町で治療とメロン
朝起きて、今日は治癒の日だぞと気合いを入れる。
いつもは変装して治療してるようなものだから、素の自分で治療するのに、ドキドキするのだ。
ノアはまだ寝てる。ベッドから足元を見ると、レインは目を覚ましているようだが床でゴロゴロしてる。気持ちいいのかな?
そういえば、妖精の排泄はどうするんだろうと見ていたんだけど、今まで一度も見た事が無いんだよね。それも不自然だから、妖精は排泄せずにすべて生命エネルギーに、魔力に食べた物を変えてるんじゃないかと思うんだ。
排泄しない妖精、でも食べ物は食べる。1番自然な考え方だと思う。レインも良く分かって無いみたいだし。食べ物に魔力が含まれている事は分かるみたいだから、まぁ、死なないようにしてくれたらいいなぁって感じで見ている。元気が1番だよ。
レインがゴロゴロするのに飽きてこっちに来た。ブラッシングをしてあげましょう。
ブラシを出してスタンバイ。はいお行儀よくして〜、痒い所は無いですか〜?無い?いい子だねー。
せっせとブラッシングしていく。毎日してるから、そんなに毛は出ない。でも気持ちいいらしい。撫でられるのが好きなレインらしいね。
ブラッシングが終わったので、クリーンを自身とレインに掛けて、着替える。今日はお出かけ着だから、ワンピースに着替える。マタニティウェアだけどね。染めと刺繍がキレイに入っている、華美に見える服にする。靴は服の色に合わせる。涼しげな水色のグラデーションの服だ。
本当は温かい色にすればいいんだろうけど、ノアのくれた髪留めに合わないから、こういう服。
念話の首飾りも派手な物じゃなくて、小さい飾りがついた物だから合う。さりげなく、運命神様の模様。よく見ないとわからないけどね。ノアとお揃い。
ノア、もうそろそろ起きたかなぁ。まだみたい。耳触っちゃうぞー。良い良い。ノアがむずがるみたいにする。かわいい。綺麗なのに可愛いくて男とは何がおきたんだ。奇跡か。
あっ、ノアが起きた。ふにゃっと笑ってくれる。かわいい。おはようのちゅうをする。
ちょっとごろごろして頭を起こしてから、起き上がる。抱きしめて匂いを嗅がれる。こんな所が獣人ぽい。
ノアが着替えたので、クリーンを身体と口に掛ける。飲み物を渡すと飲む。
2人と1匹で食堂に歩いて行く。サーニャは来なかった。ちょっと早かったかな?
食堂に行くと視察団の人達が椅子に座っていた。挨拶をしてノアは打ち合わせに入る。
私はレインに果物を出してあげる。レインが美味しそうに食べだした。
この子、全然食べこぼししないんだよね。お行儀がいいのか、果物が好きすぎるのか。最後は器舐めてるもんな。
またしても、町長一家が食堂に急いで来た。いつもはもっとゆっくりなのかもしれないな。すまんよ、私達が来て。明日の朝、去るからね。
町長達が来たので椅子に座る。朝食が出て来た。朝なので、軽めの朝食だ。足りない人はパンが山盛りあるから、食べるんだろう。
神に感謝していただく。たまごはどこも同じ味だな。どこかで養鶏でもしているんだろうか。食べれるのは良い事だ。野菜も火を通した物をいただく。その方がたくさん食べれるからね。ここの料理長は栄養を意識しているんだろう。
初日はパージに教えを受けてたみたいだけど、今日までレッスンがあるのかな?よその料理人に料理を教えてもらうなんて、ここの料理長は器が広いなぁ。普通なら反発しそうだけど。
朝食が終わって、今日はノア達と一緒に役場まで行く。治癒しないといけないからね。
大勢が徒歩で向かう。迫力があるかもしれない。特に並んでないけど、この領地のエキスパート達。雰囲気が違う。護衛が周り囲ってるし。
少し歩いたけど役場に着いた。ノア達は事務作業や町長の執務室などを見るらしい。
私は別室で待機。病人・怪我人が来たら対応するらしい。役場の受付開始から、人が来るらしいよ。
だから、ちょっと休憩。レインをもふる。可愛いなお前は〜。レインにりんごを出すと、ヘタも残さず食べてしまった。それでいいのか?みかんの皮をむいて出すと一口で食べてしまった。美味しさに興奮している。汁気のある、甘いものが大好物みたいだな。
また毛を撫でる。初めは生臭かった息も妖精になったからか、臭くなくなった。いい匂いまではいかないが、普通だ。舐められても、きちゃないとは思わない。まぁ、食事前なんかは舐められたとこ、クリーンするけどね。
