表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

83/270

72.女子高生(おっさん)と素晴らしき世界……からの──


〈午後1時 市内〉


 昼下がり──雲一つない青空の下、遠景には田舎特有に田園地帯と鉄塔、野焼きの煙、春真っ只中を告げる緑緑とした山々……忙しい日常を忘れさせるのんびりとした風景を眺め、俺は駅から家までの帰路を歩く。

 テスト期間中なので午前中で学校終わり、気分により電車通学といつもとは違う道を選択したのはどうやら正解だったようで、風景を楽しみながら歩いていると心が澄み渡っていくのを身体でも感じる。騒がしい毎日から隔離されたような静かな一時はおっさんの疲れを癒していく。

 

(こんなにもゆっくり地元を歩くのは……中学生以来かな……二十歳で上京して十数年……たまに帰省はしてたけど散歩なんてしなかったからなぁ……こんなにも清々しい気持ちになるのは女子高生の今が充実してるおかげかな?)


 やがて市内を横断する川沿いに伸びるサイクリングロードにたどり着く。まるで共に海まで続くかと錯覚させられるこの道は、住宅地と緑一色の地を同時に眺めることができて散歩にはもってこいだ。

 平日の昼間であるためにちらほらとすれ違うのは、健康維持の為に歩いていると思われる高齢の方やジョギングに精を出す中年達。それに下校時刻なのかランドセルを背負いはしゃぐ子供たちの声──春風と草花が奏でる自然の音楽に味わいを添えている。


(のどか……この川が現世と夢の境目みたいで……夢見心地になってくる……)


 最高の居心地に浸ったせいか、普段では出てこないような高尚な表現が次々と頭に浮かぶ。これは小説の執筆作業にはもってこいだと、川へり草原の丘に腰を降ろした。

 水の流れる音、遠く聞こえる車の排気音、鳥の(さえ)ずり、学校のチャイム、花舞いそよ風……全てが今この時に感じた想いを書き留めるためにお膳立てされたものかと錯覚してしまいそうになる。

 

(なんて爽快……おっさんになってからは低俗な考えしか浮かばなくなってしまったというのに……風流というものがここまで自身を気高くしてくれるとは……今日は(よこしま)な気持ちは封印して綺麗な世界を感じよう)


 どこまでも続く青い空、暖かい日の光、なだらかな清流……全身でそれらを感じていると──ふと、橋の下に何かがいるのが目についた。

 いたのはランドセルを背負った小学生達だ。


(ふふ、可愛い坊や達だこと)


 普段のおっさんは小学生男子など気にも留めないところだが、今の自分は自然と一体化した高位の存在。穏やかな心で見守ることにした……が、様子がおかしいことに気付く。

 小学生男子達はなにかを囲むように輪になり、しゃがんだままに動かない。俺からはその『なにか』が見えないが……聡明なおっさんは直感する。


(あ! あれ絶対エロ本読んでる! エロ本だエロ本! あそこエロ本スポットなんだよなー! 懐かしい! おっさんも混ぜてもらおう!)


 エロ本には勝てなかったおっさんは、(おごそ)かな空気感もなにもかもを忘れてエロガキ達に特攻した。


                  〈続く〉

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