がられる。だが、俺の家は人気の作物しか売らねぇから、果物を買った人がこちらに流れて来ると買ってくれる人がいるから、おいしい場所だ。
今日も一緒に頑張ろうや!
ーカーマイン領で柿を売る奴隷ー
借金奴隷になった時は、人生終わったと思ったが、今は相方とのんびり暮らしている。周りは獣人ばかりだが。
相方も借金奴隷だ。自分と同じような事を言っていた。「こんなに、ゆったりと過ごせるなんて」と。
夕方頃になると、子供達がバスケットを持って突撃してくる。お客様だ。
こっそりと自分が食べる予定のクリムって果物を小さく切って、子供達に食べさせる。子供達もこれが目的だ。「柿のおっちゃん」と言われている。
お客様の要望に応えて、柿を熟成箱で熟成してやる。子供達の目は輝いている。自分達が家で食べれるのを知っているのだ。
お金を貰って、柿をバスケットに並べて入れてやる。何人もの子供に同じようにする。
子供達は元気に家に帰って行く。
初めは獣人なんて、どうやって付き合っていけばいいかわからなかったが、獣人は良い人が多いらしい。かわいいしな。
村長が暮らし方を教えてくれて、村人達に紹介してくれた。柿を販売するのもありがたがられた。
なんでも「風邪を予防する果物」だとか。この地方は冬になると季節風邪が流行るらしい。弱い者から死んでいくんだと。
それで、奴隷達の主人の、領主の弟の嫁が主導して、果物の柿を安く売り始めたと話題になり、どうにか店が軌道に乗った。しかも安い!美味しい!
村人達が買いに来てくれるのはすぐだった。
この村は不思議だ。なんだか、大きさは町の規模だと思うのに、村と呼んでいる。それに奴隷がいないらしい。そのおかげで普通の人と変わらない生活を送れているのだが。
もう、店じまいだな。お店の扉を閉める。また明日だ。相方が夕食を作って待っていてくれているだろう。
家の奥に行く。美味しそうな匂いがしてきた。家事は分担して行っている。問題はない。いや、あったか。暇な時間の潰し方が分からない。相方と駄弁ったり、柿やクリムを収穫している。石鹸の実は使う時にむしっている。この木3本とも不思議な植物だ。いくらでも実がつく。
さあ、今から食事だ。
獣人の村人達は悪い人が分かる。奴隷達は真面目で素直な人が選ばれている。だから、安心して子供達を買い物に行かせるのだ。
平和に生活出来ているのは自分達の性格のおかげとわかっていない奴隷達は、今日も平和に暮らしている。
ーパクティー達のお世話係ー
初めは、なんて酷い所に買われたのだと思った。
汚物の処理ばかりで、獣人達が好き勝手に動き周り、教育まで出来ない。
借金奴隷のサガかと耐えていたが、2回目にご主人様に直訴した所、獣人達がいきなり理性的になり、奴隷も増えて負担が減った。
ホッとした。やっと人間らしく生活出来る。
教師達も仕事が進められて安心しているようだった。
落ち着いてみると、ここの獣人は可愛い獣人ばかりだ。愛玩奴隷かと思えば、どこにも奴隷紋が無い。それに、若いご主人様を「お母様」と全員が呼び、慕っている。
ここは不思議だ。無邪気な子供を相手にしている気分になる。
ご主人様は気まぐれにしか、いらっしゃらないが、いつも獣人達に慕われている。子持ちの親子にもだ。ご主人様も獣人達も今までどんな生活をしていたのだろう。
生活が成り立っていたであろう事実が不思議だ。
教師とお世話係を付けるぐらいだから、獣人達の自立を促しているのは、落ち着いてみて分かった。
獣人達も私達を仲間だと認識してくれたのか、最近は甘えてもくれる。かわいい。
今では、ここでの生活も悪くないと思い始めた。
ーお茶係のメイドのフランカー
はじめましての方もいるでしょう。
カーマインのお屋敷で、1番お茶を入れるのが上手なメイド・フランカと申します。暇な時間は他のメイドにお茶の指導をしています。
一応、1級メイドです。歳は35歳です。旦那も子供もいる普通の一般家庭です。
メイドには種類がありまして、メイド長を頂点に副メイド長、1級メイド、2級メイド、3級メイドまでおります。
1級メイドは領主様家族に直接お仕えする事が許されています。
2級メイドは、1級メイドの補佐と教育を受けています。
3級メイドは、掃除や洗濯など、領主一家の目の届かない場所で作業をしております。
お屋敷に勤める人は、誰でも良い家庭で教育を受けて育った者が多いです。例外も少々いますが。そこは教育の腕の見せ所です。
わたくしの仕事は、領主様の家族の奥様と子供達が子供部屋に揃う午後が1番忙しくなっております。
メイドたる者、ご家族の要望に応えてこそです。たまに、外まで行きますが、いつでも出かける準備は出来ております。
1番戸惑いましたのは、去年の夏、領主様の弟ノアール様の奥様カヨ様が『プール』と言う物を作られた時でしょうか。
夏の暑い中での飲み物としては冷やしたお茶がいい物の、すぐに緩くなってしまいます。
あの時は、補佐のメイドを走らせたものです。
今年になってから『フルーツミックスジュース』と言う物を料理長が作られて、とても美味しくて驚いてしまいました。これは飲み物の革命です。わたくしも作り方を教えていただきました。
惜しむらくは、屋敷の厨房でしか作れない事です。旦那と子供達にも飲ませてあげたいものです。
大奥様とライラ様のご予定は、大体把握出来ておりますが、カヨ様のご予定だけが毎日わかりません。あの方は神出鬼没です。
いきなり消えたり、現れたりします。
今では屋敷の者も慣れたものです。
それに!あっと、ちょっと興奮してしまいました。ごほん。それに、カーマインの領主様家族全員が神官の印をお待ちなのです。これは心が綺麗な証拠です。なんと、名誉な事でしょう。前代未聞の出来事ではないでしょうか。
お子様も2人増えて、ますます屋敷が賑やかになる事でしょう。
これからの発展に期待しましょう。




