100 ドグラスは進む
俺、ドグラス・カッセルは馬を駆り街道を南に進んでいた。目的は当然、リリヤ達レブロ辺境伯軍主力及び国王軍との合流だ。共に進むメンバーはヴェステル王国別働隊の面々から冒険者と負傷者を切り離した200名。俺が先頭を切り、すぐ後ろにはブリュエットさんとユリアン王子がいる。
ニコラ・メルカらレブロ辺境伯家の魔術師は居ない。当初は当然彼らも含めて南へ向かうつもりだった。しかし、都市プガルト市街地にモンスターと魔族が潜んでいることが判明したのだ、魔族も厄介なことをするものである。
市街地に潜伏する敵の全容は全く不明で、放置するのは危険過ぎた。なので、ニコラ達には市街地の掃討作戦を任せ、今のメンバーで出撃したのだった。
街道の左右は森になっていて、木々の香りが強い。
道が左に曲がっている箇所に差し掛かり、俺は僅かに馬の速度を下げる。
道を曲がった先には、尖った杭がみっちりと並んでいた。
「全員停止!」
叫んで、馬を止める。ギリギリ、杭に突っ込まずに済んだ。
上の尖った木の杭だ。高さは子供の背丈程で、微妙に低い。嫌らしい高さだ。曲がり角の手前からは下草に遮られて発見し難く、それでいて馬の腹には十分に刺さる。
全員の停止したとき、森から多数の狼型のモンスターが飛び出してきた。俺は魔力弾を大量に構築し、ばら撒く。ブリュエットさんや他の宮廷魔術師も同様に攻撃を放っている。
無数の魔力弾が空間を薙ぎ、撃ち抜かれたモンスターが地面に転がる。初撃でほぼ全滅、僅かな生き残りは近衛が斬り捨てる。
「杭を処理します。周辺警戒を!」
俺はそう叫んで魔力刃を構築、次々と杭を根本から切っていく。本当は抜いた方が良いがそんな時間はかけられない。ブリュエットさんも加わって、スパスパ切っていく。
と、森から音がした。目をやると、木の上から何かが飛んでくる。正体はすぐに分かった。オウル・ビーという蜂型モンスターの群れだ。大きさは大人の握り拳程だが、数は数百はいる。
元々この辺りの森に生息するモンスターなので、魔族が現地調達したのだろう。大して強くはないが攻撃が当て難く、面倒なモンスターだ。
「敵第二波! 火炎系で落として下さい!」
俺はそう叫んで、炸裂型の火炎弾を構築する。火事は起こしたくない、森の外側で炸裂させ、炎によって迎撃する。
羽を焼かれたオウル・ビーが地面にポトポト落ちる。たが、まだまだいる。
次々と飛んでくる蜂型モンスターを延々と叩き続けて、ようやく追加が出て来なくなった。
杭の処理を再開し、程なく道が通れるようになる。
とはいえ、モンスターがタイミング良く襲ってきたということは、近くに操る魔族がいる筈だ。まだその魔族を倒していない。今までのパターンからすれば、馬に乗ったぐらいで第三波が来る。
「よし、警戒しつつ、移動しましょう」
敵が動き始めを狙うなら、動いてしまった方が森に入って索敵するより早い。
馬に乗り、進み始める。
と、予想通り、さっき蜂型が出たのとは反対側の森からモンスターが飛び出して来た。ハイオーガ3体にゴブリンが沢山いる。魔族は見当たらない。
こちらは爆裂型の魔力弾を構築済みだ。一斉に放ち、轟音と共にモンスターが吹き飛ぶ。
更に反対側から、蛙型のモンスターが飛び出す。毒液を吐く種類だ。
「風!」
端的に叫んで瞬時に風魔術を構築、放つ。ブリュエットさんを始め宮廷魔術師の面々は適確に反応し、同様に風魔術を放っている。
モンスターが青紫の液を吐き出し、それを暴風が押し返す。
蛙型モンスターは自分の毒液にまみれながら、転がっていく。そこに更に追撃の魔力弾が降り注ぐ。
「このまま進みます!」
魔族は潜んでいるだろうが、振り切ればいい。
すぐに馬をギャロップへ移行し、走り去る。
「敵の妨害が厚いな……」
後からユリアン王子の声。
「ええ。地味な嫌がらせですが、どうしても足は止まる」
プガルトを出発して以降、この手の妨害は先程で10回目だ。杭だけでモンスターは襲ってこないケースや落とし穴があるケースなど、色々な妨害がある。
「これ、もう馬捨てて道から外れた方が早いかもしれませんね」
少し疲れた声でブリュエットさん。魔族は街道に障害物を設置したり、待ち伏せ要員を置いたりして邪魔をしている。道から外れて進めば避けられるだろう。確かに、その手もある。頭にレブロの地図を思い浮かべ、考える。
「もう暫くは馬で進みましょう。今後も妨害が続くなら途中の村で馬を捨てます」
ここで街道を外れると目印になるもののない森の中を延々歩く羽目になる。俺にレブロの土地勘があると言っても、この辺りは家の近所ではないのだ、遭難しかねない。ルビエムという村まで行けば、小川に沿って第二要塞群方向に迷わず進める。
と、突然衝撃を受け馬が傾いた。そのまま倒れ、俺は投げ出される。咄嗟に防壁を作って身を守り、地面をゴロゴロと転がる。
何が起きたかはすぐに分かった。落とし穴だ。馬の足が1本落ちる程度の小さい穴が木の葉で隠してあったようだ。
「ドグラスさん! 大丈夫ですか!?」
「ええ。俺は大丈夫ですが……馬の足は折れましたね。回復しないと」
馬は倒れ悲痛な声で鳴いている。また時間を稼がれた。
出し惜しんでも仕方ないので一番強いので行こう。俺は生命再生の詠唱を始めた。
読んでいただきありがとうございます。
そして100話か……