お茶を飲んでゆっくりする。患者はまだかなー。役場の人が朝早いだけか。
レインと一緒に、ぐた〜っとだらけていたら、ノックの音がした。シャキンと体勢を立て直し、返事をする。
役人さんが入ってきて、もうすぐ時間だから、役場の受付付近に椅子を用意してあるのでそこで待機してくれとの事だ。
レインと一緒に部屋を出る。多分1度治療に来てるから、人は少ないと思うんだけどな。
椅子に座ってレインと待つ。入り口付近に列を作っているのが患者さんだろうか。考えていたより人がいる。
受付開始の時間になって、役人さんが扉を開けに行く。役人さんと護衛の人が左右に付いてくれるから安心だ。レインもいるしね。
役人さんに促されて、治療を開始する。
足が折れたのか、治癒魔法で治す。子供に蕁麻疹が?サーチすると、かぶれたみたいだ。治癒魔法を掛ける。
軽いとはいかなくても、大病や大怪我の人はいない。薬師さんが調合に失敗して毒薬を全身に被ってしまったぐらいだ。すぐ解毒して治したよ。調合室は大惨事だね。きっと。
お昼前には治療が終わった。ここで私はお役御免だ。護衛さんと静かにしてくれていたレインと町長屋敷に帰ることになる。
ざわざわして来た。見ると視察団も昼食に帰るらしい。一緒に帰る。
ノアと手を繋いで帰ると、後ろの人達がこっそり「ノアール様は愛妻家だな」と言っていた。獣人てこんな物じゃないの?ノアの行動に不信を持ってしまった。好きだからいいけどね。って言うか私に聞こえたんだから、耳の良い獣人にはみんな聞こえたよね。聞こえるように言ったんかい。
ノアが、ぎゅっと手を握ってきた。
「私は、愛妻家だよ。いつでもカヨのことを考えている。こんな私は嫌かい?」
「ううん、好き」
私が挙動不審になっていたのを、すぐにフォローしてくれる。私達は私達でいいんだ。ノアの言葉に安心した。今なら頭からハートが飛んでいるかもしれない。視察団諸君、番いが近くにいないのにごめんよ。
昼食を屋敷でいただいて、ノアとハグをしてお別れした。あと少し、頑張れノア。
果物を食べたレインを連れて客間に行く。
レインを思い切り抱きしめてもふもふする。至福なり。
レインのお嫁さん、普通に広範囲探知すれば見つかるんじゃない?暇になったらやってみよう。
レインの脚をもふる。ここに鋭い爪があるなんて誰も思わないよね。いざとなったら戦ってね。傷つかないの知ってるけど。
レインが私のお腹を気にしてる。そうだよ、子供がいるんだよ。僕も欲しい?お嫁さん探すから待ってよね。妖精に子供ってできるのかしら?
クンクン鳴いて、お腹に顔を擦り付ける。何かあるのかな?自身をサーチしてもお腹の子供は健康だ。地球だと犬とかが、飼い主の異変を見つけて助かる事があったから、油断出来ないなぁ。今はただじゃれてるだけだと思うけど。
胎動があったから、お腹の子と会話しているのかもしれない。妖精すごいな。
レインは満足したら、外で走りたいと念話して来た。廊下に出て、玄関から外に行く。護衛も付いて来た。
レインに「好きに遊んでいいよ」と言えば、庭を走りまわっている。こんな所は犬みたいだな。
ぼうっとレインが走りまわるのを見る。私はもう一般庶民じゃない。貴族かと言えば、自覚があまりない。これじゃいけないんだろうけど、何かすることを強制されている訳でもない。
うじうじ考えるのは嫌いだ。前世を思い出す。
自分で流れを作るか、周りに流されてみるのもいいかもしれない。新しいことを始めるか。
一応プランはあるけど、すぐには出来ない。
私はカーマインの家族も好きだし、自宅に住んでるみんなの事も家族だと思ってる。一方的な思いかもしれないけど。借金奴隷から、解放してあげたい気持ちもあるけれど、みんなが離れていくのが辛い。一方的な思いだな。苦笑いが出てしまう。
誰にも彼もに、好かれるわけじゃないけど、私は好かれたい。わがままだな私。ノアで満足出来ないんじゃないけど、ノアだけ見て生きれたら幸せだろうな。そんなのは私じゃないけど。
私の世界は、ここに、この世界に来て広がった。運命神様とメンリル様のおかげだ。手の甲の印も初めは迷惑だったけど、今ではよすがになっている。
神様が守ってくれているみたいに。勝手に思ってるだけだけどね。
ほっぺをつねる。痛い。うじうじ考えるのは終わり!ノアとカーマインの家族と自宅のみんなを信じればいいんだ!裏切られたと思っても、カーマインの家族が、ノアが慰めてくれる。信じろ!私!
