177.女子高生(おっさん)とコミケ③
〈???〉
「──えっ!? す……すっぴんなんですかっ!? 嘘でしょ!?」
「うわー、自信なくすー……もうなんか女としての位が違いすぎるよねー」
「ほら、話してないで急いで!」
2,5次元の可愛い子ちゃん達に囲まれて、おっさんは今まさに別次元の存在へと進化しようとしている。
レイヤーさん達はそんなおっさんにこれでもかとおっぱいを押し付け、自身から溢れ出る最高級の香りをお届けしてくれる。
──これが、2.5次元の誘惑っ……!!
メイクされながら回想に浸る……何故、コスプレイヤーを見に来たおっさん自身がコスプレされているのかの発端を──
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-1時間前-
「うわーっ……生でレイヤーさん初めて見た!」
コスプレエリアにたどり着いた俺達を待ち受けていたのは──まさに、幻想の世界。
どこを見ても二次元の世界から飛び出してきたようなクオリティの高いレイヤーさん達と、それを囲うカメコ集団で溢れ返るこの場所はまさにオタク達にとっての幻想郷と化している。
「あああのっ……! 一枚いいですかっ!?」
「え? あ……いや、私……コスプレしてないんで……」
といったやり取りも、もう数十回は繰り広げている。汎用性の高い、麦わら帽子と白いワンピース姿だからか……なにかしらのキャラのコスプレと勘違いしたカメラ野郎たちにこぞって声をかけられまくっているのだ。
下手をするとレイヤーさん達よりもおっさんは注目を集めていた。
本気でコスプレしてる人達に申し訳ないので、ケン達にガードしてもらいながら見回っていると……オタク達の壁の向こうで、より一層の騒ぎが巻き起こっていた。
「なんの騒ぎだろ?」
「現在のレイヤー達の頂点──【きなこ】嬢が現れたのよ」
いつの間に二三四編集長が、険しい表情をして隣に立っていた。編集長は肉壁の向こう側で騒ぎの原因となっている人物の詳細をあますことなく教えてくれた。
企業コスプレイヤー【きなこ】──通称『現在、最も二次元に近いレイヤー』と言われるほどに抜群のプロポーションを誇る上に可愛さと美貌を兼ね備えた女の子で、コスプレ界隈にて知らぬ者はいないほどの有名プロレイヤーらしい。
大手企業に依頼され、これから人気が出そうな産み出されたばかりのキャラクターになりきる故に『最速のレイヤー』とも言われているとか。
『彼女がコスプレしたキャラクターは必ず人気になる』らしい……いわゆるインフルエンサー的な存在でもあるため、キャラではなく彼女が人気を作りあげているのではないか──と、議論を起こすこともしばしばあるようだ。
とにかく、カリスマコスプレイヤーという認識で間違いなさそうだ。
おっさん、コスプレには疎いし、この時代ではまだ関心の無い情報は拾い上げないと耳には入らないので存じ上げなかったが──それほどの可愛い女の子、絶対に見なければなるまい──という強い欲望がおっさんの好奇心を駆り立てる。
「会ってみたいのね? いいわ、彼女にはうちも依頼したことが何度かあるから……マネージャーに連絡とってあげるわよ」
「えっ、でも……いいんですか? 有名人なのに……」
「貴女も有名人じゃない。アタシも見てみたいしね、『二次元』と『二次元』の遭遇を……」
そんな未知との遭遇をしたエイリアンvsプレデターみたいに言われるのは心外ではあったが、アポを取ってくれてる編集長に期待におっぱいを膨らませていると……なにやら囲い集団が焦りの表情を見せながらざわついていた。
続き、電話をする編集長も焦燥した表情に変化する。
囲いの集団に何事か尋ね、その騒ぎの真相を知った俺と──電話口にてマネージャーに聞いたであろう編集長の口から漏れた一言が重なった。
「「【きなこ】さん(嬢)が……熱中症で倒れた!?」」