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81.女子高生(おっさん)の聴く音楽


「~♪」


 登校時、駅から高校までの道のりを普段よりもテンションを上げて歩く。

 もうすぐ誕生日ということで普段中々会うことのない出版社の人が最新型のmp3プレイヤーをプレゼントで贈ってくれたのだ。2000年初頭の音楽プレイヤーといえばMDからデジタルにちょうど移行し始めた時代で、未だにデジタルのプレイヤーはまだあまり広まっていない。ガラケーからスマホに移行した時のように、未だ誰も使っていない物を手にするのを躊躇(ためら)うのは誰しも深層心理として持っているようだ。

 無論、2020年代まで生きてきたおっさんはそんな繊細な心理は持ち合わせてはいないのだが……未来を知るおっさんにとって軽量化されてない音楽プレイヤーを持ち歩くのは面倒すぎて避けていた。

 だが、無料で貰えたし2004年ともなるとポケットに入るサイズのプレイヤーなので久しぶりに音楽を聴いてみようと──前世から好きだったアーティストの音源をPCから取り入れて現在視聴中というわけだ。


「~♪」


 音楽の力とは如何に素晴らしいかを久々に実感する、景色も匂いも全てがいつもより輝いている。それが好きなアーティストの曲なら尚更だ、無論、この時代の最新曲もおっさんにとっては懐かしいだけで目新しさは無いのだが……そんな些事はどうでも良いくらい気分が良い。


 人は中学生時期に出会った音楽ジャンルを一生好む傾向にある──という。それを裏付けるように……前世の中学生時代に出会い、中年になってもずっと聴いていたバンドの曲でプレイヤーのデータは埋まっている。

 おっさんの思春期……1990年代は争乱のバンド群雄割拠時代で数多くのバンドが音楽チャートを賑わせていた。その中でもそのバンドブームを牽引してきたと言っても過言じゃないのが、おっさんの好きな【Aoaqur(アオアクア)】〈愛称【アオク】〉というV-tuberみたいな名前だがれっきとした四人組バンド。

 ハワイの言葉で『虹』を意味しているというこのバンド名の由来の通り……多彩な芸術性の高い様々な楽曲をリリースしてきた。

 このバンドの良さを語るには、学校まで数分の道のりでは時間が足らないので曲に集中する。一つだけ特色を語るのならば……バンド唯一無二のボーカル【iDO(イド)】様だ。男性でありながらまるで女性のような容姿で『現世の妖精(エルフ)』とまで言わしめ、男性ではありえないハイトーンボイスで同性までもを魅了している。おっさんもその一人で、CDの売上枚数すら記憶しているいちファンだ。


(以前の学生時代には高すぎて決して出せなかった歌声……けど、今は違う。女の子だからイド様のキーも出せるはず)


 そして、心はおっさんの今。道ばたで歌うのを(はば)む羞恥心などありはしない。

 条件は揃っていた──この澄みきった青空の下で、もうおっさんを止めるものなど存在しない。一度やってみたかった、自然に囲まれた中で【アオク】の曲を思い切り唄うのを。


 俺の思いは今、歌に乗せて解放された。

 通学路を歌いながら登校してみた、これもまた青春。


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 ・おっさんは特有スキル『道端熱唱(おっさんのうた)』を披露した!

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 すれ違うおっちゃんやおばちゃん、ご老人達、登校する同校の生徒達がこちらを注視し始めた。

 ごめんなさい、聞き苦しいかもだけど今日だけは許してくださいと心で謝罪しながらも快感に包まれた。


「てっ……天女さまじゃあ~!」

「「ありがたやありがたや……」」

「セイレーン様……」


 遠くから様々な感謝や祈りの言葉が聞こえる、なにこれ怖っ、と少し恐怖を感じた。


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・おっさんはスキル『道端熱唱(おっさんのうた)』が『女神の唄』に進化した事に気づいていない!

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 その後──何故かおっさんが歌った【アオク】のCD売上が前世より爆増したことはおっさんしか知らない。

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