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71 会戦直前

 払暁の薄明かりの中、俺とブリュエットさんはランチーㇴ入りした。


 本来ならばまだ多くの人が眠っている時間だ。しかし今は多くの人が(せわ)しなく行き交っている。その多くは兵士や冒険者だ。

 ランチーㇴは人口8000人程の小規模な城塞都市である。そこに数千人の戦闘員が集まった結果、街は異様な雰囲気に包まれていた。


 俺達は門に居た兵士に案内され、街中央の広場へと向かった。


 広場の端に日除けの天幕が張られており、その下に貴族らしき人が3人いた。そこから少し離れてガエルさん達が居心地悪そうに立っている。


「ブリュエット・アルトー様、ドグラス・カッセル様をお連れしました」


 案内役の兵士がそう声を掛けると一同の視線がこちらを向く。


「クジィシャ伯、ご無沙汰しております」とブリュエットさんが優雅に一礼。

 俺も「お初にお目にかかります」と言って頭を下げる。

 先方も礼を返してきた。


「お待ちしておりました。こちらはルブトル子爵にエクラ男爵、手勢を率いて救援に来て下さいました」


 クジィシャ伯は初老の男性だ。金髪が半ば白髪に変わりつつあるが、体格はよく、筋骨隆々である。

 ルブトル子爵とエクラ男爵も年齢は少し若いが似たような体型だ。戦斧とかが似合いそうで、如何にもヴェステル貴族らしい。


「早速、戦の話に移りましょう。魔族は森を避け、南からここ(ランチーㇴ)に向っていると、斥候から報告が上がっております」


 ブリュエットさんは頷き「その認識で相違はありません」と返す。


 魔族は見晴らしの良い場所を選んで進んでいる。そのため進路は読み易い。

 魔族もその点は自覚しているだろう。だが森など死角の多い場所を進めば、俺とブリュエットさんの奇襲に対処し難くなる。


 クジィシャ伯が言葉を続ける。


「こちらの状況ですが、魔族討伐部隊の兵力は現在約3600人。また情報としては、ストラーンからの先行部隊が300人程ここに向っております。順当にいけば数時間後には現れるかと」


「承知しました。3600の兵種ごとの内訳を教えていただいても?」


「騎士800、戦士200、弓兵500、魔術師100、長槍兵2000といったところです。対魔族となればカッセル家の見識は随一、ドグラス様の方針に従います」


 ヴェステル王国では闘気を扱える者を『戦士』と称する。対魔族なら戦士と魔術師が主力だ。合わせて300は悪くない数字である。


「では、各兵種はなるべく均等に配置、騎士は500を騎乗状態で予備として後方に置き、残りは下馬状態で隊列に混ぜて下さい」


「魔術師は集中運用しなくて良いという、ことですね」


「はい。拳の役割は私とブリュエットさんで担います。突撃すると思うので、部隊の指揮はお願いします」


 魔術師は攻撃の要として集中運用するのが会戦における一般的な用兵だ。火力を集めて敵隊列に穴を空けたり、突撃してくる騎兵を撃破したりする。しかし、今回は味方の隊列が敵を抑えている間に、俺達が高位魔族を仕留めるのが基本戦術だ。

 中位魔族に俺とブリュエットさんは倒せない。高位魔族さえ倒せば後は一方的に殲滅するだけである。


 俺は言葉を続ける。


「槍で遠ざけ、弓と魔術で削り、戦士が止める。この形で魔族の攻撃を凌いで下さい。ご存知かもしれませんが、対魔族戦では動き易いように兵の密度は下げ、空間を空けるのが定石です。その分縦に厚くします。押されている箇所があれば予備を投入して維持して下さい」


「承知した。他には何かありますかな?」


「高位魔族を相手に戦力になりそうな人員はいますか?」


「残念ながら、単独で高位魔族を倒せる程の使い手はおりません。私配下の精鋭チームと最ベテランの冒険者パーティでそれぞれ1体なら相手にはできるかと」


 高位魔族2体を一時的にでも抑えられるなら上々だ。流石はヴェステル。


「では、私とブリュエットさんのサポートにその方々を付けて下さい」


「承知した、そのように指示しておく」


 クジィシャ伯の言葉に頷き、俺は次にガエルさん達に顔を向ける。


「ガエルさん、連絡を無事に伝えてくれてありがとうございます。お陰で魔族を迎え撃てる」


「い、いえ。ただ急いで伝えただけですから」


 ガエルさん達は緊張した様子だ。まぁ、無理もない。


 ブリュエットさんも「良い仕事です。ありがとう」と微笑みかける。


「そうだ、お金は金貨71枚余ってます」


 そう言ってコレットさんが革袋を差し出してくる。それに対して、ブリュエットさんは懐から金貨を取り出すと、コレットさんに渡した。コレットさんは「え、あの」と戸惑いの声を上げる。


「今渡した金貨と合わせて100枚、報酬です。貢献については王家にも書面を上げておきますね」


 ガエルさんは「ひゃひゃくっ」と困惑している。大金にびっくりしているようだが貢献を考えれば後日ヴェステル王家から、別途恩賞がある気がする。


「ガエルさん達はこの後はどうする予定で?」


「は、はい。役に立つか分からないけど、後方の支援に参加しようかと」


 よし、好都合だ。後方支援も大事だが、別の役割がある。


「なら一つ頼んでも良いですか」


「はい。もちろんです」


 俺が内容を説明すると、ガエルさんは「任せて下さい」と大きく頷いた。クジィシャ伯に視線を向けると、彼も「それで構いません」と返す。


 俺はクジィシャ伯に向き直る。


「出撃はいつ頃を予定してらっしゃいますか?」


「2時間後には出たいと思っております」


 魔族の位置からして戦闘開始は5時間後といったところだろう。そのスケジュールなら適度に余裕を持って行動できる。


「分かりました。適切だと思います。私とブリュエットさんは少し休ませて頂いても?」


「もちろんです。クジィシャ邸の部屋もありますが、少し歩く。この広場の隣に宿があります。全室押さえてありますのでそちらをお使い下さい」


 俺は「ありがとうございます」と頭を下げる。短時間の仮眠だが、ベッドで寝られるのは嬉しい。


 俺とブリュエットさんは兵士の案内で宿に行く。部屋に入ると、内装や調度品には目もくれず、ベッドに倒れ込んだ。

 


読んでいただきありがとうございます。(_ _)

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