185.女子高生(おっさん)の文化祭準備
「──えー、それでは来る『第36回君不問高校文化祭』へ向けて……クラスでの出し物を決めていこうと思います」
──残暑漂う二学期の始まり、未だ休み呆けも冷めやらぬままに……学校では次のイベントに備える準備が進められている。
「はいはーいっ! 絶対メイド喫茶っしょ! 姐さんがいれば売上とか億いくんじゃね!?」
「あんたが見たいだけでしょ、まぁ確かにいきそうだけど……そもそもお金儲けのためにやるんじゃないから!」
生徒達の関心をもっぱらに集めているのは……陰キャにとってこの上ない苦痛のつまらないイベント『文化祭』である。
現におっさんも、一年前の文化祭ではクラスと『阿修凪の身体』にまだ馴染んでいなかったから仮病休みをしたほどだ。まったく、やりたい奴だけがやるイベントにしたら良いものを……特にやることもなく疎外感を与えられる生徒の身にもなってほしいものだ。
そんな想いを余所に、騒ぐ口実を常に探している陽気な者達は我先にと鏑木委員長へと出し物を選奨していた。お決まりのメイド喫茶からお化け屋敷、模擬店、劇……なんの捻りも無い『とりあえず定番押さえとこ』みたいな羅列の文字が黒板を埋めていく。
「アシュナはなにかやりたいのないの?」
「えっ……う~ん……」
一つもない。
むしろやりたくない事しかない。
休んでもいいかな?
──と考えたおっさんではあったが……ヒナヒナが大声で聞いてきたからクラスの注目を集めてしまい、盛り上がっている空気を壊すような発言を堂々言えるわけないおっさんは考える振りをした。
(う~ん……この中なら女子のコスプレを堪能できるメイド喫茶だけど……それなら個人的にやってもらえばいいし……客とか男どもに女子達の可愛い姿を見せるのも嫌だし……)
劇は……絶対に主役を押し付けられるから却下だし。
迷路だとかお化け屋敷だとかコーヒーカップだとかジェットコースターとかは作るの面倒だからやりたくない。
模擬店も食べる側ならいいけど、料理なんてしたくないし嫌だ。
マジでびっくりするほどになんもしたい事がなかった。まだ勉強してた方がマシだ。
とは言っても、これから阿修凪ちゃんがクラスとの一体感(笑)を得るためには参加は必須だし……そうだ、阿修凪ちゃんにやらせればいいんだ。
そう思い至って通信したところ、強い力で拒絶された。陰キャ女子側の阿修凪ちゃんも絶対に出たくないらしい。こんな事でこれからやっていけるのだろうか。
すると突然、クラスの戸が叩かれ──何人かの生徒が申し訳無さそうに教室へと入ってきた。
見た事無い生徒達の後ろに、何故か校長である【乙姫】も連なっている。一体、何事だろうか……タイミングも相まって少しばかりの嫌な予感を抱くと──校長が口を開いた。
「えー……今年度の文化祭だが、軽音部がイベントの辞退を申し出た。そこで……アシュナ君。二年A組の出し物として……キミがバンドを組んで代わりに演奏してほしいのだ。楽器隊はキミに選出してもらい、他の者は衣装造りや舞台演出、広報役などのサポートをしてもらいたい。予算の上限はない、如何様にも応じる──以上」
以上。じゃねえよ。