立ち上がって少し駆け足でレインを追いかける。身体を動かせば、悪い思いなんて吹っ飛ばせる。
レインが気づいてくれた。一緒にゆっくり走る。それだけで幸せになる私は、単純だと思うけど、今を楽しめなくちゃ、これからの長い人生楽しめない。
レインが飛びかかってくるのを、飛行魔法で避ける。レインも飛ぶ。レインは飛び方を覚えたばかりだ。かわいい飛び方をしている。きっと今だけのレイン。元魔物だから、きっと上手く飛べるようになったら、私より速いはず。
かわいいレイン。覚えておくよ。生まれたての妖精のあなたを。
少し疲れて、レインと護衛さんの所に戻ったら、アキさんとサーヤさんが呆然としたように、こちらを見ていた。
「サーヤさん、レインに食事をさせてみますか?かわいいですよ」
「は、はい!させてもらいます!」
私はアイテムボックスから、プイの実を取り出してサーヤさんに渡す。言葉を理解しているレインは期待でいっぱいだ。
サーヤさんが、恐る恐るレインにプイを差し出す。レインはその手を傷つけ無いように上手くプイだけを食べる。運動後で幸せそうだ。サーヤさんも感動したみたいにレインの食べるところを見ている。レインにお礼を言われて、顔がほころんだ。
私は机を出して、包丁とまな板を出す。メロンを取り出して、切って皮を剥く。
みんな獣人で鼻が良いから、期待の目でこちらを見てくる。
レインの分だけ、別のお皿に移して、みんなの分には爪楊枝を果物にさす。
「みんなで果物をたべましょう!美味しいですよ」
アキさん、サーヤさん、護衛のみんなに配る。
レインにはお皿を出してあげる。私も一ついただく。やっぱりメロン最高!プイにも白桃にも引けを取らない味だわ。
レインは新しく食べる果物にうっとりしている。香りでも、舌でも楽しめるからね。
『カヨ!カヨ!まだ食べたい!おかわり!』
期待に応えて切るかな。もう一つメロンを取り出して切る。他の人もおかわりが欲しいようだ。
みんなで食べる。みんな笑顔だと嬉しいね。
無くなったら、みんな満足なような、もう食べられない事が悲しいような顔をしていた。
サーヤさんが決意した顔で聞いてくる。
「カヨ様!今の果物はどこで手に入りますの?わたくし、また、食べたいのです」
「今のはメロンて言ってね、私が育ててるんだ。だからどこにも売ってないよ」
そう言うと、サーヤさんがしょんぼりとした顔をした。耳が垂れてかわいい。いや、そこじゃない。垂れ耳かわいいけど、今は、置いておく。
「ここで作れるようにしましょうか?どこか良い場所はありますか?」
「本当ですか!?ご案内いたします!」
耳がぴょこんと立ち上がって期待に震えていた。かわいい。
サーヤさんの後に付いていくと、裏庭に出た。今のチェイス町長が町長じゃなくなった時の為にプランターに植えてあげよう。地球通販で軽そうなプランターを買い、サーヤさんが言ってくれた場所に置いて土を入れ、さっきのメロンの種を植える。魔力を種に込める。
ぴょこんと芽が出てきたら魔力を止める。しゅるしゅる成長していき、実が3つほどなった。
またもや、付いて来た人達は呆然としていた。サーヤさんを呼ぶと、慌てて近くに来てくれた。
「収穫バサミで、ここを切るんですよ。収穫してみて下さい」
「はい!」
サーヤさんは慎重に鋏をいれた。ちょきんと切って、持ち上げると、満面の笑みだった。
「収穫バサミは差し上げます。ご家族や屋敷の人で楽しんでください」
「ありがとうございます!このお礼はどうしたらいいか……。どうしましょう、お母様」
「はっ!ど、どうしましょうね」
「何もいらないですよ。今回の視察団を受け入れてくださったお礼に差し上げます」
「まあ!まあまあ、ありがとうございます。旦那様も喜びます!」
「ありがとうございます!カヨ様!」
いえいえ、おかまいなく。レインが食べたそうに見ているけど、さっきたくさん食べたから、我慢ね。
メロンは切る手間がいるから、プイみたいに出してすぐ食べられないんだよ。




