神の初仕事 2
人攫いの悪党が住んでいた建物は、領都の隅の方にあった。
あれから兵士くん・カイさんともう1人の協力者の兵士・リンドンさんと一緒に、呼びに行った兵士達と悪党13人と歩いて監獄に向かっている。
歩かない悪党は、身体強化した私にバインドで引きづられるから、悪人もちゃんと歩いてくれる。仲間が相当痛そうだったからかな?
読心は使ったままだ。悪人たちの心を読むと、どうやら一時的に捕まっても牢屋から出れるような事を考えている。内通者がいるようだから、犯罪者の黒いモヤが見える私も、領主のところにすぐ行かずについてきている。
歩きながらも、私が犯罪者を捕まえるせいで人数が膨れ上がってしまった。だって軽犯罪者くらいは見逃しても、犯罪歴が見えてしまう私には、放っておけない犯罪者がいるんだもん。神の目で見た名前や犯罪歴をカイさんにちゃんと伝えてメモしてもらっている。
取調べが大分楽になるだろう。
誘拐犯を捕まえた場所が領都の大分隅だったので、ほとんど真逆にある監獄に歩いていくのに時間がかかる私には、黒いモヤを出す犯罪者を捕まるのはいい暇つぶしになっている。
兵士達は大変だが。それにしても、神が歩けば犯罪者に当たるである。この領都大丈夫かいな。
やっと着いた。カイさんとリンドンさんに今いる兵士や看守たちを全員集めるようにお願いする。その間に、異空間住居から女の子を出す。べそをかいていた。ごめんね。緊急事態だったんだよ。抱きついて来たので抱きしめ返す。寂しかったよね。体を撫でる。
来た兵士に誘拐された女の子だと預ける。女の子は手を振ってくれた。この国にも獣人っているんだね。カーマインと離れているから番いを探す時は大変だ。
上官らしき人が文句を言っている。「誰の指示だ!」と。あの人はダメだな。横領、殺人、領主と癒着している。近くにいる兵士に喚いている人の罪状を聞かせて、連行してもらう。喚いていた人は兵士に連れられて去っていった。
カイさんとリンドンさんが来て、もうすぐ集まると教えてくれた。
兵士達にも違いがあるな。きびきび動く人とダラダラ歩く人。大体だらだら歩いてる人が犯罪者なんだけどね。集まったら、何十人かの兵士を連れて、並んでいる兵士の間を歩いて、数分で解けるバインドで縛り、名前と犯罪歴を読み上げる。メモを取ってくれるカイさん。縛られた人を連行していく兵士達。
兵士全員を見て、犯罪者を捕まえたら、初めについて来てくれた人がほとんどいなくなった。
他の人は無罪だと言えば、場がホッとした。容赦なくバインドで捕まえて転がしたのが、怖かったかな?それとも、仲間内にもう犯罪者がいなくなってホッとしたかな?
「カイさん、私は昼食に帰るので、また午後に来るから、兵士の皆さんの食事が終わったら、ここに集まって下さい。領主を捕まえに行きますよ」
何げなく言えば、緊張した空気になり「はい!」と返事が返って来た。1番偉い人捕まえに行くものね。緊張もするか。
瞬間移動でカーマインの屋敷に帰る。そういえば行ったこと無い国だったけど、神への祈りで道が出来ていたのか、ずいぶんすんなり女の子の元に瞬間移動出来たものだ。神って不思議。新米だからね、分からないことだらけだよ。
自身にクリーンを掛けると、ノアが抱きしめてくれた。ルークはお腹が空いたのか泣いている。可哀想な事したな。お昼からは連れて行こう。
ルークとノアを宥めて、ルークにお乳を飲ませる。ああ、かわいい。犯罪者に汚された心が凪いでいくみたいだ。
ルークを抱っこして、ノアと食堂まで歩いて行く。私の癒し空間。ノアの尻尾も掴みたい。
食堂に入り、挨拶する。お母様方もいて挨拶を返してくれた。普通のことが嬉しい。
ルークをベビーベッドに寝かせる。コロンと寝返る。ママもう諦めたよ。窒息しないでね。ずりばいを始めそうな気配はするけれど、まだ手の力が足りないみたい。かわいいおしり。ぺしぺしする。
お父様とお兄様が来たので、席に座る。昼食が出て来た。う〜ん、美味しそうな匂い。毎回、屋敷の食事だと舌が肥えちゃうな。もう後戻り出来ない感じ。
鳥肉みたい。何の肉だろう。美味しい。カーマインは刺激物が食べれないから、優しい味付けなんだよね。濃いものもあるけど。
消化が早い。神の力が少ないせいかもしれない。ルークと同じペースで食事しなくちゃいけないかな?おかわりする。
変わった事はトイレの回数が少なくなった。便秘してるわけじゃないのに。神の力にエネルギーが吸い取られているのかも。
食事が終わったら厨房に行って、料理長に少し食事を増やしてもらうようにお願いする。嬉しいようで、笑顔で引き受けてくれた。
もう1つ用事。熊肉を出す。途端に料理長が警戒した。美味しい熊肉だから、料理するようにお願いする。実際、村の人に作ってもらったのを食べたのも報告する。
