208.女子高生(おっさん)の最終イベント『文化祭』プログラム②~ 開会式~
「──一般来客の入場時間は正午からだ。各自、それまでも警戒を怠らないように。予定通り配置につけ」
「特級民間警護組織の威信にかけて……波澄阿修凪並びこの催しを通常運行させるのに全力を尽くすこと……」
「私たち制服組は周辺の警戒及び校舎屋上、門扉、裏庭、離れた衛星通信車で待機です。正午からは更に増援が来ますのでそれまでは私服組と無線で連携してください」
SPの【漆夜黒雨】【風神飾花】、県警の【神ノ宮神美】さんが大人数を率いて校舎裏の駐車場にて陣頭指揮を行っている。警備のスペシャリスト達が今日のこの時のために連携し、大々的な警備計画を練って準備を進めてきたのが伺える──総勢にして150名はいるだろう皆がみんな『人類に心臓を捧げよ』みたいな壮絶な覚悟を表情に滲ませており……辺りは物々しい雰囲気に包まれている。
果たして、これは本当に学校の一イベントの光景なのだろうか。
この警備計画の依頼主であろう校長【龍宮寺乙姫】が全員の前に立ってマイクを握る。校長特有の長い挨拶や前口上をそこそこに──より一層に顔を引き締めて語り始めた。
「──永い我が校の歴史を振り返ってみても、これ程の大きな試練は初めてだろう……本日皆に負ってもらう使命はいわば怒涛に押し寄せる荒波から世界遺産を一切傷つけずに守り抜くような無茶な闘いだ……無事で済む保証はない……………だが、決して退くわけにはいかない、生徒達と、その記憶に生涯残るであろう想い出を守れるのは我等しかいないのだ。みな、その命を賭して任務にあたってほしい」
いや、大げさ。
いまからやるの文化祭だよね? 巨人に立ち向かうわけじゃないよね?
「私の言だけではその覚悟が揺らぐ者もいるだろう……そこで、生徒を代表して【波澄阿修凪】さんに激励を贈ってもらい挨拶を締めくくろう──以上」
「…………え゛っ!!??」
突然の無茶ぶりな指名に、阿修凪ちゃんは面食らってしまったのだろう………めっちゃ低い声でおっさんみたいなマジの『え゛っ??』を繰り出した。
相変わらずこの校長はろくな事をしないなと思ったが、既に身体の主導権は俺にはないのでまさしく対岸の火事である。阿修凪ちゃんの心から校長へ向けられる呪詛がもろに聞こえてきてちょっと面白かった。
『ぁぅぅ………ぇとぇと………ぁ…………ぅ』
〈何あれ……めっちゃ可愛い………〉
〈守ってあげたい……〉
〈彼女を守って死ぬなら本望だな……〉
〈ああ、そうだな〉
〈彼女の明日を繋ぐ事が、俺達の誇りとなるんだ〉
マイクを渡された阿修凪ちゃんはオーバーヒートして一言も発せられなかったが……その挙動が功を奏したのか兵士達は決意をその心臓に刻んだ様子だった。
しかし、おっさんだけは知っている──そんな兵士達とは対照的に……彼女の心の内では『帰りたい』『なんで私がこんな目に』『人類みんな滅べばいいのに』とネガティブワードが連呼されていたことを。




