キノクニーの街長と挨拶
キノクニー街の犯罪者を全て捕まえた頃、自宅に行き、リンダにカーマインの屋敷の厨房で働かないか聞きに来ている。お兄様には許可を取った。
「お給料も上げるし、もう一度パティシエとして働いてみない?ここの家から通えるようにするから」
「ありがたいお話なんですが、いきなり公爵様の厨房で働くなんて、恐れ多い事です」
「何も心配なんていらないよ。同じ人だもの。それに料理じゃなくて、もともとプロのパティシエなんだから、怖いことなんてないよ。私も口添えするし、何が心配?」
「口添えしていただくのに、期待に応えられなかったら怖いです。あと、獣人の人も近くにいなかったし、上手くやれるか心配で」
「そうだねぇ、お試しで1ヶ月だけ厨房に入ってみない?いい刺激になると思うけど。どお?」
リンダの心がグラグラ揺れているのが分かる。もう一押し何かないかな?
「厨房に入ればチョコをいつでも使わせてあげる。栽培に成功したんだよね。どうかな?」
「チョコですか?以前に頂いた?」
「そう!そのチョコ!ビター、あまり甘くないチョコね。ミルクチョコは普通に単体で食べられるチョコ。ホワイトチョコは白いチョコね。混ぜ合わせて使って甘さ調節してもいいし、いろんなお菓子作れるよ。栽培に成功したばかりで、上手く扱える人は少ないと思うなぁ。リンダの入り込める場所がありそうでしょ?」
リンダがウズウズしてる。落ちるかな?
「1ヶ月だけ、お世話になってから考えてもいいですか?」
「いいよ!もちろんだよ!準備が出来たら迎えに来るからね」
私は立ち上がってルークをおんぶすると、部屋から出て、孤児院に向かう事にした。リンダの抜けた穴を塞ぐ人員の確保の為だ。
カリオンの領都を歩いていく。ちょっと懐かしい。最近孤児院、行ってなかったからなぁ。歩いてるとチラリチラリと見られる。ルークの耳が珍しいんだろう。かわいいしね!どや!
孤児院に着いた。みんな元気にしてるかなぁ。中に入る。院長を探知!勉強部屋にいる。
勉強部屋の扉を静かに開けて、院長を探すと小さい子供のお世話をしている。扉からこっそり入って院長に声をかける。
「院長、お久しぶりです。何か変わった事ありましたか?」
「まあ!カヨさん。お久しぶりです。何も変わった事はありませんよ」
「そうですか。院長にお願いがあるんですけど、女の子を1人雇いたいのです。紹介していただけますか?」
「それはありがたいわ。14歳の子がいましてね、その子はどうでしょう?」
「一度その子の希望も聞いてからになりますが、紹介お願いします」
「分かりました。クロエ!こちらに来なさい!」
1人の女の子が歩いてくる。この子かな?活発そう。
「院長、何ですか?」
「クロエ、カヨさんの所で働いてみませんか?あなた羨ましがっていたでしょう?」
「本当ですか!?やった!カヨさんよろしくお願いします!」
勢いよく頭を下げられた。話しがスムーズだけど羨ましがってた?
