56.女子高生(おっさん)とイケメン御曹司
「もう一度言う、俺と結婚してくれ【波澄アシュナ】」
俺がドン引きしていると、転校生──【鳳凰天馬】は臆すること無く同じ発言をする。
周囲は校庭に犬が侵入してきたのを見つけた小学生のようにキャーキャーと大騒ぎだ。
「ア……アシュナっち、どーすんのっ!? 玉の輿だよ玉の輿っ!」
ミクミクが自分の事のように嬉しそうにはしゃぎ、肩に手を置いてゆすってくる。ギャル特有に胸元まで開いたワイシャツからおっぱいの谷間を見せつけてくるが……今はそれどころではなかった。
鳳凰とは(この世界線では)完全に初対面。にも関わらずプロポーズ。
普通ならもっとゆっくりと人となりを知り、じっくりと交友を深め、付き合って愛を育んでから3年目くらいでようやく至る境地を……何段階行程をスッ飛ばしているのか昭和世代のおっさんの俺には理解不能だった。若者の性の乱れなんてレベルじゃない。
どーするもこーするも問われるまでもない、当然お断りだが……クラス中が俺の発言を待ちわびて注目している。こうなるとおっさんは弱かった。
断固拒否する対応はできず、誤魔化す様に愛想笑いで答える。
「いや……あのー……初対面ですし……あはは」
「初対面ではない、俺はめらぎを観察するために一月ほど学園に潜んでいた。その際にキミの行動も監視している。勿論、着替え等は覗いていないから安心してくれていい」
何も安心できないし、結局俺にとっては初対面じゃねぇかこの野郎と心の中で突っ込んだ。
鳳凰はそんな俺にもお構い無く、ツカツカとこちらへ歩み寄ってきた。そして、目の前に立って両手を机に置き──俺に目線を合わせた。
「そのうえで、君しかいないと俺にはわかった。何度でも言う──俺と生涯を共にしてくれ」
男のくせにいい匂いを漂わせ、きれいな蒼みがかった瞳を一切揺らす事なく……鳳凰は真っ直ぐに俺を見た。決して冗談で言っているわけではないのが、それで伝わってきた。確かにこんなにもイケメンでそれでいて金持ちなんだから女性ならばこれでトゥンクするに違いないだろう、こんな真剣に真っ直ぐな眼で見つめられた日には即オチ必死だ。
だが、おっさんに通じるわけがない。
むしろ、自分になかったものを全て持っていてvery easyな人生を送ってきた事を考えるとだんだん腹が立ってきた。この技でどんな女の子でも堕とせるなんてチートすぎるし羨ましすぎる。
そう思って俺は、睨みながら諭すように言った。
「お断りします、誰でも自分に靡くなんて勘違いしない方がいいよ。私はあなたに少しの興味ももてないから」
「……………ふ、そんな風には思ってはいない。だが、予想通りの答えだ──波澄アシュナ。俺は決して諦めない……必ずキミと結婚してみせる」
こうして、『絶対に男とは結婚したくないおっさん女子高生』と『絶対におっさんと結婚したいイケメン御曹司』の永きに渡る戦いが始まった。