30.女子高生(おっさん)のいる家族 Ⅲ
冬休みに突入したある日、俺にとって最も危惧すべき事態が起きてしまった。
家の風呂が壊れ、家族ぐるみで近くのスーパー銭湯に行く事が決定してしまったのだ。冬だし汗かいてないし少しくらい風呂なんか入らなくても平気、という俺の発言は絡みつく妹により無事却下され、為す術なく足を踏み入れてしまった。
〈スーパー銭湯『煩悩の湯』〉
「わー、ここ来るの小学校以来だねー……ってお姉ちゃんどこ行くの!? そっち男湯!」
「いや、あのおれ……私、男湯でいいかなーって」
「いいわけないよ!? 襲われちゃうよお姉ちゃん!」
「い……いやだいやだ! 私は男湯がいい!」
「ちょっ……小学生の男の子みたいなワガママ言わないでよ! しかも普通は逆だから! お母さーん! お姉ちゃんが狂ったー!」
何故、俺がここまで抵抗するか。
それは勿論、『性欲の暴走』を恐れているからだ。
世の男子諸君は想像してみてほしい、目の前にご馳走を並べられても見る事しかできない生殺しの状態を。
タダをこねていると、周囲にいた男達が顔を赤くして『是非来てください!』と言わんばかりの厭らしい目付きをして手招きしている気がした。流石に薄気味悪かったので仕方なく、俺は女湯へと突入する。
〈女湯 脱衣場〉
「もう、二人とも遊んでないで早く来なさい」
「だってお姉ちゃんが…………お姉ちゃん? 目つむってないでちゃんと歩いてよー」
「いや……あの……ごめ、ごめんなさい……」
「なんで謝ってるの……あれ、あんま人いないねー。昔はもっと混んでたのに……」
目を閉じ、妹に手を引かれながら女湯に入った俺は妹の言である事に気づく。
そうーーここは半田舎。都に隣接した県であるために過疎化の一途を辿っている。つまり、若い子などそうそういないのである。
このスーパー銭湯も国道沿いにあり、駅からのアクセスは不便。周囲にはパチンコ店くらいしかない。
つまり、もう、この銭湯にはおばあちゃんくらいしか来ない、というのは自明の理。
若い娘は銭湯なんか来ないだろう(偏見)という答えを導き出し、おばあちゃんならば見てもどうという事はない(失礼)という考えに至り、俺は目を開けた。
そこにはマナとお母さん、予想通りに数名のご高齢の方しかいなかった。
(よ……よかった……これなら大丈夫そうだ……)
と、安堵した瞬間ーー入口から数人が押し寄せるように入ってきた。
「わー、広ーい。思ってたより綺麗だねー」
「でしょ? 伊達に〈銭湯めぐりサークル〉の部長やってないよ。下見にまで来たんだよ、凄く遠かった~」
「『都心女子大』からだと一時間かかるもんね、部長頑張った偉い偉い♪」
なんと、女子大サークルの皆さんが、運悪くおじさんと同じ日にやってきてしまったのだ。
「ごめんなさいっ!!!」
「お姉ちゃん!!???」
俺は脱衣場の洗面台に頭を突っ込んだ。
〈続く〉