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4 有力貴族の抗議

 エリーサは自室でお茶を飲んでいた。


 部屋には彼女の他に侍女兼護衛のトリスタがいた。真っ直ぐな黒髪に、同じく黒の瞳、やや高い身長にささやかな胸、知的な雰囲気を纏った美しい女性だ。


 エリーサがトリスタの淹れてくれたハーブティーを飲み終わりカップを置いたとき、部屋の扉がノックされた。部屋の外から「ソニアです」と声がする。

 エリーサが「はーい。入って~」と返すと扉が開き、侍女ソニアが入ってくる。

 緩くウェーブのかかった栗色の髪に豊満な胸、ふわふわした印象の女性だ。


「エリーサ様、間もなくバララット伯との会談の時間です。ご移動願います」


 ソニアの言葉にエリーサは「わかった」と元気に頷く。

 バララット伯爵はフィーナ王国の有力貴族の一人で、ホバート侯爵派と呼ばれる派閥に属している。普段は貴族と会うときには大臣が同席していたが、大臣ヘルマンは昨日から病気で寝込んでいる。


「参りましょう姫様」


 エリーサは侍女2人と共に部屋を出て歩き出す。王宮内をしばらく進み、バララット伯の待つ部屋に辿り着く。ソニアが扉を開き、中へと入る。

 いつも温和な笑顔のバララット伯が何だか難しそうな顔で座っていた。少し怖いな、とエリーサは思った。


 バララット伯はサッと立ち上がり深く頭を下げた。


「お目通り頂きありがとうございます。エリーサ王女殿下」


「こんにちは。バララット伯爵」


 エリーサが椅子に座ると、バララット伯も「失礼します」と言って席に着いた。


「エリーサ殿下、本日はお尋ねしたいことがございます。レブロ辺境伯ドクラス・カッセル殿の国外追放についてです」


 バララット伯はやはり目つきが怖い。


「は、はい。何でしょうか」


「何故あのようなことをなされたのですか?」


 声色には怒りが混じっている。エリーサは思いっきり狼狽えた。


「えっ、あの、不正があったって言うから、その……」


「その、ではありません! レブロ辺境伯家は北方魔族領域との境を守る特別な一族です。それを国外追放など、どれ程の影響が出るか分かりませんぞ!」


「えっ、あの、その、証拠があるって大臣が……」


「ええ、内容は把握しております。あんなものでっち上げられたとしか考えられません! レブロ辺境伯家の財政状況は健全です。金貨1000枚などという半端な額を横領してどうすると言うのですか。それに国家運営の重要事項にかかる決定は枢密会議にかける習わしです。他の貴族ならともかくレブロ辺境伯への処罰となれば明らかに重要事項。なぜ専決を!」


「ご、ごめんなさい。でも、でも……」


 エリーサの頭の中は困惑していた。何を言われているのかイマイチよく分からない。でも怒られている。きっと悪いことをしてしまったのだ。


「良いですか、エリーサ王女殿下。ドグラス殿の有している『統合魔術』は極めて強力な攻撃手段です。他国との戦争となれば一撃で城塞を破壊できる。その事実が抑止力となり平和に繋がります。そして何より魔族の運用する隷化龍種(テイムドドラゴン)などの脅威への対抗手段だったのです!」


 確かに何かそんなことを裁判でドグラスさんが言っていたな、とエリーサは思い出した。


「だ、駄目だった?」


「そんな程度の話ではありません! 対魔族防衛戦略が瓦解します!」


 半ば腰を浮かせ、前のめりになるバララット伯。エリーサの後ろで控えていたソニアが咳払いをした。バララット伯はハッとした様子で椅子に座り直し、一拍置いて言葉を続ける。


「何にせよ、ドグラス殿が国外追放された影響は重大です。今後様々に波及していくと思われます。十分ご注意を。周辺諸国の動きにも警戒が必要です」


 バララット伯はもう一度深く頭を下げる。


 エリーサはちょっと目が潤んでいる。


 半べそだった。


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