44.女子高生(おっさん)とお嬢様の秋葉原巡り
〈秋葉原〉
休日、お嬢様と一緒に秋葉原に来た。
「……こんなにも長時間、電車に乗ったのは初めてですわ……」
「すみません、疲れましたか……?」
「逆ですわ、衆目を集めながら貴女と甘い一時に浸るのがこれほどまでに甘美なものだとは……」
移動手段だった電車の中でめらぎは人目も憚らずに俺とイチャイチャしていた。当然、美少女達の絡みは周囲の注目を一身に集めた。SNSがこの時代に流行していたら間違いなくバズっていただろう。めらぎはというと、見られてする行為が気持ちよかったのか……地元から一時間近く慣れない電車に揺られていたのに満足気な表情をしていた。おっさんに蹂躙されたがったり見られると恍惚としていたり、お嬢様の破滅型思考は留まる事を知らない。
「ここが貴女を魅了している『あにめ』とやらの『せいち』ですのね? ……なんだか複雑な臭いが立ち込めていますけれど……」
秋葉原に来たのはめらぎたっての希望だ、どうやら俺の趣味を共有したいらしい。俺は俺でこのお嬢様に庶民文化を教え込む『お嬢様改造計画』に着手していたためにWin-Winなわけだ。
21世紀初頭の秋葉原といえば、アニメ文化が市民権を得始め電気街からオタクの街へと変貌する……まさに全盛期。古き良き秋葉原時代……そこら中に旧時代の格好をしたステレオタイプのオタクやメイド達で溢れている。
懐かしき本拠地へと足を踏み入れた俺は心安らいでいた。
「なにやら騒がしいですわね……」
街の喧騒もあるが、俺達が人波に入ると明らかに周囲のざわめきが増した。何処かで路上イベントでもやっているのかと思いきやーー原因は俺達だった。
「女神と天使っ!? ……ああああのっ、どどどこのお店ですかっ!?」
「【アスナロッテ様】と従いの【らぎいちゃん】ですよね!? 撮影いいですかっ!?」
「えっ、ちょっ……アシュナさん何なんですのこの男達はっ!?」
オタク達がここぞとばかりに一斉に群がってきたのだ。普段は借りてきた猫のように大人しいが、ホームだと途端にアクティブな獣になるのがオタクというものーーおっさんもその一人だからよくわかる。
「めらぎっ! こっちにっ!!」
「あっ……」
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オタク波に呑み込まれる寸前でめらぎの手を引き、建物の陰に逃げ込んだ。自分がオタクの目を引く美少女になっていたのを忘れていた……めらぎに怖い思いをさせてしまって申し訳ない気持ちでいるとーーそんな事気にも留めていないように、赤くなり、握った手を離さないように両手で包み込みながら言った。
「初めて……呼び捨てされて……それに、とても勇ましかったですわ……」
「あ、ご……ごめんなさい……あの、怖いならもう帰りますか……?」
「貴女が隣にいてくれれば平気ですわ、それに……あ、アシュナ……も見たいものなどあるのでしょう? 私もアシュナの好きなものを好きになりたくて来たのですから……この程度なんて事ありませんわ」
めらぎは気丈に振る舞っているようだ、その姿はとても愛しい。抱き締めたくなる衝動を抑えつつ、お嬢様との秋葉原巡りを開始した。
〈続く〉




