181.女子高生(アシュナ)のルーツ ※解説『女子高生(おっさん)』
──春、桃色の雪が新緑の芽吹きを歓迎するように風に舞い踊り狂う。暖かな日の光がそれらを優しく包み込んだその光景は、前途に多難も希望も待ち受けている新しい命達を励ましているようだ。
「おはよー、ねぇ聞いた? 新入生に噂のあの子がいるってはなし」
「知ってるー、『南中の女神』って呼ばれてる娘でしょ? 入学式で話題になってたけどアタシ見てないんだよね。どんな子だろーね」
「所詮チューボーレベルだし、大した事なかったら笑っちゃうよね。調子コいてたらアタシらがシめてあげよっか」
「いいねそれー、高校の先輩からの洗礼ってやつ教えてあげよっか」
そんな運命の始動に浮き足立っているのは希望に満ち溢れた新入生だけではない。新たに仲間として加わる一年生を慈愛の心で迎えようとする在学生も、その出会いを心待ちにしていた。
既に校門前には在学生達の列が出来ている。
『部活動の勧誘』という名目でその群衆は形成されているらしいが……そんな目的を持つ者は誰一人としていないだろうことは瞭然だった。
お目当ては『無垢なる果実』
汚れを知らない可愛らしい新入生達と、ワンチャンお近づきになりたいという穢らわしい欲望が内在しているのは明白だ。しかも今年度は『超絶美少女』が入学してくるとあってほぼ全ての在学生が登校日初日に校門へと集っていた。まったく、クソ共は他にする事はないのだろうか。
しかし、たとえ建前であっても……右も左もわからない新入生達にとって懇切丁寧に話しかけてくれる存在というのは有難いものではあるのも確かで……事実、皆のお目当てである美少女は今、おっさんの横で『恥ずかしかったけど有難たかった』と言っている。
「マジ調子コいてたら潰すから」
「あはは、リナ怖すぎんだけど」
だが……全ての在学生がそんな愛情を持ち合わせているわけではない。
心無い者達にとっては話題性抜群の美少女の入学など手放しで肯定する事はできないようで……何かしらの粗を見つけてやろう、と否定的な感情の捌け口の的にしようとする者もいた。
「お、おい来たぞ!! あの子だ!」
全員の注目が一点に集まると同時に、桜の花びらが視線の先へと導かれる。全ての存在が彼女の登場を望んでいたのが窺える。
「どれどれ? どの芋くさい女──」
前振りかのように悪態をついた女学生の時は……停止した。
この世界には、必ず『本物』が存在する。
議論を挟む余地すら与えさせない──纏う空気だけで他を圧倒する『本物』たる存在が。
その美少女の美は──間違いなく『本物』だった。
満を持して登場した彼女に、声を失った群衆はただただ見蕩れる事しか出来ず……立ち尽くした。
案山子と化した雑踏の隙間を、美少女は悠然と闊歩する──おっさんの隣で語る美少女曰く『緊張しすぎて逆にゆっくりしか歩けなかった』らしい。
「……っ!ちょっ……ちょっと待てよ!! アンタが『南中の女神』ってやつでしょ!? あんま調子乗ってんじゃ──」
それでも執念からか辛うじて我に帰った女学生が、美少女の行く前に立ちはだかった。
しかし、女学生は後悔する。
どう足掻いても勝ち目の無い存在相手に噛みついてしまった愚かさに。完璧を目の当たりにして否応なく感じさせられた自身の矮小さに。
『本物』は冷ややかな目線を女学生に送り……一言、ただ一言だけを呟いた。
「──退きなさい」
その言葉に、女学生は道を開ける他にないと感じたのか──ひれ伏し、諦め、従った。
一分の隙も無く、一点の曇りも無く、一抹の勝算すらもどこにも無いと本能で悟ったのだろう。
おっさんの隣で寝ている美少女曰く、『前日に見たアニメの女王様に影響されちゃって……』らしい。
拓かれた浄光に照らされた桜のカーペットが、彼女の行く道を祝福していた。
【氷の女帝】──波澄阿修凪、女王たる風格を携えた彼女が高校に足を踏み入れた歴史的な瞬間の光景である。
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──『おじさん、私の過去を見るのはいいんですけど……その大げさなナレーションはやめてください……恥ずかしいです……』
いや、見たまんまを伝えてるだけだけど。
──『誰にですか……あと、ちょくちょく『おっさんの隣で』って挟みますけど……まるで、わ……私が……その……おじさんと……そういうことを終えた後みたいに……』
ピロートークね、実際、隣にいるし精神体だから裸みたいなもんだし同じでしょ。
──『同じじゃないですっ!』




