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63 バルエリ到着



「王女殿下、見えてきました。バルエリです」


 下馬した騎兵が前方を指差す。エリーサが視線を前に向けると、平原の先に城壁が見えた。

 王都の城壁よりは低いが、立派な城塞都市だ。エリーサは「遠かったなぁ」と独り言を呟く。


 セヴラン一行を救助した後の道のりは順調だった。単体のモンスターが時々来たが即撃破し、魔族からの大規模な攻撃はなし。


「先行し、殿下の来訪を伝えて参ります」


 そう言って、騎兵のうち4人が馬に乗って走り出す。

 見晴らしは良く、周囲に敵影なし。ここまで来ればモンスターの襲撃は大丈夫だ。


 城壁に向かい、歩く。目的地が見えていると、気分は軽い。周囲から聞こえる避難民の雑談も、声色が明るい。


「王女殿下、そろそろ前に行った方が良いかもしれません」


 隣を歩くアマンダの言葉にエリーサは頷く。モンスターの襲撃対策で列の真ん中に居たが、入城するときはエリーサが先頭の方がスムーズだろう。


「そうする。アマンダさんも一緒にお願い」


 エリーサを先頭に避難民の列がぞろぞろと歩く。いよいよ城門の近くまで来ると、巨大な木製の門がゆっくりと開いた。


 開いた門の向こうから10人程の兵士と一人の女性が出てくる。女性の年齢は20代の後半ぐらい、エリーサが見たことのある顔だ。誰だっけ? と記憶を探り思い至る。セヴラン・バララットの妻ロマリー・バララットだ。王都で何度か会ったことがある。


「エリーサ王女殿下、ご無沙汰しております」


 ロマリーが恭しく頭を下げると、周囲の兵士達は立膝を付き、頭を下げる。


「ロマリーさん、お久しぶりです。状況は伝わっていると思うのですが」


「はい。先触れに来た者から聞いております。夫の不手際で申し訳ございません。命を救っていただき、感謝の言葉もございません」


「ううん。迎えにきたせいで、ごめんなさい」


「とんでもございません。殿下、よろしければ馬車へ」


 ロマリーが手の平で指す先、門の向こうには金で装飾が施された立派な馬車が止まっていた。


「はい。そうだ、アマンダさんも一緒に」


 エリーサの言葉にアマンダが慌てた声を上げる。


「いえ、こんな立派な馬車、滅相もないです。その、セヴラン様の治療の引き継ぎもあると思いますので」


 確かに無理に乗せても居心地が悪いかもしれないなとエリーサは思った。


「じゃあバララット邸に着いたらまた。ロマリーさん、セヴランさんは荷台に寝かせてあります。治療はこちらのアマンダさんが主にやってくれていました」


「アマンダ殿、夫をありがとうございます」


 頭を下げるロマリーにアマンダは「滅相もございません」と半ば裏返った声で返す。


「では、参りましょう」


 ロマリーに促され、エリーサは馬車に乗り込む。馬車の中はエリーサとロマリーの2人だけだ。


「バララット邸へご案内させていただきます」


 ロマリーがそう言うと馬車はゆっくり走り出す。エリーサの乗った馬車を先頭に、避難民の列が都市バルエリの目抜き通りを進んでいく。


「避難民の受入れは大丈夫ですか?」


「はい。簡易なものですが準備は済んでおります。バララット邸前の広場にテントを張りました。狭いとは思いますが、ギリギリ収容できるかと」


「良かった」


 エリーサは一つ安心して、車窓から外を見る。エリーサ達が進む通りは人払いがされ、道の両脇で人々が所在なさげに立っていた。市民の顔は暗く、不安げだ。


「魔族の話は市民に広がっているのですか?」


 エリーサが聞くとロマリーは「はい」と頷く。


「斥候がモンスターの大群を確認しました。市民には警告を発しております」


 と、そこでエリーサは一番大切なことを思い出す。


「そうだ! トリスタ、居ませんか?」


「えっと、トリスタ……様とおっしゃいますと」


 その答えにエリーサは肩を落とす。まだ来ていないのだ。


「私の侍女のトリスタ・デベルです。バルエリで合流する筈なんです。そっか、まだか」


「デベル家のトリスタ様でしたか。はい、バルエリにいらしたという話はありません」


 エリーサはため息をつき「トリスタ遅いよう」とぼやいた。



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