交差点で嗤う黒猫
菫は通学途中にある交差点が、青に変わるのを待っていた。隣には通勤途中のサラリーマンも多く、皆が早く赤から青へと信号が変わるのを待っている。
ただここの交差点は、腹立たしい程時間が掛かるので有名な交差点。周囲の人々は時間を気にしていて、苛立っているのが分かる。
当然菫も例外じゃない。
(ああ、早く変わってくれないかなぁ。遅刻しちゃうよ)
そんなふうに焦りながら思っていると、一匹の黒猫が交差点へと走って来た。
しかし誰もそれに気付かないのか、猫は交差点の中央へと進む。だが信号は未だ変わらず、車が走り続けている。そして大型トラックが猛スピードで黒猫を轢き殺そうとしたので、
「危ない!」
菫は反射的に身体が動き走り出していた。そのまま猫を助けるため交差点に突っ込むと、黒猫は驚き安全な場所へと逃げて行った。
しかし菫の身体に意識が飛ぶほどの衝撃が全身を襲った。辛うじて目を開けると、身体が変な方に向いていて、まるで壊れた人形のようだなと、途切れる意識の中で思う。
最後に猫の鳴き声が聞こえた。
(猫……)
そう考えた瞬間、菫はさっきまでいた交差点に立っていた。
「さっき車に轢かれたはずなのに」
自分の身体に怪我はない。そしてさっきの黒猫もいないし、飛び込んで来る気配もない。スマホで時間を確認すると、
「時間が全然経ってない……」
菫が呆然としている間に、例の大型トラックが猛スピードでガードレールに突っ込んで、衝突事故を起こす。周囲が騒然とする中で菫の頭は混乱していた。
先程体験した事は何だったのか。予知なのか。しかし要となる猫がいない今は、自分が交差点に突っ込む事もないはず。けどあの妙にリアルな痛みが、気味悪い程に菫の奥底に残っている。
「とにかくもう青だし学校に行こう。あの車は警察が処理するんだし」
そう思い交差点を歩き出した矢先、別の車に菫は轢かれた。
「――は!?」
だが気付けばまた同じ交差点前に立っていた。
「私また車に轢かれて……」
恐怖で足が竦む。またループするのかもと。そんな彼女に、気付けばあの黒猫が近づいて来て言ってきたのだ。
「なぁ菫。もう車に轢かれて転生ループごっこやめな、ダサい」
「ええーっ! いいじゃん、今流行ってるんだよ。私は異世界転生するの!」
「いや、転生って。はまり過ぎだろ。この空間は魔女の君が全て作り出した癖に。やれやれ……」
「でも魔法少女は廃れたじゃん!」
それを聞いて黒猫は嘲笑したのだった。