話を聞くと、休みの日に孤児院に来るロアやエマが仕事や生活の話をして、それを聞いていたクロエが羨ましがっていたらしい。自分もそんな職場で働きたいと。そんな時に来た勤めないか?と言う話。飛びつくというものだ。
「準備期間を設けるので、1週間後に迎えに来るのはどうでしょうか?」
「もちろんそれでいいです!やったぁ!いい就職先だぁ!」
クロエちゃんは1人でうきうきしている。小さい子が面白いと思ったのか近づいてマネしてる。かわいい。
仕事のお話が終わったので、前まで赤ちゃんだった子を教えてもらう。ちょっと見てないだけで成長しちゃうからね。1番小さい。もう、1人でよちよち歩いている。あの時助けた命だと思うと感動だ。
膝の上に抱っこする。かわいい。覚えてないだろうけどね、哺乳瓶でミルクあげたんだよ。身体をなでる。男の子だったのかぁ。やんちゃだ。大人しくしていない。1人で歩いて行っちゃった。
ルークを背中から下ろす。小さい子供は興味津々だ。ルークの耳を触ろうとする。それをガードして、院長に渡す。
「まあ!かわいい。大きくなりましたねぇ。覚えてますか?ルーク君」
ルークはよくわからない顔をしている。でもイヤイヤしてないから大丈夫だ。小さい子達も集まって来た。新しい子に興味があるのだ。いろんなところから触られる手にルークは困惑顔だ。泣かないといいけど。あっ!ルークの耳を引っ張った。慌てて手を外すが間に合わなかった。ルークが泣く。
院長から受け取って廊下に行く。勉強の邪魔しちゃいけないからね。孤児院の中を泣いたルークを連れて散歩する。一応治癒魔法を耳に掛ける。
食堂でルークをあやす。泣いたらお乳が欲しくなったようだ。お乳を飲ませる。小さい子との交流はもうちょっと先だな。
厨房から何事かと見に来た料理人見習いの子が、お乳をあげてる姿を見て真っ赤な顔で引っ込んじゃった。授乳ポンチョ被って無かったからなぁ。悪い事しちゃった。
飲み終わったルークは満足そうだ。服を直してご機嫌をとる。泣いた子がもう笑ってるぞ。
ルークをおんぶして、バズさんの所に行く。バナナとチョコの差し入れだ。バナナはその場でバナナ熟成箱に入れて、すぐ食べれるようにする。
チョコはその場で1つ割って、みんなで食べる。小さい歓声が上がった。ふふっ笑ってくれると嬉しいな。
バズさんにお礼を言われて、厨房から出た。昼食の準備してるからね。
自宅の2階に空いてる部屋あったかなぁ?あと2部屋あった。ベッドとクローゼットを設置する。
大きな屋敷にしたつもりだけど、大勢になっちゃったな。賑やか。
1階に行って、創造魔法でトイレを増やす。朝なんて時間無いからね。
そろそろ治癒の旅も復活しないと。待ってる人がいると思うとやる気が出て来る。
真面目な治癒師に変身して、キノクニー街にインビジブルを私とルークに掛けて、瞬間移動する。人が少ない所に移動出来たみたいだ。インビジブルを解いて役場に歩いていく。ルークは寝てる。
役場に来たら、紹介状を渡す。すぐに街長に呼ばれた。
「良く来て下さいました。噂に聞いてお待ちしておりました。キノクニーの街長をしている、ドミニクと申します。席にお座り下さい。治癒をして下さるのはありがたいのですが、この街は人が多いです。とても1日では終わらないのですが、どうなさいますか?」
「お待ち下さりありがとうございます。カヨと申します。出来れば、この街は怪我人が多いように見受けられますので、2日に分けてもらえれば嬉しいです。出来ますでしょうか?」
「そう言っていただけるとありがたいです。2日に分けましょう。場所はここの1階で、何か準備するものはありますか?」
「私が座る椅子と机とお金を入れる箱が有れば嬉しいです」
「分かりました。今から住人達に周知させますので、明日から4日いただきたいです。お待ちいただけますか?」
「分かりました4日後ですね。朝、役場に参ります。よろしくお願いします」
「こちらこそ、お願い申し上げます」
私は役場を出た。ダンジョンの続きに行こうかな?いや、時間的にお昼だ。カーマインに帰ろう。
瞬間移動で帰った。魔法を解いて、食堂に行く。1番乗りだ。いつのまにか起きていたルークを椅子に座らせて離乳食を食べさせる。ルークも慣れてきて、お口を開けてくれる。赤ちゃんの口とほっぺってなんて可愛いんだろう。全身かわいいが。もう立派な親バカだ。
