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【旧作】私は異世界で自由に生きる〜子供達に癒される〜  作者: 春爛漫


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どこかの人々 2

 ーお父様・アルソンー


 ノアールが番いを連れて戻ってきた。執務室でいきなりいなくなった時は驚いたが、番いを迎えに行ったのなら納得だ。

 ノアは15歳から21歳まで番いを探しても見つからなかった。誰もがノアに伴侶はできないと諦めていた。


 29歳の今になって見つかったのは奇跡に近いだろう。


 ノアは番いの人族を溺愛した。番いは結婚の儀式はするが、それはお互い準備が出来てからだというのに、出会って相手の事もあまり知らないまま結婚してしまった。

 やっと見つかったノアの番いだ。歓迎もする。相手のカヨさんも素直な娘に見えたからな。


 だが、あの娘、やりおる。どこからかドラゴンの肉を持ってくるし、美味かったが。果物もわんさか持ってくる。

 普通の娘では無いとは思ったが、もう我が家の一員だ。ライラさんと共にカーマイン一族の1人と受け入れている。

 だが、あの娘、プールと言うものを屋敷の裏に作り、妻とライラさん、子供達に破廉恥な格好をさせていた。「普通ですよ」と言うので、人族では普通なのかもしれないと思いなおし、家族を見てみると、皆、楽しそうではないか。見ているうちに和んでしまい、我が番い・妻の見たことも無い姿に見惚れてしまった。


 ごほん!それは、まあ、置いておいて、あの娘は魔物の肉を沢山、持って帰ってくるし、神官の印も神から賜っておる。私の事も「お父様」と本当の親のように思ってくれているあたり、純粋な娘なのだろうが、ノアが振り回されているようなのが哀れをさそう。

 早い妊娠に喜んでおったら、更には妖精のパクティーなどを連れて帰ってきよる。驚きの娘だ。


 社交の時期に生まれた、孫はノアに似て可愛らしく、早く「じいじ」と呼んでもらいたいものだ。


 だが、あの娘、衝撃的な事をやらかしおった。神になっただと!ノアが神の伴侶の人神になっただと!常識外れにもほどがある。ノアの人生だから私が口出しするものでは無いがな。人の幸せは人の数だけある。


 だが、我が子が神になるとは思わなんだ。


 その後、妻に聞いた話によると、歳を若返らせる『神の花』と言うものを持っていると言うではないか!? 信じられん娘だ。私と妻は神の花を使う決心は今はつかなかった。

 ノアもあの娘に染められたものよな。


 神官の印を家族につけてくれて「危険があれば助かる」と、授けてくれたあたり、やっぱり優しい娘なのだろう。


 家族の幸せを祈るのみだ。もう少し、イチャつくのは自重して欲しいが。




 ーサーニャー


 視察でノアール様夫妻のお世話を任命され、特に出産間近のカヨ奥様の体調を管理する事を頼まれました。

 ですが、カヨ様は自由な方でお1人で散歩に行ってしまわれます。魔法も堪能な方なので、危険は無いとは思いますが、心配です。


 カヨ様が、散歩先で妖精のレインを拾ってこられました!妖精は気難しく、気に入った者にしか懐かないと聞いた事がありますが、レインは人見知りをしない妖精様でした。まぁ、かわいい。


 わたくし、プライベートと仕事も充実しておりますが、やっぱり家族に会えないのは寂しいです。

 ノアール様とカヨ様、いいなぁー。


 カヨ様は話すと元庶民だからか気さくで、わたくしが対等な立場で話すことも許してくださいます。

 たまにレインと走っている時は、妊娠中なのにハラハラしてしまいます。

 お屋敷に帰れば、仕事場が領主家族の方と違うので、会えることは貴重でしょう。


 お子様が無事に生まれる事を祈っております。




 ー町長の娘・サーヤー


 わたくしはサーヤ。町長のお父様の娘です。番いの旦那様、家族との仲も良好で、毎日充実しています。


 視察で領主様の弟のノアール様が来ると、お父様が失礼な事をしないように私達家族に注意しておりました。

 実際来たノアール様は男性なのに、とても綺麗な方で奥様のカヨ様もかわいい人でした。妊娠されていて、羨ましいですわ。妖精様は可愛いくて、思わず撫でてしまいました。


 カヨ様をお茶会にお誘いすると、来てくださって、いろいろお話しさせていただきました。ノアール様とカヨ様の出会いは神様に導かれたような話で、思わずカヨ様に本にしていいか尋ねてしまいました。了承の返事がもらえましたので、視察団がいなくなって日常が戻ってきたら、執筆致しました。お母様とお父様の出会いも良かったですわ。

