207.女子高生(おっさん)の最終イベント『文化祭』プログラム①~登校~
「お姉ちゃん、後でみんなで見に行くからね」
「ああ、頑張りなさい」
「気をつけて行ってらっしゃい」
「──はい、行ってきます」
この季節特有の匂いと、空気と、家族みんなに後押しされて彼女は家を飛び出した。
しかし、その表情は何処か陰っていて……待ち受ける不安と恐怖に押し潰されそうになりながらも無理矢理に一歩を踏み出した挙動がそれを表していた。
これまで積み上げてきたものを大々的にお披露目するイベント──文化祭。その日が本人の気持ちとは裏腹に容姿なく訪れたのである。
自身の想いを語る術を彼女はまだ持たない──だからこれからの出来事を語るのは奇妙な居候と化した俺が担おう。
──そしてこれが、恥ずかしがり屋で、内気で、ネガティブだけど世界一の容姿を持つこの身体の持ち主……波澄阿修凪と、間借りしている別世界の波澄阿修羅が共に創る最後の記録だ。
*
「すぅぅ……っ……はぁぁぁ……っ」
──『ん? 阿修凪ちゃんも朝風呂した女子高生達の匂いを嗅ぐ習慣がついたの?』
「違いますよ!! 緊張してるから深呼吸してるんですっ!! 普通の人はそんな特殊な習慣ありません!」
様々な装飾で彩られる校門で、阿修凪ちゃんは周囲に人がいるにも関わらず叫ぶ。
そして、驚く周囲の面々も気にせずに校舎へと足取り重い様子で向かった。
よほど緊張しているのだろう──今日は内側にいるから彼女の緊張は嫌というほどに伝わってくる。
気持ちはわかる──なんせ彼女にとって初めての大舞台だ。それも様々な業界の重鎮達が大枚を叩いて観覧しに来るとなっては……張り詰めてしまうのも無理はなかった。
「すぅはぁ……すぅはぁ……」
──『心の準備が整うまで……代わろうか?』
「……大丈夫ですっ! おじさんに心配かけないよう精一杯やりますから! 見ててくださいっ!」
阿修凪ちゃんは気丈に振る舞って交代するのを拒否する。俺自身ももう表側に出るつもりはないからいいんだけど……この様子じゃとても心配だ。
実際、平静を装おうとしているが……そんな彼女は現在ノーブラである。
緊張のあまりに本人は気付いていない。
とりあえず可哀想なのでこそっと教えてみた。
「──ひゃあぁぁっ!? どうして言ってくれないんですかぁ!!」
──『いや、ハプニングがあった方が最終回っぽくなるかなって思って……ほら、け●おんの主人公みたいにライブ直前にギターを家に忘れて取りに帰る感じのドラマが産まれるかと……』
「逆に聞きますけどブラを忘れたからライブ直前に急いで取りに戻るような最終回で本当に良いんですかっ!? そんなのドラマチックでもなんでもないですよっ!?」
──というやり取りの後、時間に余裕をもって阿修凪ちゃんは家に戻ってブラを装着したのでけい●んみたいなドラマチックな最終回は望めなかった。




