21.女子高生(おっさん)vs学年主任(おっさん)
正門でひと騒動巻き起こしたその日の放課後、早速、学年主任【高原ガハラ】から服装指導という名目で生活指導室に呼び出された。
さすがに行動が早い、報復してやろうって魂胆が見え見えだ。
(ま、こっちには【切り札】……奥の手がある。最悪の場合、それを使って味方につけるしかない)
「失礼します」
「……ふーっ……ふーっ……」
指導室の扉を開き、入室すると……既にパイプ椅子に座る、呼気の荒いガハラの姿があった。その様はまるで椅子に座り興奮するオークだ。
着席し、にらみ会う。
普段は緩く着てはいるけど、スカート丈をいじっているわけでもないし、制服を魔改造してるわけでもないので、ボタンを留め格好を正す。これでとやかく言われる筋合いはない、欠点を見せて攻勢に出られると厄介だ。
口火を切り、先制攻撃を仕掛ける。
以前の男のままだったら、言いくるめられて為す術もないだろうけど今は違う。エチケットの欠片もないおっさん同士、しかも俺は身体が女の子。アドバンテージはこちらにあるのだ。
「あの」
「ふーっ……ふーっ……【波澄アシュナ】、今朝言ったことは本当か?」
発言を許すまい、と、ガハラは意味のわからない質問を被せる。まずい、このままでは場の主導権を握られてしまうーーそう感じた俺は、語気を強めにして冷静に答えた。
「そ、そうですけど? それがなにか?!」
「……ふーっ……ふーっ……ふひひっ……」
余裕を取り戻したかのように、ガハラは薄気味悪く笑った。
何か相手の思惑に乗ってしまったのだろうか、これはいけないーーそう思考した刹那、ガハラは予想外の答えを返した。
「ふひひっ、ぼ、ぼくの体臭を好きだと言ってくれたのはアシュナ君だけだよ~。そ……それにぼくに嫌がらずに近寄って……まるで同僚みたいに接してくれた女性もアシュナ君が初めてだ……アシュナ、いや、アシュナ様! ぼくはこれから君だけを見る君の下僕になりますっ!! だ……だから道具として扱ってほしいぶひよ!」
実際に『ぶひ』などとは言ってはいないが、這いつくばりながら俺の内靴に頬を寄せるガハラからはそんな語尾が聞こえてきそうな有り様だった。
切り札全く必要なかった、なにこれヤバい。