219.女子高生(おっさん)の最終イベント『文化祭』プログラム⑨~夢の終わり~
神様にそう言って退けた瞬間──阿修凪ちゃんが抱きついてきた。
きつくしがみつくようにしておっさんの胸に顔を埋める仕草からは……その感情を読み取れない。恐らく涙ぐんでいるのだろうか。
「カッコつけて言うことじゃないですよっ!? 消えちゃうんですよっ!? なんでも『おっさんだから』で片付けないでっ!! バカっ!!」
「いいんだよ、俺は終わりじゃない。これで違う世界の違う自分が生きていける──そのための犠牲ならちっとも惜しくない」
「…………………」
そう言うと、阿修凪ちゃんは何かを考え込むかのようにフリーズした。
しかしその原因は俺の台詞によるものじゃない──と彼女の視線が少し下を向いていたことにより気付く。
気にしていなかったが……今の俺はアシュナになる以前のれっきとしたおっさんの姿──つまり、漢である。
久しく顔を見ていなかった『my son(息子)』が元気になっていたのだ。
どっかで家族に近しい人間には反応しないと書いてあったのに……違う世界の自分にはきっちり反応するらしかった。
これには阿修凪ちゃんもドン引き──しているわけではないようで……耳を真っ赤にさせながら、それでもその腕を解こうとはしない。
とてつもなく良い匂い、押し付けられる豊満な胸、真っ白な二の腕に太もも。
隅々まで知っている、いつも眺めていた身体だ。
手を出したくても出せなかった──いや、出してたんだけどね。なにせ自分だったから。
しかし自分であったからこそ、それは何処か夢の中の出来事のようであって、他人事のようであって、独り心地みたいなものであって……拭いきれない境界線みたいなものがいつまでも存在していた。
それが今は──俺ははっきり『男』として、彼女がはっきり『女』として、こんなにも自分を体感できているのだ。
我慢できるわけがない──改めて見ても世界一の美少女に密着しているのだから。
そんな心の内を、口に出さなくてもわかっていると言わんばかりに……上目遣いで瞳を潤ませながら頬を染めて彼女はこちらを見た。
「あ………あの……………………します………か?」
おっさんがしたい事を、なにも言わずとも理解している彼女は震えながらも……受け止めようとしてくれた。
自然と、どちらともなく唇は重なり合った。
鏡映しの自分──不思議とこの場所では、そんな隔たりは存在しなかった。
ここが神様の世界であることが関係してるのだろうか……とにかく理性は弾け飛び、俺が野獣と化すのは必然だった。
「……おじさっ………わ、私っ……初めてなので……っ!」
「誰よりも、よく知ってるよ」
「んっ……! おじさんっ……おじさんっ………!!」
俺達は、本当の意味で、今、一つとなる──
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──どれくらい一体感に浸っていただろう。
産まれたままの姿になった俺達は、時間という概念もなにもかもを忘れて重なり合った。
「──はぁ……はぁ……はぁ……んんっ……ちょ……いったん……いったんとまってくださぃ……も……もぅじゅっかいめ……しすぎですよぉ……おじさん……」
「はぁ……はぁ……ごめん……股……大丈夫……?」
「……まだヒリヒリしますけど……大丈夫です……ぁは、自分とするのって……不思議な感じですね……それにしてもおじさん、欲情しすぎですよぅ……」
「アシュナちゃんこそ………処女だったくせに途中から激しくねだってたじゃんか。自分から咥えたり、果ては飲んだり……これが伝説の処女ビッチ……」
「処女ビッチって言わないでくださいっ!おじさんが飲んで欲しいっていったからっ……!!」
「仕方ないじゃんか……久しぶりの息子と、男としての初体験……それを世界一可愛い子に捧げられたんだからそりゃあハッスルもしますよ……あ、ちなみにこの流れで俺が元の世界に帰る『本当の理由』……告白してもいいかな?」
「え……この流れでですか? ぃいですけど……」
