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198.女子高生(おっさん)と約束⑥



 ヒマリは怯えていたが、制服をかけると落ち着きを少し取り戻す。高原を改めて確認してみると、どうやら体の殴打痕以外は全てかすり傷で、流れていた血は擦り傷から発生した僅かなものだった。

 学生時代の自分の非力さが恨めしいというか……まぁここで瀕死にしてしまってたらヒマリとの話し合いどころじゃなくなっちゃうので救われたというか……とにかく、気絶して(うな)っているだけの様子だった。


──『大丈夫なんですね……? びっくりしましたよ突然襲いかかるから……事情が事情ですけど暴力は駄目ですよ』


「ごめん、ヒマリが襲われてるのかと思ったらつい……」

「………ぁ、ぅん…………大丈夫…………ぁ……ぇーっと……は、はずみくん? だったよね…………」


 阿修凪ちゃんへの返事を自分への返事と捉えたらしいヒマリが恐る恐る答える。ヒマリにとって阿修羅は苗字すらうろ覚えな存在らしく少し哀しくなる。


 しかし、助けてくれたという事実から態度が柔らいだのか……彼女の口からゆっくりと真実は語られる。


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「──ゎたし…………高原せんせーにずっとえっちな事いっぱいされてて………」


 隣で語るヒマリの匂いと格好と言葉に、『今はそんな気分になっちゃいけない不謹慎だろ』と思いつつも、男の性は無情にも反応してしまう。

 助けてくれた存在とはいえ、よく知りもしない男子相手に言葉を選ばず情事を晒してしまうのは……ヒマリの人柄や性質がどの世界でも変わらない事実を示していた。


「………いつから?」

「……一年生のときから……せんせーに勉強の相談とかしてたら……最初は太ももを触られて……それからおっぱいを触られるようになって……お股に指をいれられてそれから……」


 かつて噂された『高原にしつこく標的にされてる』女生徒とはどうやらヒマリの事だったようで……それから何度も呼び出されてはえっちな事をされ続けたと言って……ヒマリは体育座りで膝に顔を埋めた。


「そのうち学校だけじゃなくて外でも呼び出されるようになって……高原せんせーのおうちとか……ホテルとか………そこで……」

「も、もういいから……わかったから……」


 俺は再び高原を睨むように見据える、この淫行野郎……ヒマリにそんな事までしてやがったのか。

 やりきれない気持ちが胸の奥に蔓延した──どうして気づいてやれなかったのか、と。その想いは阿修凪ちゃんも同じようで狼狽している様子だった。


 俺は阿修凪ちゃんを慰めるように、自分を落ち着けるように心で語る。


──『………………』


(……たぶんだけど……最悪な事には至ってないよ)


──『…………こんな事されてるのに、どうしてそう言えるんですか……?』


(このオーク野郎、※※※※で※※だから)


──『………………へっ?』


 それは、この時代で高原と相対した際に使用しようとしていた『切り札』。

 阿修羅の時代に偶然知った高原の秘密……それを聞いて阿修凪ちゃんはきょとんとして言葉を失った。卑猥な言葉に照れているのかもしれない。

 差別用語なので詳しくは語れないが、世の男性諸君は男性が『最後まで』至れない事情を推して量ることができるだろう。


 とは言え、単なる推測でしかないし、ヒマリにそれ以上突っ込んだ話を語らせるのは酷すぎるから聞けないし、このオークがセクハラを行っていたのは紛れもない事実だ。同情の余地は微塵も無い。

 ヒマリはどんな行為をされていたのかまで詳細に語ってくれたが……あまり耳に入ってこなかった。


 そして……目を覚ました高原(無論、縛り上げた)を詰問した結果──件の噂についての真相も解明された。


 噂はこのオークが流したものだった。

 理由は一つ──ヒマリとの淫行が表沙汰になった場合の自分へのダメージの緩衝材。

『彼女は誰とでも寝る』と流して噂になればいざという時に言い訳が立つと考えての愚策だったらしい。

 要するに『ヒマリ自身の意志』若しくは『彼女から誘ってきた』と同意と共感を得ようとした──という理由からのようだった。


──『……っ、最低ですね………』


 阿修凪ちゃんは(いきどお)る、無理もない。

 この豚野郎にはもう人間を名乗る資格すらない。


「……証拠は収めたからもうどうにでもできる、あとはヒマリがどうしたいか決めて」

「ぅ……ぅひ、波澄ぃ…………こ、こんな事してただで済むと思うなよぉ………ふひひっ」


 この期に及んで、オークは強気な姿勢を崩さない。恐らく陰キャで気弱な生徒の一人と認識されている──舐められているのだろう。

 確かに……ここは学生という身分の世界。俺自身にとっては夢の間でしか認識できない無数あるパラレルワールドとはいえ、この先の阿修羅の人生を考えると無茶はしない方がいいかもしれない──


「もう口を開くなよ●●●野郎……」


──なんて、躊躇(ためら)うわけがなかった。

 別世界の阿修羅(おれ)だって、きっと許してくれるしきっと同じ事をする。なんたって自分なんだからよくわかる。


 露出した粗末なものに、俺は足を置き。


「ふぎっ………!?」

「残念な事に、今の俺はお前と同年代だよ。おっさんがあらぬ誤解を受けてる原因を作り出してるのはお前みたいな中年が蔓延(はびこ)ってるからだ。二度とセクハラオヤジが産まれてきませんように」


 そして、思い切り、踏み抜いた。
















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