53.女子高生(おっさん)の小説家デビュー Ⅱ-③
〈英傑出版社 7F【月刊少年少女『座して待つ』】編集部フロアー〉
オフィスで様々な書類を渡されたその後、編集長とヤコウさんに俺のデビューする掲載誌のフロアーを案内された。
編集部は華やかなイメージとは程遠く、乱雑としており喧騒に包まれていた。テレビでよく見るテレビ局のオフィスみたいな感じだ。ワンフロアーの面積は広いのにあちこちに物が置かれて人一人通る隙間を作るのがやっとといた様相だ。
編集部では慌ただしそうに様々な人が右往左往していた、だが、俺がオフィスに現れるやいなや全員がガン見してきた。
「あの……なんか凄い見られてるんですけど……」
「あら、ごめんなさいねぇ~。アシュナちゃんが凄く可愛いから見蕩れちゃってるのよ……はい、みんな注目!! 今度、うちでデビューする波澄先生よ! 現役女子高生だからって手なんか出そうもんなら……わかってるわね?」
おネエ編集長が睨みを効かせるも、お構い無しに男たちが集ってくる。
「担当決まったんですかっ!? まだなら俺にっ……!」
「お前は三人抱えてんだろ! 俺がっ……!」
「残念ね、波澄先生のご指名で担当はヤコウちゃんよ。彼が見つけてきたんだから当然ね」
「えー!! ヤコウさんいいなぁ~!」
「どうやってこんな美少女見つけたんスか!?」
余計に騒がしくなった場を一括するように、更に大きな声で編集長が言った。
「波澄先生はいずれうちの大看板になる器よ! 広報会議の予定を入れておきなさい、全てのコネクションをフルに使って売り出しにかかるわよ! まずはーー」
編集長は誰もが聞いた事のあるような広告代理店の名を次々に挙げ始める、あり得ないほどの過度な期待を寄せられ呆気にとられる他なかった。
「アシュナちゃん、あなたは充分に輝いてはいるけど……その輝きは更に精錬できるわ。これはアタシの行き付けのサロンとブティック……無料で利用できるように手配しておくから行ってみて。あとカリスマヘアメイクアーティストとファッションコーディネーターを専属でつけるわね。それにーー」
「ちょちょちょっ……ま、待って下さい。えっとーー」
「勿論、アナタは普通の学校生活を送って頂戴。学生は学業優先、プロモーションは全てこちらでやるわ。いつも通り学校へ行って、小説を書いて、寝るだけでいいの。安心なさい」
膨らむ期待にプレッシャーを感じた俺を諭すように、編集長はいい顔で肩に手を置いた。そういう事じゃないんだけど……でも、いつもと普通の生活を送るだけでいいのだったら確かにこれ以上素晴らしいことはない。後ろめたさは感じるけど……
「心配しなくていいんですよ、波澄先生はまだ学生でか弱い女性だ。これは大人である僕らの仕事です、安心して日常を楽しんでください」
それを察したのかヤコウさんもフォローしてくれた。
任せてもいいかもしれないーーまだ初日だしわからないけど凄く良い人たちだし……編集長も変わってるけど、『異世界転生』ブームを言い当てたり先見の明がある。
これからどうなるかはわからないけど、周囲にいい人たちがいれば全部うまくいく気がする。
そんな当てもない信頼感とその居心地の良さに身を委ね信用する不確かさはおっさんの人生には存在しなかったもので、温かさに戸惑った。
「ところでアシュナちゃんがテレビ出演を果たした時にアタシも一緒に出たいんだけど……いいかしら?」
「え? 別にいいですけど……」
「これからおネエブームも来ると思うのよね、その時に披露しようと思ってる渾身の一発ギャグ……見てもらえるかしら」
編集長はそう言うと、腕を前に出して人差し指を立て、それを振った。
「『とんでけ~~↑↑↑』」
「絶対流行ります、けど、やらないで下さい」
ホント、凄いなこの人。
【第2節 女子高生の日常といともたやすく行われるデビュー〈完〉】




