189.女子高生(おっさん)とido(イド)
「──あ、夜分遅くに申し訳ありません。私、キュンキュンレコード所属の音楽グループ【アオアクア】で歌手をしている【イド】と申します」
「あらあらいらっしゃい美形さん。阿修凪の仕事関係の人ね?どうぞあがって」
「母さん!! 阿修凪! どういうわけだ!? こんな時間に若い男を部屋にあげるとは──!」
「お母さんっ!? お姉ちゃん!? なんで芸能人がうちに来てるのっ──!?」
人々が一日を終えて寝静まり始める未明の刻──波澄家は混乱と喧騒に包まれる。今や絶大な人気を誇るロックバンドの顔ともいえるボーカルが片田舎の民家に来訪すればそうなるのは必然だった。
(阿修凪ちゃん……説明しておいてって言ったのに……)
----------
-----
──『……えっ!? イ……イド様がうちに来るんですかっ!?』
本日から本格的に、文化祭に向けての練習と【アオアクア】新曲づくりが平行してスタートする。
日中を阿修凪ちゃん、それ以外の時間をおっさんが担当する事により文字通りのオールフル営業を可能にできる憑依体ならではの荒業だ。
「うん、中身がおっさんと言えど女子高生ってことを忘れてて……『仕事』になると深夜帯は労働基準法に引っ掛かっちゃうから……おっさんの家にイド様が来て楽曲製作するなら大丈夫──って話になって……」
──『その都度うちまで来て頂けるんですか!?どれだけ善いお方なんですか……』
「と、いうわけで母さん達に伝えておいてね。今夜からもう始めるから……おっさんはそろそろ寝ないと支障をきたすのでおやすみなさい」
──『えっ!? ちょっ……ま、待ってください! 何て説明すればいいんですか?! ……ってもう寝かけてる!? 寝つき良すぎですよおじさんっ!! お母さんはともかくお父さんの説得は無理ですー!! 起きてください~~っ……………!!!』
~~~
~~~~~~
~~~~~~~~~~~
──で、起きてイド様を出迎えたらご覧のありさまだった。阿修凪ちゃん……きっと父さんにどう言えばいいかわからずにざっくりとした概要だけを母さんにだけ説明したんだな。言いづらいことを丸投げしたおっさんも悪いけど、このコミュ障ムスメ……どうしたものか。
「やっぱり、さっきまでのアシュナは阿修凪本人だったのね。つまるところ──昼夜交代により体をフル稼働させる策かしら?考えたわね」
一を聞いて全を知る。
相変わらずの母の推察力は恐怖だったが、こういった状況ではなにもかもを察してくれるのはとても助かる。
「ほら、父さんとマナは適当にあしらっておくからそこのエルフさんを部屋までご案内しなさい」
イド様をファンタジー世界の住人と勘違いしながらも母は何も聞かずに後のことを請け負ってくれた。
「ありがとう母さん、あの、部屋はこっちです」
「う……うん、お邪魔するよ」
*
『自分の部屋に推しがいる』──令和ならそのタイトルだけで漫画化できそうなシチュエーション。そんな虚構は……今、現実のものと化していた。
最初こそは家族の反応に戸惑って申し訳なさそうに遠慮がちだったイド様も、いざと歌詞製作となると気持ちを仕事モードに切り換えて真剣な表情になった。
「あの……それで、聴かせて頂いた曲に合わせて歌詞を考えてみたんですけど……」
「─────!!! これはっ………凄いね……【アオク】の世界観を崩さず……尚且つ僕のイメージ通りの歌詞だ」
事前に書き記した歌詞をイド様に見せると、彼は驚愕していた。
それはそうだろう──これは別の未来での【アオク】の歌詞を丸々コピペしたものなのだから。つまりは元々イド様が考えた歌詞だ。
【アオク】の曲も歌詞も全て頭の中に入っているのでこれからリリースされる曲ならば全て歌詞を書き出せるのである。
「………キミは本当に不思議な子だね。何十回もやり直してようやく僕が辿り着いた未来の歌詞|を簡単に書けるなんて……」
「あはは、よく言われま…………………………えっ?」
「あっ………」
うっかり聞き逃してしまいそうな何気ない一言──きっとイド様も予期せず口にしてしまったものなのだろう。失言したみたいな表情をしている。
すると突然、キヨちゃんからの通信が入った。
──{……アシュナ、こやつ……普通の人間ではないぞ……神の息がかかっておる……お主と同じ、タイムリーパーじゃ……}
「………………………………へ?」




