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184.女子高生(おっさん)のユメカナ②


「──アシュナ先生、落ち着いて。紹介しなくても知ってるだろうけど改めて言うわね。ロックバンド【アオアクア】のボーカルの【ido】さんよ。彼から直々にオファーしたいって連絡があってね……貴女がどれ程ファンであるかは聞いてたからサプライズプレゼントのつもりだったんだけど………その様子だと知らせておいた方が良かったかもね……」

「WATASINIidosamaga(私にイド様が)『offer(オファー)』!!??」

「はは………」


 初めて生で見る神様は──たとえるならアナログからデジタルにまだ移行もしてないこの時代で唯一4Kの解像度(テレビ)を有しているような神々しさを携えていた。綺麗すぎる。

 人物像もテレビやDVDの特典映像で見たままに、物腰が柔らかく丁寧でありながら、決してそれだけではないようなミステリアスさと妖艶さを併せ持つ──様々な意味で(ふところ)の深い人だった。まともに会話できず、あたふたしている俺を相手に笑って呼吸を整えるのを待っていてくれている──なんて善い人なのだろうか。


(ほら阿修凪ちゃん! 生イド様だよ! 少し代わる!?)


──『』


 阿修凪ちゃんにも呼び掛けるが返事が無い、ただの(しかばね)と化したようだ。まったく気絶してしまうとは情けない。嬉しいのはわかるけど。


 しかし、いつまでもこんなオタムーブしていてはイド様も呆れ返ってしまうだろう。

 気持ちを落ち着かせ深呼吸して、改めてオファー内容を伺おう。


「あ……えと、それで……どのようなオファーなのでしょうか? 勿論、若輩の身ですのでどんな仕事でも全力でやらせて頂きますがっ!」

「あらアシュナ先生、それならハリウッド映画化のオファーも……」

「それは絶対に受けません、お断りしてください」

「ええっと……まずはどこから話せばいいかな。君の小説は勿論、拝読させてもらったんだけど……凄く感銘を受けてね。僕の思い描く理想の世界に似通った部分が沢山あって……ストーリーだけじゃない。君が紡ぐ詞のような文章にも共感してね……是非、一緒に仕事させてほしいと思ったんだ」


 イド様はまるではしゃぐ子供のように、如何におっさんの書いた小説が素晴らしいか力説する。自分の好きな有名人が自分の作品を誉め称えてくれている──これ程までに嬉しいことはなかった。


「それで──ファンの子にこんな姿を見せるのはちょっと心苦しいんだけど……」

「?」

「実は……いまスランプに陥っていてね……普段、作詞は僕が担当してるんだけど……どうしても次の曲の詞が浮かばないんだ。僕達は『虹のように色とりどりな音楽性』を信条にしてるんだけれど……」


 そう、【アオアクア】はハワイの言葉で『虹』。

 バンド名に掲げているように、【アオク】ほど幅広い色を持つ楽曲を産み出すミュージシャンは他にいない。

 ロックを基礎に、ニューウェイブ系、時にはジャズ調だったり、ハード、スラッシュのメタル、コア……そしてポップスやバラードなどその音楽性は枠には収まらない。それは四人の個性的なメンバー全員が作曲できるからであり、【アオク】の強みとなっている。


 しかし、作詞はボーカルのイド様だけが担当していて……それぞれの楽曲の色に合わせた歌詞を産み出すのに相当苦労している、と彼は苦笑いしながら語った。

 確かに、様々な世界観に符号しつつも尚且つ芯を崩さない文を紡ぐのは想像以上に難しい──と、『世界を創り出す』という点に至っては似通った立場である俺は深く(うなず)く。


「実を言えば……それで自分の力に限界を感じて【アオク】を解散しようとも思ってたんだ」

「………えっ!?」

「けど、せめてやれる事をやってやろうと思ってね……そこで阿修凪さんに力を貸して欲しいんだ。僕と同じ感性を持つ君ならきっとイメージ通りの詞を与えられるはずだと思ってる」

「勿論やらせて頂きます!」


 二つ返事で、俺はイド様の頼みを請け負った。

 考えるまでもない──重責だろうが何だろうが、断るわけがない。


「あと皆で踊るっていうコンセプトのMV(ミュージックビデオ)にも出演してほしいって話もあるんだけど……ダンスは苦手って聞いてるからそこは無理には……」

「絶対やります、ダンス大好きですっ!」

「あら、アシュナ先生。ダンスやるんだったら色んなアイドルグループから熱烈なオファーがひっきりなしに来てるんだけど……」

「やるわけないでしょう、常識的に考えて」

「はは……とにかく良かった。これから宜しくね波澄阿修凪さん」


 この世界を去る前の思わぬサプライズプレゼント&ラストクエストに心踊らせながら、イド様と握手を交わす。


 絶対に叶わないと思ってた。

 自分を救ってくれた音楽を創った人達に、いつの日か恩返ししたいと思ってた──ただの冴えない中年にそんな事できるわけがない、と。

 だからせめて、ずっと(いち)ファンとして応援し続けようと思ってた。


 今こそ、この最強の求心力(アシュナのちから)を【アオク】に還元する時が来たんだ。


 おっさんの、最大のユメをカナえる時が。



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