番外編おまけ.女子高生(おっさん)の生態
最近、タイムリープしてきた事に慣れてきたからか……前世の癖が身体に戻りつつあった。身体は女子高生になったことで活性化し、体力も充分にあり、びっくりするくらい健康体だ。
しかし、心──魂がおっさんだと何故か身体が少しずつ変異していく。ご都合主義のように、この細腕には成人男性と遜色ない腕力や握力が宿っているのも……そんな『魂』に身体が引っ張られている結果なのかもしれない。
今日は、若い時にはなかったのに中年男性になったとたんに必ず起こる……そんなおっさんの生態を女子高生の身体のまま解説しようと思う。
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〈波澄家 リビング〉
夕食を終えた俺は『よっこらしょういち』という、昭和生まれの慣用句となった……自然に口から出るかけ声と共に椅子から立ち上がる。
今日はナイターがやっていた筈、野球中継はおっさんになってから嵌まった趣味であるため……この時代のプロリーグ戦は全く知らない。つまりネタバレなしで新鮮に楽しめるので観戦が日課の一つになった。できればワンカップ片手に餌をつまみ、煙草を吸いたいところだが……女子高生なので柿ピーだけで我慢してテレビをつける。
地元が千葉ということで、千葉の球団を贔屓しているおっさんは千葉ロ○テマリーンズが負けそうになると白熱して声を荒げた。
「おいおい、冗談はよし子ちゃんだよ。そうは桑名の焼き蛤……そこだっ! やったー! 恐れ入谷の鬼神母神、お見逸れしました」
この時代の若者ですら知らないであろう、昔ながらのオヤジギャグが昭和生まれには簡単に口から漏れる。先ほどもそうだが、別に誰に受けようとかそんな狙いは毛頭無い。ただ、語呂が良いので自動的に口をついて出てしまうのである。
そして、おっさんの夜は早い。
体は疲れ知らずだが、精神力の消耗は異様である。たとえ嫌な事など何もなく、一日を快適に過ごしても疲れてしまうのだ。毎日8時間は寝ないとしんどい(※個人差があります)
「ふわぁぁあぁぁあぁぁぁっ……さ、寝るとするかね……歯ブラシ歯ブラシ……」
エチケットも糞もない、咆哮のようなあくびをして洗面所に向かう。まさか自分がこうなるなんて若い時は思いもしなかった。
むしろ、昔は中年には嫌悪感すら覚えたものだ。人前で平気で屁をしたり、なんか唸ったり、道端で大声で恥ずかしげもなく歌ったりと……生きてるだけで五月蝿いおっさんには絶対になるまいと。
だが、中年になった今なら理解る。
あれは排泄と同じように自然現象からなるものだ。更にはこれをやることで中年の抑圧されたストレスをほんの少し解消できるいわゆるストレス発散法なのだ、と(※個人差があります)。
「おぇぇ」
歯ブラシもそう──昔は父親がこれをやると(汚いなぁ)なんて思ったかもしれないが、中年になると気道が狭くなるとかなんとかで歯を磨くと勝手に嘔吐いてしまうものなのだ。だから大目にみてやってほしい。
ガタンッ……パタパタパタ……
「?」
なんか洗面所の外で誰かが尻餅をついて逃げたような音がしたら大丈夫だろうか?
それより明日も学校だ、早いこと寝るとしよう。