「……『おち●ちんが恋しくなった』からなんだ」
「……………はい?」
「いや………めらぎや他の女の子と百合百合してても気持ちは良かったんだけど……いつも『おち●ちんがあればっ!!』ってやきもきしてたんだ。たぶんだけど……『女』の部分を阿修凪ちゃんにもってかれてたからそこまでの快感を得られなかったんだよ……いつも心のおち●ちんが暴走寸前で……」
「……………それで、男に戻りたくなったから帰る決断をした……ってことですか……?」
「うむ」
「………………」
「………………」
「…………………ぷっ………ぁはっ……あははっ……なんですかそれっ………てっきりもっと深い事情があるのかと思ってたのに…………」
「いや、結構切実な問題だったんだけど……」
「………じゃあ、もう、戻らなくても、いぃですよね……? これからもこうして……わ、わ……私にだけ、使ってくれれば……いいんですから……」
「…………………………」
「……え? なんですかその間……」
「いや、なんか大事なこと忘れてるような……」
「やはり似た者同士──いや、同じ者同士じゃの。まったく………神々の神聖なる地でこんな事しとる人間はお主らが初じゃぞ……」
「「わぁっ!!? 神様っ!?」」
二人だけの世界に浸っていたら、横から声がとんできて俺と阿修凪ちゃんは同時に仰天する。
そういえば神様がいたのを忘れていた──と、いうかそもそも世界線問題の話の途中だった。
天海キヨちゃんは勿論、その隣にはいつの間にかのじゃロリの方のキヨちゃんもいて……夫婦は慈しむような、全てを暖かく見守る仏様のような眼差しで真っ裸の俺達を見ていた。
阿修凪ちゃんは慌てて脱いだ服を手に取り、真っ赤になって踞る──行為を全てを横から見られていたのを恥ずかしがっているのだろう。
しかし、迫る世界線問題の事を思いだしたのか……彼女は再び食い下がり始める。
「──神様っ!! お願いしますっ!! おじさんとこの世界を消さないでくださいっ!! 私……おじさんと一緒になりたいんですっ!! おじさんが記憶からも消えちゃうなんて……そんなのやだっ!!」
「……阿修凪ちゃん……」
一体になったからではないが……こんなにも自分を想ってくれる彼女を見ていると離れてしまうのが口惜しい──せっかく決めた覚悟が揺らぐのを感じている。
「……なるほど、確かに感じるのぉ……いやはや、最後の最期で道を拓くとは……お主、本当に恵まれた男じゃの。じゃが……あと一塩というところじゃな」
「…………?」
阿修凪ちゃんの懇願をそっちのけ、ダメ神の方のキヨちゃんは一人なにかを納得していた。
「なんの話? それより、阿修凪ちゃんを送る別世界線のこと……ちゃんと頼んだよ」
「………あー、その件なんじゃが……妻が『この世界線は消える』と言ったが──あれは嘘じゃ」
「…………………………………は?」
「ごめんニャ。ちょいと主さんらを試しただけでありんす。許してぜな」
もうなんなのかわからないくらいのキャラ渋滞を起こした神様は軽く頭を下げててへぺろした。
は? あんだけ引っ張っといて嘘?
じゃあ戻る世界が無くなったとか俺は消えるってのも全部ドッキリ?
「いや、このままじゃお前さんが消えるのだけは本当じゃ」
「それは本当なのかよ!!」
「だから試したんだニャ。『この能力』を得るに相応しい持ち主かを。けどたぶん大丈夫。貴方、とてつもなく優しいもの。さ、後のことはわっちらに任せて残りの時間を楽しんでおくんなさい」
わけのわからないキャラでわけのわからない独り言を言って勝手に納得した天海キヨちゃんが手を翳すと、段々と意識が遠退く──トイレからこの世界に来た時と同じ感覚だ。
と、いうことは阿修凪ちゃんの世界へと戻されるのだろうか──全然、なんの説明もされてないし全く意味がわからない。
「ちょっと!! 勝手に納得してなんの説明もなしに帰すんじゃない!! エヴァン●リオンのダメな大人たちかお前ら────」
そこで再度、俺の意識は途切れた。




