195.女子高生(おっさん)と約束③
──夢世界にて阿修羅に戻った俺は、クラス内で唯一アシュナ憑依時と変わらず接してくれるギャル様のミクから【ヒマリ】の様子を窺うことにした。
「ねー、その前にちょっち聞きたいんだけどさー……【ヒマリん】の噂を知って狙ってるとかそーゆーんじゃないよね?」
ミクは机にお尻を乗せながら、身体をかがめて牽制するかのように顔を近づけてきた。男の体に戻ってそんな事されたもんだから股関が瞬時にエレクトロニクスしてしまい、思わず前屈みになってしまう。
ヒマリの噂とは──かつて気を揉まされた……根も葉も無い『ヒマリは誰とでも寝る』というやつだろう。
ミクのこの威圧はきっと、その出鱈目に群がる獣どもを排除しようとするものだ。
しかし、友達としてヒマリと共に過ごしたおっさんはもうそんな噂を一ミリも信じていないので堂々と答えた。
「違うよ、噂なんて信じてない。ちょっと聞きたいことがあるだけだよ」
「………………」
ミクは俺の瞳をこれでもかと直視する。
2000年代では珍しい(?)、ナチュラルメイクなギャルのミクの眼は紅い。カラコンだろう。まるで真実を見透かす眼のようだ。
「………んー、嘘はついてないっぽいね。んで聞きたいことって?」
「いや……樋廻さんなんか最近様子がおかしいっていうか……元気なくなったような気がして……」
「…………あー、ね。よく気付いたね、オタクくん。でもそれはヒマリん自身の問題だからさー……」
「何か知ってるなら教えてほしい」
「なんで? オタクくん別にヒマリんと仲良くないし喋ったこともないじゃん。なんで気にすんの?」
尋問して白状させるかのように、ミクは質問には答えようとはせずにすかさず疑問を呈した。確かにもっともな疑問だ。
「……」
『実はタイムリープして女の子になってヒマリと友達になったんだ』──そんな真実を口にしても何の効果もないのは火を見るより明らかだ。しかし、上手い言い訳も思いつかない。
おっさんの口をついて出た言葉は、かつて心に誓った約束だった。
「守ってあげたい──そう誓ったから」
「……………へ?」
ミクは固い表情を一瞬にして崩し、唖然となった。
いざ心の中で反芻してみると、なんて歯の浮くような台詞だろうか。イケメンか主人公にしか許されない台詞だろう。
しかし、こちとら中身は中年──どん引きされるような言葉など言い慣れている。しかもここは夢の中……このフィールドでおっさんの意思を阻むものなど存在しない。
そして──決して嘘じゃない本心だ。
かつて胸の中で震えていたヒマリを見て、心の中でした誓い──今果たさずに、いつやるべきか。
「………はは、そっか。うん、わかった」
そんな威風堂々とした物言いが功を奏して、ミクは姿勢を崩して少し微笑んだ。
余談だが、その刹那の動作に絶対不可侵領域は隙を見せ──豹柄の下着が垣間見えた。
「けど、あたしも事情は詳しく知らないんだよねー。だから心当たりくらいしか言えないんだけど」
「些細な事でも何でもいいから聞かせてほしい」
「……わかった」
一呼吸置くと、ミクはめっちゃいい匂いする身体を寄せ付けて俺に耳打ちする。なんでこんないい匂いするのか不思議でならない。
しかし、鼓膜を通じて脳に刻まれた言葉は……下着もフェロモンも遮断されるほどの、嫌な現実性を孕んだものだった。
「学年主任の【高原】、あいつに何度も呼び出されるようになってからなんだよね……ヒマリんがおかしくなったの」