 カヨ様だけでなく、町の獣人達の話しも聞いて本にしましたら、絶賛されて今ちょっと流行りの本になっていますのよ。


 この本が人族の領地まで行けば、誤解されているらしい獣人の番いが、人族に間違う事なく伝わりますわ。

 ぜひカヨ様にお子様が生まれてからの取材もしたいものです。お話の中でもノアール様とカヨ様の獣人と人族の話が1番人気なんですもの。領主家族の話としても人気かもしれないですわ。

 もちろん私とディスとの出会いも話にして本にしています。照れますけれど、誰にでも誇れる番いなので、堂々としています。


 カヨ様にいただいたメロンは使用人達とも毎日仲良く食べさせていただいております。毎日の楽しみですのよ。

 使用人からメロンの話が広かったのか、屋敷に勤めたいと来る人の多い事。人数は足りておりますから、お断りしておりますが心苦しいです。


 メロンは正義ですわ!




 ーカヨに治療してもらった頭が2つ体が1つだった姉妹ー


 治癒師様に治療していただいた帰り道、服を治癒師様にいただいたけれど、裸足の私と同胞。身体はとても疲れている。今すぐ眠ってしまいたい。でも心は軽いわ!2人に別れた事は少し寂しいけれど、2人で決めた事ですもの。

 でも寂しくて自然と手を繋いでしまいます。生まれた時から一緒の片割れが今日、2人になったのは嬉しくも寂しい日になりましたが、これで両親が喜んでくれて、結婚相手が見つかるならば、喜ばしい事です。


 家に帰ると、とても母に驚かれました。涙を流して喜んでくれました。仕事から帰って来た父親にも2人同時に抱きしめられて、父も男泣きしていました。周りに与える影響が凄いと思いました。私と姉妹の選択は悪いものでは無かったと2人で笑いあいました。

 ふと思いました。私達はどっちが姉で妹なのか、片割れに聞くと「私達は生まれた時から一緒の双子よ!」と言い切られたので、気にする事なく今まで通りでいいのだと安心しました。


 それからの周りの対応は180度変わりました。

 お母さんとお父さんと、今までの服などでは身体に合わないので、買い物に出掛けて奇異な目で見られない事がこんなに素晴らしいなんて!2人で年頃の女の子みたいに、特注ではなく既製品の服を選んで買えるなんて、おしゃれが楽しめて嬉しい!


 私達を「かわいいね」と言ってくれたり、近所の人も「おめでとう」と祝ってくれたり。2人で喜びました。私達の性格は変わらないけれど、見た目がこんなに大事だなんて、驚きです。


 今でも生まれてから一緒だった片割れと一緒に眠っています。部屋だって一緒。生まれた時からそれが当たり前だったもの。

 もし、結婚しても一緒に暮らしたいわ。私達2人を受け入れてくれる旦那様はいないものかしら?




 ーカヨの治療に来た子供を諦めない父親ー


 仕事場に近所の人が来た時は何事かと思った。取り乱し様が凄かったからだ。


 娘が馬車に轢かれた。


 教えてくれた近所の人にお礼を言えたかも分からない。頭がおかしくなりそうだった。止まった馬車の後ろで、ぼろぼろになった娘。掻き乱された心で今日は役場の治療の日だと考え、関係ないと思っていた役場に娘を抱えて走った。

 娘はいつも家の近所で遊んでいた。何故こんな目にあっているんだ!

