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おやすみなさい

作者: 三枝 透華

 暗い暗い闇の中に私はひとりぼっちで座っていました。



/I wish your good night. /

 私は深い深い森の入り口に立っていました。

 あとは、ここから森の最深部まで飛び降りるだけです。

 「  」が何かを言いました。

「もう、大丈夫だよ」

 どうしてか「  」の姿が見えないからこそ明白でした。真実を理解しているとか「  」が目を逸らしたことまで断言できるのです。

「先生?」

 私の声と意識はここで途切れました。


/I’m sleeping. /

 目が覚めたとき私は大きくて小さな世界に閉じ込められていた。私よりも遥かに大きな葉っぱが生茂り、縁が赤みがかった私の腰の2、3倍はあろう太さの葉脈が葉の裏側には張り巡らされている。どこまでもそんな景色が続いているように思えて、その実私はランタンのような木組みの虫籠(ここでは「瓶」と言われている)の中にいた。

 ここで瓶の中にいると分かったのは私がその瓶を持っていてその中に私がいたからだった。ここは瓶の中より草が生い茂っているように思うがきっと中も外も同じなのだろう。

 この世界で目が覚めてからずっとオブラートより薄い違和感が私の心に貼りついていた。何か変だと思い、私は自分の容姿を客観的に見ていく。

 ブラウンの蔦状のサンダル、すらりと細い白く長い脚、黒くふんわりとしたシルエットの服、狐のような色素の薄いミディアムヘア、髪の隙間から動きに合わせて時々見える小さくて形の良い耳、そして髪と同じ毛色の狐か猫のようなもう一対の耳、顔のパーツは控えめで主張しないのによく整っていた。

 自分の姿なのに可愛いなと思った。まるで目が覚めた時に生まれ変わっていたみたいな気もしたし、ずっと前からこうだった気もした。まるでなかなか目の覚めない夢の中にいるような気分だった。

 ピンッと立った毛並みの良い耳も少し気になったが、私はこれがこの世界では当たり前のことに思えて、意識を別のところに移した。

 ふと記憶の中におおよそ会ったことのない白衣姿の細身の男の姿が浮かんだ。顔だけが、何故かぼやけてのっぺらぼうになっている。黒縁の眼鏡をかけていた気がする。それなのに、笑顔が素敵な人だったなと思い出す。

 頭にズキッとした痛みがして、その場に屈み込む。痛みのするところを手で押さえると腫れている気がした。たんこぶだろうか。絹糸の手触りがする髪の毛が指に絡まる。

 なんでも男に恋したことが原因らしい。

 なんでかは知らないが、そう知っていた。以前誰かに教えてもらったのかもしれない。

 私は頭を治してもらいに、記憶の中にいたもう一人の会ったことのない女性に会いにいくことにしました。

 いいえ、私はどこかできっと彼女に出会っているはずです。白くてふわっと空気を纏ったチュニックワンピースを着た人です。服は私と色違いでしょうか。とても透き通って芯のある声が印象的でした。きっと数多くの人がこの人の声を聴き、魅了され理由もわからず希望と自信が泉のように心の内から湧き出たことでしょうか。

 ほら、私はこんなにも彼女の姿形を憶えているのです。

 私は彼女を「先生」と呼んでいました。

 しばらく歩いたのか、一瞬で場所が変わったのか、私は「先生」がいるはずの場所へ来ていた。背丈の2、3倍以上もある白詰草が辺りを覆っていた。見上げる感覚が東京タワーを彷彿とさせた。

 そうするとみるみる内に白詰草は背丈を伸ばしていき空を覆ってしまおうとしました。澄んだ青空がみるみると深緑が侵食していこうとします。私の心も同じように不安が少しずつ侵食していこうとしてました。

「何しに来たの?」

 「先生」の声でした。

 意識を「先生」に向けると気がつけば辺りは草原とそれを囲むように若草色の大きな白詰草が生えていました。青空から注ぐ光が空気中の何かに反射してキラキラと輝いていました。

 顔を正面に戻すと既に「先生」はそこにいました。服装はあるはずのない記憶と同じでした。

 「先生」は最後の数段を階段で降りてくるように脚を弾ませて4段目、3段目、2段目、1段目、と降りてきました。

 少し浮いている「先生」は私と目が合うと優しくにこっと微笑みました。

「どうしたの?」

「これを見てほしい」

 私は瓶の赤い蓋を開けて「先生」に見せます。不思議なことにこの瞬間初めて瓶の蓋は赤くなっているし、さっきまでは木組みでなかった蓋なんてものがありました。しかしそれが当たり前だと思いました。ずっと前からきっと瓶には赤い蓋があったのでしょう。

 先生はふんふんと興味ありげに瓶の中を見ました。次に私の頭も見ておきたいと言うので、私はその場でかがみ込みました。

 外から見ると私は丸まった姿勢がなんか可愛いなと思いました。


/I wish my good morning. /

 この時の私をみる視点はこの世界を瓶の中としてみる外の私なのかしら。なんて考えていると、私は深い深い森の出口に立っていました。

 あとは、ここから空の頂上まで飛んでいくだけです。

 「先生」が何かを言いました。

「  、     」

 どうしてか「先生」の声が聞こえているのに空白でした。虚構を認識できないとか「先生」が口を動かしただけでは断じてないのです。

「  ?」


 私は深い深い森の入り口に座ってました。

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