ルークをベビーベッドに寝かせた頃にみんな来た。自身にクリーンを掛ける。ノアが抱きしめてきた。抱きしめ返す。あぁ、安心する。ノアがルークと戯れる。
席に着いて、料理が並べられる。あー空きっ腹に美味しい。毎日コース料理みたいで贅沢だ。あ、後で料理長に私のパティシエが来るって連絡しないと。忘れるところだった。リンダに合わせたパティシエの服も準備してあげないといけないからね。
ノアを仕事に送り出して、控えていた料理長に私のパティシエが1週間後に来るので面倒を見てやってくれとお願いする。了承してくれた。さすが料理長。懐が広い。
ルークをおんぶして、領都の本屋に向かう。
この世界、印刷して本を大量生産しているが、紙の良し悪しと本の内容が専門知識とかになると、長持ちさせる為高い紙やインクが使われて、本が高価になっている。
雑貨屋で売ってる安い本は安い紙やインクを使っているから、後世に残すのには向かない。安いので売れるが。
何処に行っても本屋の警備は厳重である。
でもカーマインの本屋の常連である私は顔パスで案内される。
そして買う本もいつも決まっている。それは『初めての魔法』である。いつも大量に買うので在庫を大目にしてくれているのだ。
店員さんと笑顔でお会計と本の受け渡しが行われる。ありがたい。買った本をアイテムボックスの中に入れる。
店員さんに「無くなったら、また来ます」と言葉を残して帰る。そして、店員さんが無くなった本を仕入れてくれる。
ここで良い関係を築いているのだ。
本を買った私は公園に行く事にした。ルークにいろんな景色を見せながら歩いて、公園の草の上に座る。
ここの管理は公爵家で雇われた人がしているらしい。
ポカポカ陽気だから、草の上で横になって寝ている人や座って何か食べてたり、みんな好きなことをしている。
私はルークを下ろして、草の上に下ろしてあげる。ルークは興味津々で草の匂いを嗅いでいる。なんともかわいい。
ルークがハイハイしだしたので、遠くに行かない限りは眺めている。コロコロ転がったりして草だらけだが、後からクリーンをしたらいいので気にしないでおく。ルークは自然に触れて開放的になっているので、そっと後を付いていく。ルークの小さな冒険だ。
一生懸命ハイハイしている。おしりがプリティーだ。気になった草の匂いを嗅いでいる様は、犬のようで可愛い。こっそりカメラで撮る。
たまに私がついて来ているか確認する。それからまたハイハイをするのだ。
あっ!草食べた!強制終了だ。口から草を引っ張り出す。ルークがイヤイヤしてるけど、こっちがイヤイヤだ。休憩は終わって、ルークにクリーンを掛ける。
自然の中にいる開放感を覚えてしまったのか、のけぞって嫌がっていたが、おんぶ紐の中に入れて強制的におんぶだ。これだけ自然が好きだと、将来は農家でもするかな?
屋敷まで歩いて帰る。ルークは諦めたのか大人しい。
屋敷に着いたら、子供部屋に行きルークを床に下ろす。元気にハイハイしだした。1人遊びも上手になったものだ。音の出るおもちゃを買うか。地球通販で見ると知育玩具なんかがある。試しに買ってみるか。
買ったおもちゃをルークの前に持っていくと興味を持ったのか、座って触っている。がすぐにゴロンと横になってしまった。ちょっと早かったかな。
まだ、6ヶ月の赤ん坊だ。獣人の子だからか成長は早い方だが。
私はグラスに入ったミックスジュースを飲んで一息つく。
実はこの世界、グラスが作られてないのだ。屋敷で使われているグラスは私が地球通販で購入した物を提供している。陶器のコップで飲むのもいいのだけど、やっぱり冷たく飲むならグラスが涼しげでいいよね。
王城に売り込むかは考え中。お金に困ってないからね。王宮と言えば透明なワイングラスが思い浮かぶが、作れない物を販売してグラスを使用人が割ったりして処罰されたりするのは嫌だ。簡単にそんな場面が思い浮かぶ。ネットで調べて自力で作るなら協力もするが、作れない物を何故持っている?って話しになってもややこしい。
考え事をしていても、ルークから目は離さないが。
