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32.女子高生(おっさん)の小説家デビュー?


 カランコロンーー扉を開くとそんな音が聞こえてきそうなレトロな喫茶店。

 場所は地元から電車で60分ほどの都市部、都内と地元のおおよそ中間地点。駅前だけを見ると、大都会と言っても差し支えないほどに様々な人が往来していくさまがガラス越しによく見える。


「やぁ~お待たせ~。一目でわかったよ~ナマで見てもめっちゃ可愛いジャン。【波澄アシュナ】ちゃん」

「は、初めまして! 本日はよろしくお願いいたしますっ!」

「そんな(かしこ)まらなくていいって~、奢るから何か頼みな」


 チャラそうな男が来店し、俺の隣に座る。テーブル席なんだから普通向かい側じゃないかーーという当然の疑問は黙認する。


 何故、(アシュナ)がチャラい男と都心の喫茶店で待ち合わせをしているかーーそれはこの男が以前、アシュナのホームページにコメントをくれた『極道出版社』の編集者であり、その後、『一度お会いしたい』と言われ、メールのやり取りをいくらかしたのちに冬休みを使い打ち合わせをする事になったからだ。


「そっ、それで小説の件なんですがっ……」

「んな焦んなって~、折角会ったんだからゆっくり進めてこうよ」


 そう言われ、気持ちを落ち着ける。

 確かに気が急いていた、なんせ夢見ていた小説家デビューが現実のものになろうとしているのだから。


 チャラい編集者は如何に俺の書いていた小説が素晴らしいか、商業化に向いているかを嘘臭いほどに褒めちぎり力説した。たとえ大袈裟に言っているとしても、全然悪い気はしないーーむしろ、気持ちいい。


「ーーじゃあアシュナちゃん、行くとしよっか」

「……え? どこに……?」

「あれ? 言ってなかったっけ? うちの編集長が会いたいっつってるから顔通しだよ。そんで専属契約してもらうって流れ、出版社はすぐ近くにあるからそこで諸々の書類を書いて手続きすっから」


 トントン拍子で話は進む。勿論、承諾した俺はチャラい編集者に連れられて出版社へと案内され着いていくことにした。


                   〈続く〉

 

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