 抱きしめた娘は骨がないようにぐにゃぐにゃで、冷静な頭は呼吸と心音を確かめろと訴えかけてくるが、それが怖くてできない。この子の死を認めてしまいそうで、並んでいる列を整理している兵士に「緊急だ!娘が馬車に轢かれた!」と言えば、列を飛ばして最前列に入れてくれた。


 治癒師は若かった。子供を見て憐れそうに私に言葉を告げようとする。


 やめてくれ、言わないでくれ。


 私の気持ちが通じたのか、治癒師は近づいてきて私に何事か囁くと自分が光った。何か魔法を掛けられたのだろう。

 娘を治癒師の前に横にならせるように言われて、離したくない娘を床に横にさせた。小さい身体が横になると、更に小さく見えて震えそうになる。


 治癒師が手をかざすと娘は光に包まれて怪我がゆっくり治っているようだ。祈る気持ちでその光景を見る。

 体感で長い時間が流れた。


 治癒師は汗をかいている。娘を包んでいた光が消えた。すぐに駆け寄りたいような、確かめるのが怖いような気持ちになった。

 治癒師は「大丈夫」とおっしゃった。娘の横に屈み、息と鼓動を確かめる。


 生きている。奇跡だ。


 涙が込み上げてきた。今日が治癒師様の治療の日で良かった。怪我が治った、もうぐにゃぐにゃしていない娘を抱きしめて泣いた。役人に場所を譲るように言われる。

 役場の隅で、思う存分に娘の生を確かめた。

 そして、遠くに見える治癒師様に祈りを捧げた。娘を救ってくれて、ありがとうございます。


 家に帰ると、娘は目を覚ました。キョトンとしている。仕事に行っていた俺がなんで家に居るのか不思議なのだろう。

 妻と2人で娘を抱きしめる。抱きしめられて嬉しくなったのか娘が笑う。それだけで尊い。妻と娘を思う存分抱きしめた。


 近所の娘のことを知らせてくれた人は、家を訪ねてきて、気まずい顔をしている。娘が死んだと思っているのだろう。

 娘は生きていると言えば、信じられない顔をした後「良かったなぁ」と喜んでくれた。この人がいなければ、娘は助からなかったかもしれない。お礼を渡すと「大した事はしてないが」と謙遜しつつも、お礼を貰ってくれた。


 俺たちは、沢山の人に助けてもらってるんだなぁ。




 ー神殿の神官お世話係ー


 神官様方が新しい神の誕生の連絡を受けて「お会いしたい」と神官様同士で話されている。中には自分のお世話係におねだりをされている神官様もいる。


 運命神様の眷属神・地上神 希望と破滅の神が誕生したと、ティニース王国の出張官の連絡係が正式な書状を持ってきた時は神殿が震撼したものだ。「神は地上に降りられない」ことが普通だったのだから、眷属神と言えども初めて神が地上に誕生したのだ。


 神殿は神官様の為にあるが、神官様だけでは日々の雑務が出来ないので執務官やお世話係や料理人や掃除婦が何人もいる。給料は各国の寄付で賄われている。

 経験則で神官は純粋な祈りが出来なくなった時に神官の資格を失う。そんな事が起きないように我々がいるのだ。


 今も「神様にお会いしたい」とおねだりをされているが「神様にも日常生活がおありになるから、軽々しく来れないのですよ」と説得している。地上神の神とは何をされているのか、ちょっと分からないが、まぁ日常があるだろうと想像して神官様方を説得している。

 「それは残念だ」と言われている神官様を見ると良心がちくっと痛むが、なんだか響きが物騒な神に合わせたく無いのも本音にある。なんだ、希望と破滅の神とは。希望なの?破滅なの?はっきりしてよ。


 ティニース王国の書状に、新たな神の紋様が一緒に送られてきているので、各国に知らせて教会の本に記載させねばならない。執務官は大忙しだろう。頑張ってもらいたい。


 ああ、地上神様、神殿に来て神官様達を満足させてもらえないかなぁ。神官様のテンションがここ数日高い事高い事。

 神殿全体も信心深い人々が集まっているので、雰囲気がどことなく浮ついている。


 地上神様、来るなら早く来て下さい。



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