やっぱり誤飲が怖い。いくら警戒していても赤ちゃんは口に物を入れたがる。
ルークが遊び疲れて寝倒れている。伸びている姿もかわいいが。どこでも寝るなぁ。抱っこしてベッドに仰向けで寝かせる。注意しないと寝かせる段階で起きちゃうからね。赤ちゃんの寝顔はかわいいなぁ。カメラでパシャリ。良い物撮れた。ルークにクリーンを掛ける。
ゆっくり寝てくれよ。
翌日はルークをおんぶして、キノクニー街の孤児院に来ている。寄付をしたいと中に入れてもらう。
ダンジョンの街だからか、孤児が多い。比較的キレイな服を着ているので、お金には困って無さそうだ。冒険者の街だから、冒険者の親を亡くした子が多いのだろう。子供の面倒をみている人達も引退した冒険者っぽい風格が漂う。体格が違うね。
怪我で引退した人もいるようで、急遽、治癒魔法で健康診断をすることにした。
みんな協力的だ。並んでくれる子を大人達が見る。大人達は最後に治療だ。ダンジョンの街だが、子供達に病気や怪我人は少ない。大切にされていたのだろう。
大人達の怪我の方が酷い。良くこんな怪我した身体で働いていたものだ。子供相手は体力勝負なのに。見た目で怖がられているのかな?それなら、ちょっと笑えるんだけど。本人は深刻な問題だろうが。
寄付金を渡して、魔法を使っても良い性格の人だけ魔法を付与して、『初めての魔法』の本を渡して、お昼前に帰る。孤児院によっていろんな特色があってちょっと面白いな。元気な子供には癒される。
ここの孤児達は将来、ダンジョンに潜るのだろうか?それなら魔法を使えた方が有利だ。頑張って魔法を覚えてもらいたいものである。
昼食を屋敷で食べて、午後からはカーマインの靴屋で買い物する。
カーマインの靴屋は既製品もあるが、オーダーメイドが主流で驚いた。獣人によっては足の形が違うそうで、オーダーメイドで作る人が多いらしい。既製品で良い人もいるが、自分に合わせて作った靴は履きやすいからオーダーメイドで作る人も多いようだ。私は孤児院用だから、既製品で充分だけど。
カーマイン、意外と贅沢なようだ。領民性と言えばそれまでだけど。それが普通だからか、高い追加料金は払わない。無料とはいかないみたいだけど。
でもそのおかげで、靴を作る腕が上がって、カーマインの靴は他領では高級品に分類されるらしい。馴染みの商人が購入していくそうで、在庫は常にあるんだって。
キノクニー街の治療の日になった。
真面目な治癒師に変身してインビジブルを私とルークに掛けて瞬間移動でキノクニー街に行く。朝早いから、まだ人通りは少ない。インビジブルを解いて、役場に歩いていくと、人の声が聞こえて来た。
もう並んでるのかと急ぎ足で役場に行く。
沢山の人が並んでいた。体格が良い人が多い。さすがダンジョンの街だ。
役場に入って、挨拶をする。椅子が準備されていたので、その隣にベビーベッドを出す。おんぶしていたルークをベビーベッドに寝かせる。本人は柵に捕まって立ちたいみたいだが、危ないのでやめて欲しい。
役人さんに人の流れの補助をお願いする。
私は椅子に座って治療の合図をすると役場の中に人が入って来た。役人さんが銀貨1枚貰って、私が治療する。そうしたら反対側の役人さんが治療が終わった人を誘導する。
よし、流れが出来た。
治療をしてみると、ダンジョンの街は一攫千金を求める人達だけじゃ無い事を知った。よその普通の街では差別されるような、生まれつき奇形な人や身体に問題をかかえながら生きていく為にダンジョンに潜っている人達が一定数いるようだ。
ダンジョンの街だから普通の怪我人を想定していたが、治療する事によって、その人の人生を変えてしまう事を知った。治療した後の喜び方がハンパじゃ無い人が多かったからだ。
治療する事で、街が活気づくと思ったが、余り変わらないかもしれない。でも、治療しない選択肢は無い。求めてくれる限りは、治療していく。
ルークにお乳をあげたり、昼食にクリムを食べたりしたながら治療していって、15時になった頃に警備の人に、今並んでいる人で止めてもらうことにした。
2日あるのだ。無理して続けなくてもいい。
ルークが治療した人の癒やしになっていたのは想定外だったが。目線が私じゃなくてルークを見ている人がいた。まぁ、かわいいからね。どや!