半信半疑みたいだが、了承してくれた。実際に作って自分達が先に食べるんだろう。そうしたら、使ってくれるし、美味しい肉が食べられる。良い事だ。
ノアの部屋に行って、先に帰ってたノアにまた出掛けるのと、ルークを連れて行く事を話すと、ノアも行くと言い出した。「危ないかもしれないんだよ」と言えば「カヨもルークも行くんだろう?私も着いて行く」と譲らないので、私から離れないでねと約束してもらい、ノアと手を繋いで、ルークはおんぶで瞬間移動する。
待ち合わせ場所には、すでにカイさんとリンドンさんと多数の兵士達が待っていた。
カイさんがノアとルークを見て驚いている。私の旦那と子供だと言えば驚いていた。びっくりさせてごめんね。
カイさんの先導で領主館に行く。やっぱり途中で犯罪者を捕まえながらだ。ここの領地は犯罪者の温床か?私達が通った後は大分、治安が良くなるぞ。
ノアが私がバインドで犯罪者を捕まえるのを見て、驚いている。大丈夫。ノアにあげたスクロールで覚えられるから。ノアを慰める。
人数が減ってしまったけど、後から合流することになっている。領主館に突撃だ!黒いモヤが出ている人に2時間で解けるバインドで縛っていく。兵士の数が足りないから、ひととこにまとめておくみたいだ。
無関係な人は驚いている。ごめんね善良な人。悪い人がいるんだ。
探知も使い、突撃突撃!兵士の人がギブアップしそうなので、少し休憩。
ノアとルークできゃっきゃうふふをする。戦闘の中に癒しも必要だよね。
みんな水分をとって休んだら、また突撃!悪い人いねがー。多いぞ!サービスはいらない。
だんだん豪華になってきたので、領主の執務室が近いはず。探知で人のいる所を探してるだけだけど。
警備の人に止められるも「犯罪者を匿うのか?」と脅せごほん、言えば素直に通してくれる。この国の兵士を引き連れているからね。元は領兵だけど。この国の兵士に間違いは無いのさ。
バーン!と領主の執務室らしき扉を開ける。真っ黒クロスケの人がいた。クロスケはいかんでしょ。
神の目で見ると顔が見えないくらいだ。
「誰だ!無礼な!」
領主の取り巻きみたいな人が言う。この部屋の全員アウトだな。私は神罰を落とせるよ。
領主の罪状が見えて、怒りでくびり殺したい気持ちを抑えつけて、神の怒りを領主に落とす。
細い落雷みたいなものが領主に落ちた。部屋の中の人は慌てて領主に近づくと皆、後退りした。
神の怒りが顔半分に真っ黒におぞましい模様を描いていたからだ。こんな、神の怒りは見た事が無い。
部屋の中が恐怖に支配された。その中でカヨの声がした。
「ねえ、誰が犯罪をしていいって言ったの?あなたの罪を教えようか?今日が最後の自由だよ?」
カヨが部屋に入る。
次次に神の怒りを落とした。落とされなかった者は恐怖で座り込んでしまった。バインドで捕まえる。
カヨは兵士を促し、全員捕らえられて、部屋から出された。
「カイさん、領主の屋敷に行くよ。教えてくれる?」
カイに優しく尋ねる。カイは緊張したように案内した。神の怒りを目の当たりにして、心底恐怖した。自分に向けられたものでは無いから平気に見えるが、心臓がばくばく言っている。
神とは斯くもすごいものなのか?カイの信仰の見方が変わった瞬間だった。
領主の屋敷も酷いものだった。直接的に犯罪した者は少なかったが、仕方なく犯罪に加担した者が多かったのだ。皆、軽犯罪だ。バインドで捕まえていく。
軽犯罪の者の言い分は納得できるものだった。「従わなければ殺される」だが、犯罪に加担してしまったので軽犯罪でも犯罪者だ。
子供が数人、喉を潰されていたので、クリーンを掛けて治癒魔法で治して、食事をさせた。子供達は被害者だ。領主の共犯者が、取引相手が何処かにいる。探さなければ。カイさんに告げる。カイさんも強力すると言ってくれた。
屋敷の庭の隅で、ノアが私の正面に立って、授乳ポンチョを被りルークにお乳をあげる私を隠してくれる。ルークが一生懸命、飲む。それだけで愛しい。右手の甲が温かい。見守ってくださる。私の重くなった心が慰められる。今だってノアが守ってくれてる。心が温かい。ルークが飲み終わった。ルークをノアに預けて、服を正す。ポンチョを脱ぎ、ルークを抱きしめようとすると、ノアが片手で抱き寄せてきた。
「カヨ、君はよくやったよ。頑張ったね。見ていてハラハラしたけれど」
ノアに抱きつく。私の家族が愛しい。
神は罪人を裁く。だが、その人の自由な人生を奪う代わりに、沢山の人を救う。罪悪感は感じる必要はないが、人の人生を奪う事に変わりは無い。カヨはまだ新米神様だ。人としての気持ちの方が強い。それをフォローする為に人神がいるし、運命神様がついている。カヨの心は守られ無ければならない。そうでないと、邪神になってしまう。カヨは周りに助けられているのだ。
新たな神の誕生に幸いあれ




