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61 壊滅したお迎え


 真っ青な顔で腹部から血を流すセヴラン・バララットを見てエリーサはフリーズした。

 何で街道に倒れてるのだろうか、疑問符が脳内を飛び交う。だが、今やるべきことは治療だ。セヴランにもまだ息はある。


 エリーサは頭を振って思考を払うと、息を吸い込み


「手当てします、手伝って!」


と叫んだ。


 前方警戒を担当していた狩人を始め、何人かが駆け寄ってくる。


 エリーサは回復魔術の詠唱を始める。とりあえず『生命再生(一番強い回復)』をセヴランにかける。周囲でも応急処置が始まっていた「とにかく止血だ!」と声が上がり、慌ただしく人々が動き回っている。アマンダも駆けてきて回復魔術を唱える。


 エリーサが魔術を維持することしばし、最高位の回復魔術によりセヴランの出血が止まる。まだ治療は不十分だが他にも重傷者がいる、彼にだけ専念してはいられない。


 エリーサは立ち上がり周囲を確認する。死亡している人と、息のある人に仕分けがされていた。18人のうち生存しているのは半分の9人だ。

 比較的傷が深そうな人の隣に行き、再び『生命再生(リジェネレイト)』を唱える。最近こればかりだな、とエリーサは思った。


 次々と治療していき、生存者全員に回復魔術をかけ終わった。幸い、追加の死者は出さずに済んだ。


「ここは……」


 一息ついたそのとき、小さな声がした。生存者の一人が意識を取り戻したようだ。胸当てを付け、帯剣した青年だ。たぶんバララット家の家臣だろう。エリーサは彼の隣にいき「何があったのですか?」と尋ねた。


「魔族が現れ、遠くから攻撃魔術が雨のように……こちらの魔術師が防壁を作ったが撃ち抜かれ、私も直撃を受けて落馬した。魔族が去っていくのを見たあたりで記憶が途切れている……そうだ! セヴラン様は無事か!?」


「セヴランさんも一命は取り留めていますよ」


「良かった。あなたは……」


 と、そこで青年はエリーサの持つ杖に気付いたようだ。慌てて身を起こそうとして、力が入らずによろめく。


「エリーサ王女殿下でいらっしゃいますね。御無礼を、申し訳ございません」


 慌てた様子の青年に、エリーサは笑顔を作って「はい。エリーサです」と返す。


「それで、どうしてこんな場所に?」


「はい。王女殿下をお迎えに上がる途中だったのです。本当に面目なく、申し訳ございません」


 青年が事情を説明し始める。セヴランが手紙を受け取り、戦力の確保、避難民受入れ準備と慌てて行動を始めたこと。セヴランが自ら王女殿下を迎えに行くと、少数の兵を連れ出立したこと。概要を短く説明してくれる。


「分かりました。とにかくバルエリに向かいましょう」


 エリーサはそうまとめて「移動再開の準備を」と声を張り上げた。


 移動準備が始まる。負傷者は荷台に乗せ、その分の荷物を生き残りの騎馬に括り付ける。

 心苦しいが、死体は道の脇に固めてエリーサが魔術で火葬した。


 エリーサとアマンダは列の真ん中に戻り、避難民の列は再び移動を開始する。


 歩き始めたエリーサの表情は暗い。


「私の手紙が迂闊だったのかな……」


 エリーサは呟く。手紙のせいでセヴランが迎えに来て、大勢死んでしまった。

 もちろん、手紙には迎えに来いなどとは書いていない。

 高位魔族を含む軍勢が侵入したこと、エリーサは高位魔族より強いこと、避難民を護衛してバルエリに向かうこと、これらを手紙には書いた。

 だが冷静に考えれば、迎えを出さない訳にもいかない。一応エリーサは第一王位継承権者だ。


 匿名の手紙では信じて貰えないかもと思い、セヴラン・バララットなら筆跡も知ってるだろうと署名を入れたが、失敗だったかもしれない。


「エリーサ王女殿下、殿下が手紙を書いた時点でこれを予想するのは難しいかと。エリーサ・ルドランの名があったからこそ、防衛の準備も素早く開始された筈です。お気に病む必要はありません」


 エリーサの呟きを聞き留めたアマンダが、そうフォローする。


「うん。でも『迎えに来ないで』って書いておけば……」


「いえ、それでも領主様はいらしたかと」


 アマンダは「一介の領民が言うべきことではありませんが」と前置きした上で言葉を続ける。


「魔族がいることを知った上で、魔族に対抗出来ない少戦力で街道を進んだのは領主様の失態かと。人を出さない訳にはいかなかったとしても、せめて街道から外れて索敵しつつ進むべきです。自分のところに手紙が来るのに時間がかかり、焦っていたのでは?」


「うん。でも、きっと何か良い手もあった気がするなぁ……」


 うーん、うーんと唸りながら、エリーサは進んでいった。



◇◇ ◆ ◇◇ 



 魔族部隊の隊長ガルモスは民家の外壁に寄りかかり、休憩をとっていた。


 辺りに漂うのは濃厚な血の臭い。


 ガルモスらの部隊は街道から外れた位置にある村を襲っていた。

 目的は単純にモンスターの食事だ。人間も、家畜も余すことなく糧にする。ついでに魔族達の食べる穀物類も頂戴している。


 この後、ガルモス達はバルエリ近郊の森に向かう。森から都市バルエリを脅かすことで大魔術師を拘束するというのが、ガルモスの考えだ。


 巨大な魔力があろうとも、森に潜む部隊を殲滅するのは容易ではない。

 大魔術師がバルエリを守る限り、積極的には攻撃せず、森に潜んで戦力を温存する。


 ガルモスの部隊を放置して大魔術師がバルエリを離れれば、当然バルエリの住民は皆殺しになる。その状態を維持することで、足止めとする。


 魔族軍主力が侵攻する予定のレブロからあの超戦力(大魔術師)を遠ざければ、大きな貢献になる。可能な限り長く拘束したい。


 それは一種の籠城戦だ。


 森に籠もるとなれば食料、特にモンスターに食わせる肉は調達は難しい。今のうちに腹を満たす必要があった。


「隊長、モンスターは食い終わりました!」


 部下が走ってきて報告してくれる。


「よし、次に行くぞ! 時間はない。急げ!」


 ガルモスは命じる。大魔術師が来るまで然程の猶予はないだろう。あと一つ村を食べ終わったら森へ向かう。


 魔族部隊は足早に村から離れていく。

 骨まで綺麗に食べ尽くされた村には、無人の家と血痕しか残っていなかった。



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― 新着の感想 ―
[一言] 本人に悪気はないとはいえ貧乏神だよね姫さん。
2022/11/24 08:32 退会済み
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