まぁ、私が知らない所で噂が広がっていくのだが。
『聖女は獣人の、子供と一緒にいる』
『聖女の旦那は獣人だ』
なんて言葉が知られるなんてね。
1日目は18時頃に帰れた。
屋敷の食事に間に合ったから、一緒に夕食を食べた。もちろん働いた後の食事は美味しかったよ。
夕食後はリビングでお父様がルークを離さなかった。ルークの機嫌も悪く無さそうで、私は思う存分ノア成分を補給していた。お母ちゃんも女に戻りたい時があるのさ。ノアに甘える。ノアも甘やかしてくれるから良い関係が築けてると思いたい。
そういや、あと2週間くらいしたらプールが出来そうな気温になってきたな。なぜいつもプールの時は妊娠しているのだろう。2回目だが。
2日目のキノクニー街での治療の日。今日は最後の日だからか昨日より並んでいる気がする。
ルークに大人しくしておいてねと身体を撫でて、椅子に座る。治療の開始だ。
治癒院から運ばれてきたのか、担架で運ばれてくる人が多い。欠損もよく見られる。
昨日の人は早く治したい人が多くて、今日は余裕を持って治したい人が多い気がする。
神になった事で、また魔法の使い方が上手くなったから、治療時間が少なくてすんでいて私は楽だ。怪我を見ると痛い気持ちにはなるけどね。自分じゃなくても。
担架に乗っている人は、怪我が酷い人が多い。目が痛いよ〜。治すけども。
治った人は私にお礼が言いたいみたいだけど、役人さんにドナドナされていく。すまんね。患者が多くて構ってやれんのだよ。
事件は逆恨みの冒険者が剣で私に斬りかかって来た時に起こった。お金を貰う担当だった人が私を庇おうと前に出てきて、代わりに切られてしまったのだ。逆恨みの冒険者は私がバインドで捕まえて、兵士に連れられて行ったけど最後まで叫んでいた。「お前が早く来ていればナオは死ななかったのに!」と。そんな事私に言われても仕方ない。このタイミングだったのだから。
それより変わりに切られた人だ。血溜まりの中で瀕死だ。ヒューヒュー言ってる。急いで治癒魔法を掛ける。あ、この人病気も持っていたんだ。災い転じて福となすってね。庇われたのは嬉しいが、なんて心が強い人だろう。独身だったら惚れていたわ。治療はすぐに終わったけど、血だらけだからクリーンを掛けて、服は新しいのを用意して、起きたら空腹だろうから、お腹に溜まる食事と果物。それと、お礼のお金を付き添いの人に渡して、休憩室まで運んで行って貰う。
でも衝撃的だったな。私の前に飛び出してくるなんて。虹貨1枚あげても足りないよ。
もう一度床にクリーンを掛けて、騒ぎに驚いて泣いているルークを宥める。怖かったよね。落ち着いて。
ルークが落ちついたら、治療を始める。怪我した男の人の変わりにお金を貰う役目をしている人は神妙な顔をしていた。
治療は20時頃に終わりお金を回収して、手伝ってくれた人達に果物バスケットを渡して歩いて行く。ルークをおんぶして、庇ってくれた役人さんに挨拶しようと思ったら「早めに帰りました」と言われて断念した。お礼を言うように伝言を頼んで、カーマインの屋敷に帰った。
目の前で人が斬られるのってショックが大きいなぁ。
ーカヨの代わりに切られた役人ー
目が覚めた。身体が少し重い。腹も空いている。俺どうしたんだっけ。家か?いや、ここは役場の休憩室だ。
「起きたか馬鹿」
声のした方を見ると同僚がいた。食べ物を渡してくるので、食べる。
「聖女様からお見舞い沢山貰ったぞ。お前が庇ってくれたおかげだってな」
膝の上に他の食い物とバスケットと虹貨が置かれる。虹貨!?思わず口から食い物が出そうになった。我慢して咀嚼する。
「虹貨なんて!どうしたんだよ!?」
「聖女様からのお礼の品だよ全部。お前、暴漢から聖女様守っただろ?」
そういえば記憶が蘇ってきた。俺は少し武道を嗜んでいる。治療に来た冒険者が剣を抜いたのを見て、聖女様の前に飛び出したんだ。身体を見るが、切られてぼろぼろの服以外痕跡がない。
「聖女様がすぐに治してくれたよ。お前危なかったんだぞ。近くで見てて駄目だと思ったよ。聖女様凄いな。何でお前飛び出したんだよ。自分の命が一番大事だろ!」
同僚が怒ってくれる。無謀だった俺を心配してくれているんだ。
「咄嗟に身体が動いたんだよ。この人は死なせちゃいけないと思って」
「お前が死んでたかもしれないんだぞ!」
「うん、俺の為に怒ってくれてありがとな」
同僚がため息をついて椅子に座った。
「聖女様、虹貨がポンと出せるのに、銀貨1枚で治療してるなんて不思議だよな」
「治療に来る人達を治したいんだろ。これでお前も大金持ちだ」
「俺の命、虹貨1枚なんだな。高く見積もってくれて」
「ばーか、安いくらいだぞ」
同僚は俺の命を高く見積もってくれているらしい。
「心配かけた役場の人達と食事でも行くか!俺のおごりで!」
「俺は遠慮しないぞ」
「分かってるって、ありがとう」
同僚と無事を喜んだ。




