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73 リリヤ帰還

 カッセル家の陪臣魔術師リリヤ・メルカは馬を駆り、都市プガルトに到着した。後ろには王都カッセル邸から引き連れてきた魔術師20名が続く。

 南門から第一城壁を抜け、市内に入る。


 プガルトはレブロ辺境伯領のほぼ中央に位置する人口3万人程の都市だ。カッセル本邸があるレブロの中心都市である。

 カッセル北行に際しゼロから作られたこの都市は、整然とした街並みが特徴だ。中央のカッセル邸から放射線状に道が伸び、白い石壁の家が建ち並ぶ。


 リリヤ達はカッセル邸に向け、大通りをまっすぐ進む。

 時刻は昼過ぎ、普段なら多くの人が行き交う筈だが、人通りは疎らだ。その僅かな通行人の表情にも緊迫感がある。

 リリヤは街の様子に、既に情報が到達していることを悟る。ブラーウ家の伝書鳩網はここにもドグラスの警告を届けてくれたのだろう。


 第二城壁を抜けて更に進み、カッセル邸に辿り着く。カッセル邸とは呼ばれるが、周囲に水堀が巡らされた巨大な建物で、城か砦といった感じだ。

 屋敷の門番が「リリヤ様! ニコラ様は執務室におります」と急いで門を開けてくれる。


「叔父に報告してきます。皆は……食堂で待機。楽にしていて」


 リリヤは率いてきた魔術師達に指示を出し、叔父ニコラの執務室に向かう。扉をノックし、返事は待たずに中に入る。


 ニコラは何か書類仕事をしていたようで、机に向かって座っていた。

 ニコラが顔を上げる。


「リリヤか。まず一応確認だ、お前が来たという事は、王都にもブラーウ家から魔族に関する情報は行ったな?」


「ええ。ナミタ方面に魔族出現、レブロを警戒せよと。バレント様は総動員を指示されましたが街の様子からすると――」


「ああ、もう総動員はかけた。第一要塞群に兵力を集める」


 リリヤは安堵(あんど)の息を吐く。当然ながら兵力の動員には一定の時間がかかる。動員体制の整ったレブロだが、それでも北端砦で一定期間魔族を阻止し、その間に第一要塞群に戦力を集結する想定だ。

 ドグラスなしの現状では、北端砦で敵の足止めは不可能かもしれない。先んじて動けているのは吉報だ。


「よかった。バレント様の指示で王都のカッセル邸にいた魔術師は全員連れてきた。バレント様は王都で国王軍招集を働きかけてくれている。フランティス様はデベル家の兵を連れてレブロ(こっち)に向かってます」


「そうか……バレント様は心配だが、仕方ない。国王軍は暫くはかかるだろうな」


「ええ。それまでは我々だけで止めないと」


「現状では魔族発見の報告はないが、どれだけ猶予があるか分からん。リリヤは北端砦に向かって欲しい」


「分かった。避難は?」


「第一要塞群以北には避難を命じた。それ以外の地域にも逃げる準備はさせている。……気を付けろよリリヤ。ここ10年で3回程あった小規模な魔族の襲来、あれが威力偵察だったとすれば、レブロの戦力(こちらの手の内)はある程度把握されているはず。半端な戦力では来ないだろう」


 叔父の言葉にリリヤは頷く。主攻がサルドマンド平原という可能性はあるが、そちらに期待する訳にはいかない。


「多数の隷化龍種(テイムドドラゴン)を含んだ数万規模の軍勢、指揮官と副官は宝石持ち。そのぐらいの覚悟はしてる」


 『宝石持ち』とは最高クラスの魔族を指す人間側の俗称だ。

 魔族側の詳しい制度は分からないが、全魔族中で上位数名の強者にはルビーやサファイアなどの宝石が与えられるらしい。大粒、というか塊というサイズで、戦場でも身に付けている。

 リリヤ・メルカ(レブロ最強)パトリス・ジアン(ヴェステル最強)でも勝利は覚束ない。魔族の最高戦力だ。


「私も後から北端砦に向かう。時間は惜しいが、休息は取れよ。王都から無理をして来たのだろう? 疲れ果てた顔をしている」


 ニコラの言う通り、王都シャンタからはほぼ休まず走り続けた。疲れているのは事実だ。本当なら食事をして湯浴みをして、ゆっくり眠って、明日朝の出発としたい。


 だが、そうもいかない。


「わかってる。今から出発するけど、夜はちゃんと寝る」


「……まぁ、やむを得ないか」


「じゃあ、行って来ます」


 リリヤは部屋を後にして、食堂に向かう。

 歩きながら、頭に地図を思い浮かべる。今から物資を補給して出発、日が暮れる前にリルバズ厶村までは行けるか。レブロ内なら顔パスで村長から接収できる。領外よりは楽だ。


「しっかし、ドグラスさま抜きかぁ……しんどいなぁ」


 リリヤは独り言を呟く。


 ドグラスが魔族の別動隊ぐらいに敗れる筈はないが、別動隊を倒した後は位置的にサルドマンド平原に向かうだろう。レブロに現れることは期待できない。


「ま、やるしかないっと!」


 これから部下に「北端砦まで強行軍継続」という過酷な命令をしなくてはならない。皆も予想はしているだろうが、表情くらいは作らないと駄目だ。


 リリヤは自分の両頬をパシッと叩いて気合を入れた。






読んでいただきありがとうございます。

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