29.女子高生(おっさん)と女子達 Ⅲ-②
呆然とした俺とヒマリを気にする事もなく、男は続ける。
「俺にもヤらせてよ。そのためにわざわざ来たんだからさ、いい場所知ってるから行こーよ」
こちらの返事など待たず、男はヒマリの細腕を掴み引っ張る。ヒマリはと言うと、事態に直ぐに反応できていないのか為すがままに引かれる。そう、普段からヒマリは反応が少し遅いーーおっとり天然なのはキャラ付けではなく地なのだ。
故に、『どちら』なのか直ぐに判断できなかった。
ヒマリが噂通りの人物で、この状況とこの男を受け入れ嬉々としているのかーーそれとも嫌がっているのか。
「マジヤらせてくれんだ? いやー来た甲斐あったよ。ワンチャンいけるかと思って。大丈夫大丈夫、俺上手いってよく言われっからさー」
もしも、噂が本当で、ヒマリが誰彼構わず寝る人間なら俺が口出しする事じゃない。と、いうか関わり合いになりたくない。
(そうだ……ビッチは最も毛嫌いする人種だったじゃないか……ヒマリが本当にそうだったならーー)
ーーと、思考した瞬間。身体が勝手に動いていた。
ヒマリを強引に引く男の手を掴み、力づくで引き剥がす。幸い……俺の方が腕力があったようで簡単に捻ることができた。
男が苦痛に顔を歪め、痛がる声を発すると同時に胸ぐらを掴み、感情に任せて言葉を発した。
「くだらない噂信じてんじゃねえよ……ヒマリはそんな娘じゃない!!」
そう、まだ3ヶ月くらいしか一緒にはいないけど。
それでも、この娘がそんな娘じゃないくらいはわかる。
噂なんか関係無いーー友達として、自分の瞳で見たものを信じることにした俺は痛がる男を無視して続ける。
「ヤりたい女の子には正々堂々名乗ってモノにしろ! ワンチャンとか言って軽々しくヒマリを傷つけたらタダじゃおかないからな! 気持ち悪いんだよ! 二度と顔見せんな!」
そう言って、俺は男を突き離す。怯えた表情をして男は去っていった。
またもや、自分のことを棚上げして言ってしまったけどーーもう俺は噂なんかに惑わされたりしない。女の子として、ヒマリと友達になれたことを感謝した。
「…………」
当のヒマリはと言うと、潤んだ瞳をしてこちらを見つめたのちーー俺の胸に顔を埋めた。
そして、少し霞んだ声で、華奢な身体を震わせて言った。
「……えへへ、ありがとうアシュナちゃん……ちょっと……ぅうん、凄く怖かったんだー……アシュナちゃんがいてくれてよかった……」
やっぱり、この娘はそんな娘じゃない。かつて噂を信じた自分を恥じるーーと、同時に、これからは出鱈目な噂から守ってあげなきゃ、と心に誓う。
「やっぱりアシュナちゃんがいいなー……なんかお父さんみたいで……うん、アシュナちゃん……女の子同士だけど……私とえっちなこと……してみない……?」
うん、本当に出鱈目な噂なんだよ…………ね?




