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2 エリーサのお仕事

 ドグラス・カッセルの裁判が行われる10日程前、王女エリーサは執務室で大臣の話を聞いていた。


「と、言うことで残念ながらレブロ辺境伯ドグラス・カッセルの不正が発覚しました。証拠も揃っております」


「で、でも、ドグラスさん良い人だよ? 優しい感じの人だよ?」


 エリーサは不安げに言う。有力貴族の一人であるカッセル家のドグラスとは彼が家を継ぐ前から面識がある。小さい頃には遊んで貰ったこともあった。エリーサにとってはたまに会う優しいお兄さんぐらいの感覚だ。


「確かに信じ難い話です。しかし、間違いないのです。多額の横領……国内には不正に対して厳しい意見を持つ貴族も多いですからなぁ。内容的に、場合によっては斬首も……」


「ざ、斬首! だめ! だめだよ。そんなの怖いよ?」


 顔を青くするエリーサに大臣ヘルマン・フラッケは大きく二度頷き、神妙な顔で返す。


「王女殿下はお優しい。そうですな、厳罰を求める強硬な声が上がる前に裁判をしてしまえば良いでしょう。横やりが入る前に国外追放すれば、もう後から手出しはできません。斬首を主張する者が現れても、既にドグラス殿は国外という寸法です」


 大臣の言葉に少し表情を柔らかくするエリーサ。しかしまだ少し不安げだ。


「でも、国外追放ってドグラスさん大丈夫かな?」


「心配いりません。ドグラス殿は一流の魔術師です。犯罪者の国外追放の場合、国境地帯の荒野に置き去りとなりますが、彼なら何ら危険はないでしょう。散歩でもするように隣国に辿り着く筈です。高位の回復魔術も使えますから、生活に困ることもあり得ません」


「わかった。そうしよう。大臣、準備をお願いします」


 ペコリ、とエリーサは大臣に頭を下げる。


「ははは。エリーサ様、家臣である私に無闇に頭を下げるものではありませんぞ。しかし、承りました。万事(つつが)なく」


 大臣は柔和な笑顔でそう言った。


「うん。じゃあお仕事に戻るね」


 エリーサは机に向かう。少女には不釣り合いな、大きくて立派な机だ。そこに二山に分かれて書類が積まれている。

 フィーナ王国の現国王であるヴィルホ・ルドランは病に伏せ、その子供はエリーサ一人だけ。王妃も10年前に死亡しており、まともな王族は彼女しかいない。


 エリーサは書類を自分の前に置き、印に朱肉を付け、所定位置を確認して丁寧に押印していく。


 曲がらないように、擦れないように、ぺったんぺったん。


 大臣は笑顔のまま静かに部屋から出ていった。


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