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92 第二要塞群にて

 第二要塞群北岸砦の一室に置かれたテーブルをリリヤ、ソニア、バーバラの三人が囲んでいた。


「接近する魔族軍は目測1万5千、ブラックドラゴン2体を確認。偵察部隊からの情報です」


 追撃部隊を退けたリリヤ達は無事に第二要塞群に到達していた。第二要塞群に駐留していた3000名程の兵士を吸収し、戦力も積み増せている。

 だが、危機は続いていた。規模を増した魔族軍が迫っているのだ。どうやら敵は追撃部隊と本体の間で再編成を行ったらしい。


「ふむ。相変わらず有力な別動隊による攻撃か……敵は兵站が限界なのだろうね」


 バーバラが推測を述べる。当然ながら南に戦力を進める程に兵站の輸送は困難になる。レブロには南北に長く伸びる川はなく、水運による物資輸送もできない。


「恐らくはその通りかと。レブロでは現地調達をほぼさせていません。魔族がレブロで得られた物資は第一要塞群で死んだ兵士の死体と川の水ぐらいの筈です」


 魔族にとって人間の死体は物資だ。魔族は人肉など食べないが、モンスターの食料になる。とはいえ、膨大な魔族軍を養うような数ではない。


「何にせよ、どう敵を阻止するかですね。全軍でないのは幸いですが……」


 テーブルの上には第二要塞群周辺の地図がある。第二要塞群は東西に流れるラビニア川の北岸に1つ、南岸に4つの要塞で構成されたレブロ南端の防衛線だ。

 北岸の砦はラビニア川に架かる最大の橋、『ラビニア大橋』を守るために建設されており、大軍が渡るのに適した橋はこの一つだけである。


「本来は南側の要塞を起点に大兵力を展開し、渡河を阻止する構想ですが、現在の戦力では困難です」


 第二要塞群は河川という天然の要害で魔族を阻止するコンセプトで作られている。しかし、隘路に作られた第一要塞群と違い、守るべき東西の幅は広い。国王軍とレブロ辺境伯軍が合流し、大軍を南岸に展開するのが渡河阻止の前提だ。

 現在、第二要塞群のレブロ辺境伯軍は5万を超える。相手が人間の軍なら十分渡河を阻止できる戦力だ。渡河地点の選択権は渡る側にあるとはいえ、薄く広く戦力を配置し、別途精強で機動力のある打撃部隊を後方に置けば万全だろう。

 しかし、魔族軍の渡河能力は人間軍より遥かに高い。一部のモンスターにとっては河川が障害にならないため、橋頭保の確保が容易なのだ。そして大型モンスターの力があるから架橋も早い。

 ラビニア川の川幅は200メートル程で流れは穏やか。魔族にとっては突破容易だ。

 厚く広く戦力を川沿いに配置して、ようやく魔族軍渡河への対処が可能になる。


「加えて、ラビニア川北岸を放棄すれば反撃時に渡河が必要になります。それも避けたい」


 リリヤは言葉を続けた。人間の軍隊が魔族の守る川を渡るのは、かなり困難だ。両生類系のモンスターなどは川の中でも攻撃を仕掛けてくるし、レッドドラゴンに空からブレスを吐かれれば橋も船も灰になる。過去の大戦時にも魔族が堅固に守る川を無事に渡れた事例は殆どない。


「とはいえだ。ブラックドラゴンが居るならこの砦もあてにできない」


 籠城して北岸で時間稼ぎに徹したいところである。だが、ブラックドラゴンは一撃で城壁を破壊する強力な攻城兵器だ。敵にこれがある以上、要塞の防御力はあてにできない。


「はい。バーバラ公の仰る通りです。ただ、平地で戦って勝てるかと言うと……」


 ウェンスト軍との合流により戦力は増強されたが、敵側の戦力は更に増えている。正面から戦えばすり潰されるだろう。

 軽く握った手を顎の下に当て、ソニアが口を開く。


「時間を稼げれば国王軍が来る。それは間違いありません。魔術師隊を二つに別けて、第一隊が遠距離魔術攻撃を行い短時間で離脱、第一隊の離脱中にそのやや後方に配置していた第二隊が遠距離魔術攻撃で敵を妨害する。第二隊もすぐに離脱し、それを第一隊が遠距離攻撃で支援、といった形で引き撃ちして遅滞できませんか? 魔族がブルードラゴン等で後方に回り込むリスクに関してはウェンスト山岳騎兵で手当できます」


 ソニアの案をリリヤは頭の中でシミュレーションする。魔術師隊による遠距離攻撃での遅滞戦闘はブルードラゴンで退路を断たれるリスクから、実行出来なかった。しかしソニアの言う通り、今はウェンスト山岳騎兵がいる。魔術師隊の後ろに全騎身体強化の騎兵部隊がいれば、突出したブルードラゴンなど蹴散らせる。

 実行は恐らく可能。しかし――


「やれるだろうさ。しかし敵を止める効果は限定的だね。魔術師隊を消耗されるコストに見合うかというと、割が悪い」


 バーバラが分析を述べる。リリヤもほぼ同じ考えだ。敵は大軍かつ高位魔族多数の難敵、多少の遠距離攻撃では止まらないだろう。


「確かに……」


 ソニアが苦い顔で同意する。


「問題はブラックドラゴンさ。アレさえ倒せば要塞が活きる。殺せないまでも、足の一本でも潰せないものかね。回復魔術を使っても大型ドラゴンの傷は簡単には治らない筈だ」


「出撃して平地での会戦に持ち込み、敵の撃滅ではなくブラックドラゴンを狙う。厳しいですが、ブラックドラゴンは古龍ほど強靭ではない。可能性はありますね。成功した場合は砦に撤退して籠城する。無理だった場合は……南に逃げるしかないか」


「だねぇ。レブロが抜かれるのは厳しいが、その瞬間負けという訳じゃない。戦力が健在なら戦いようはあるさ。ラビニア川を渡河しなくたって、サルドマンドから回ったって良い」


「では、その方針で。詳細を詰めましょう」


 3人で頷き合い。視線を地図に落とした。



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