おまけ.女子高生(おっさん)の叫び
中年オーク騒動が収まり、ヒマリの件が一旦の解決を見せたその後──俺とミクとヒマリは指導室でくんずほぐれつプレイを堪能していた。
以前、学校の教室内はえっちな事をする場所ではないと自分を戒めたが百合行為に至ってはその限りではないのだ。なんといったって女の子様なのだから。
「ミク……ギャルでいてくれてありがとう……違う世界線で挫けずにいられたのはミクのおかげだよ。……と、いうわけでお礼に……」
「ひゃあっ?! アシュナっちわけわかんない事言いながら乳首触んなしー!」
「あはは、やっぱりアシュナちゃんはおじさんっぽい方が合ってるよねー」
「えぇ~……そうかなー……? 前々から薄々感じてたけどヒマリんってもしかしてオヤジ好き……?」
「う~ん……そうなのかも……アシュナちゃんと仲良くなってからはそうでもないけど~……まえは40代くらいの大人のおじさんがタイプだったりしたから……」
「なんていけない娘だ……おじさんが正してあげなくては」
「やぁんっアシュナちゃんっ……!! いきなりそんなとこっ────!」
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プレイを堪能したその後──夕焼け色に染まる空を見上げ、ノスタルジーに浸りながら帰宅路を歩く。
茹だるような暑さは収まり、寒さが直に到来することを感じさせる匂いを含んだ風が通り抜けた。
一年のうちにほんの少ししか顔を見せないおっさんの一番好きなこの季節は、人の心をちょっとだけセンチメンタルにしてすぐに過ぎ去ってしまう。
昨年は色々ドタバタで情緒もへったくれも感じている余裕が無かったけど……この世界を去ることを決めた今は強すぎるほどに心に入り込んでくる。
そんな想いに感化されて、普段はしない寄り道をしてみることにした。
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波の音だけが鼓膜を揺らす。
橙色だけが視界を照らす。
潮の香りだけが鼻腔を擽る。
ここ以上に感傷に浸る美少女が似合うスポットは他にないだろう──地平の向こうには空以外存在せず、纏う空気は清涼感以外存在せず、奏でられる音色は水の音しか存在せず……世界には俺しか存在しない場所。
砂がつくことなど気にもせず、胡座をかいて座る。白い砂浜に白い太ももが同化した。
「……綺麗だなぁ」
世界を視界に焼きつけておこう──もう二度と戻ってこない、この唯一な世界を。
──{阿修羅…………}
「……………あ、キヨちゃん」
どれ位座っていたのだろうか──キヨちゃんの声が内側に響いて虚空を泳いでいた視点を覚醒させると辺りは薄暗くなっていた。
「…………これ、元に戻る影響……?」
──{……そうじゃ、お主と阿修凪は融合しつつあるからのぅ……一気に引き剥がすと精神が崩壊してしまう。故に少しずつ解離させておるから……お主の時間はたまに飛ぶ時があるのじゃ}
「あっぶな……周りに誰もいなくて良かったよ……」
そう、元の世界に戻るのを決めてから阿修凪ちゃんが寝てるのを見計らって……俺はキヨちゃんと共に着々と帰還準備を進めている。
どうやら俺と阿修凪ちゃんはこのままだと精神融合して一つの人格になってしまうらしく……それを避けるためにキヨちゃんは少しずつ引き離す作業をしているようだ。
そして、それは俺の精神が着実にこの次元から去ることを意味していた。
「阿修凪ちゃんは寝てるよね?」
──{うむ、先ほどの情事で疲れ果てたのじゃろう}
「知ってる、あえぎ声が凄かったから……ホント、危なかった。気づかれてないかな?」
──{案ずるな、まだ気づいてはおらんよ。お主が帰る本当の理由にはの}
阿修凪ちゃんと俺は身体の感覚も心も共有してしまう──故に、隠すのは本当に苦労する。特に今日みたいな事があった際には顕著だ。
「じゃあ……今は叫んでも良いよね……?」
──{……好きにすれば良い}
ちょうど、目の前は海だ。
「───────っ!!!」
俺はありったけの想いで、叫ぶ。
その声は闇の中へと呑まれ、神様以外には届くことなく消えていった。
「…………よしっ!!」
その想いをまだ心の内でも語ることはしない。
いつどこで阿修凪ちゃんが聴いているかわからないから。
「……あっ、しまった……バンド練習に行くのすっかり忘れてた………」
携帯を見ると、ヒナ達から鬼電がきていた。
……まぁいいか。阿修凪ちゃんを起こしてあとは彼女に任せよう。
おっさんがしてやれる事は、もう見守るだけなのだから。




